ていこう原理 14 戦時体制、独裁支持の民衆にならないで
- 2023年 2月 14日
- 時代をみる
- 長谷川孝
◆「お国のため」は命より重い軍事教育
2023年。タモリさんの「新しい戦前になる」という発言が関心を集めています。法政大学前総長の田中優子さんは「日本が戦時体制に入りつつある」と述べています(東京新聞1・15)。
ロシアでは今年から軍事教育が強化され、教育省が承認した新しい教育プログラムでは、自動小銃カラシニコフや手投げ弾の使い方、戦闘訓練などが含まれるとのこと。学校だけでなく愛国軍事キャンプでも、多くの子たちが軍事訓練を受けていると言います(毎日新聞1・9)。
こんなニュースを聞くと、戦前の軍国主義教育や、その中で育てられた「少国民」が思い浮かびます。小学生たちも、配属将校の指導の下で、木銃やナギナタでわら人形を攻撃するなどの軍事教練をさせられました。「お国のため」に死ぬことは名誉と教えられました。
軍事化された教育は、当然のことですが、「お国のため」の精神と、いのちを軽んじる態度を植え付けます。敵とされた人のいのちを奪うこと(つまり殺戮)も、いのちを惜しまず闘いいのちを喪うことも、英雄とされます。
◆「教育の敗北」による<新しい戦前>
戦前化、軍事体制化という認識は、敵基地攻撃能力(反撃力)などの両質にわたる軍拡(国会に提案する「案」ではない?)や、軍事予算の倍増など、政府(行政)の独裁的な決定に対するものです。しかし、すでにこうした決定の下地づくりが進んでしまっている世情も、影響しているように思われます。つまり国家(行政)による教育とメディアへの支配と統制です。
SNSで、こんな投稿を見つけました。
「安倍によって削除された『47教育基本法前文』にある『教育の敗北』は、あの戦争を止められなかったことから出発し、全ては『教育の力にまつ』として戦後教育が始まったはず。にもかかわらず、今日のこの国のていたらくは、再びその『教育の敗北』をした姿にある」
大改悪前の1947年制定の教育基本法の前文に「教育の敗北」の語はありませんが、まさに軍事独裁に支配され、軍国少年を育て、多くの若者を戦地に送り出した教育への深い反省が込められてぃます。改悪教基法の前文は、「(憲法の理想の実現は)教育の力にまつ」の削除だけでなく、「真理と平和」が「真理と正義」に変えられ、公共の精神が加えられ、「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化」が「伝統を継承し、新しい文化」とされました。国民〈教化〉の狙いが読み取れます。
ロシアでは、学校に基礎的軍事教育を導入することに8割の国民が肯定的、女子にもが7割余だそうです(毎日、同)。権力者には、理想の国民です。
◆憲法九条の土台は生活の安心安定
この情勢で憲法九条は「死んだ」のでしょうか。条文だけだとそうだとも思えます。しかし、九条の精神の土台は、尊厳ある個人の自立と個性ゆたかな生活の文化だと思います。ここで負けるわけにはいきませんが、生活の不安、不満が戦争や独裁になびく民意を生むのです。民主主義の落とし穴を塞ぐのは、文化です。
以前に絵本『せかいでいちばんつよい国』(光村教育出版刊)を取り上げました。「へいたいのいない」小さな国が軍事大国に征服されなかったのは、食、仕事、芸能、物づくり、まつりなど、生活文化の安定、安心と満足、自信と言えそうです。生活文化と自治から九条の精神を見直し、戦時体制化に抗したいものです。(読者)
初出:「郷土教育762号」2023年2月号より許可を得て転載
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