九州大学:洋上風力発電実証実験
- 2011年 8月 6日
- スタディルーム
- 近藤邦明
(2011/08/05)
このコーナーNo.626「工業技術評価:風力発電を例に」で紹介した九大の風レンズ風車の実証実験が行われるという記事が掲載されましたので、まず紹介します。
博多湾で洋上風力発電、九大と福岡市実験へ
九州大学応用力学研究所と福岡市は21日、弱い風でも効率的に発電できる「風レンズ風車」を用いた洋上風力発電の実証実験を今秋に博多湾で行うと発表した。風レンズ風車の洋上実験は初めて。福島第一原発事故を受け、太陽光や風力など自然エネルギーが注目されており、高島宗一郎市長は「福岡発の技術として世界に広がることを期待したい」としている。
同研究所によると、福岡市東区西戸崎の沖約600メートルの博多湾内に、風レンズ風車(直径3・6メートル、定格出力3キロ・ワット)2基を取り付けた六角形の台(直径18メートル)を浮かべる。風や波の影響や塩害への耐久性などを1年ほどかけて調べる。発電量は標準家庭1世帯の年間使用量の約75%。環境省の委託事業で費用は約5000万円。市は周辺海域で操業する漁協などに実験を周知して理解を求める。
風レンズは、日光を集めるレンズのように、風を効率よく集めるために開発されたリング状の特殊なカバー。同研究所では将来的に、大型の風車10基以上を玄界灘に浮かべる構想を持っており、大屋裕二教授(風工学)は「5年以内の実用化を目指したい」と話している。
(2011年7月21日 読売新聞)
実証実験プラントの諸元は次の通りです。
●風力発電装置:直径3.6m風レンズ風車×2基
●定格出力:3kW×2
●総費用:5,000万円
さて、このおもちゃのような実証プラントは、No.626「工業技術評価:風力発電を例に」で紹介した構想図とは異なり、通常の風力発電同様の1本の柱構造で支えられています。
これは小型であるから可能な構造形式であり、大型化したときには構造的に耐えられないことは想像に難くありません。 さて、問題のこの実証プラントの発電電力の原価、ならびにエネルギー産出比を推定してみます。推計の条件はかなり甘く、次のように設定しておきます。
●耐用年数:20年間
●設備利用率:25%
以上の条件下における、耐用期間中の総発電電力量は次の通りです。
3kW/基×2基×24h/日×365日/年×20年×25%=262,800kWh
この5,000万円には運転期間中のメンテナンスコストも含んでいるものと仮定すると、実証プラントの発電電力原価は次の通りです。
50,000,000円÷262,800kWh≒190円/kWh
これはべら棒に高い電力です。LNG火力の発電原価6.5円/kWhとすれば、実に30倍の価格です。
これは、東芝や三菱や日立など重電メーカーにすれば、単位発電電力量あたりでは原子力発電プラントの数倍の売り上げを得ることが出来る、実においしい発電方式だということです。
発電原価の20%が投入エネルギー費用だとすれば、38円/kWhになります。燃料石油を25円/リットル、その発熱量を10.5kWh/リットルとすると、1kWhの発電を行うために必要な投入エネルギー量は次の通りです。
38円÷25円/リットル×10.5kWh/リットル=15.96kWh
以上からこの実証プラントのエネルギー産出比は次の通りです。
エネルギー産出比=(産出エネルギー量)/(投入エネルギー量)=1kWh/15.96kWh=0.062
最新のコンバインドサイクル火力発電のエネルギー産出比は0.6程度にまでなっています。つまりこの実証プラントは単位発電電力あたりで、コンバインドサイクル火力発電の約10倍の化石燃料を消費しているのです。
このような、冷静に考えれば火力発電の代替システムとして全く無意味な発電システムの実証実験に対して研究予算をばら撒く国や、発電システムの新規性だけしか見ていない愚かな研究者たちによって自然エネルギー発電利権の構造が形作られていくのです。
「『環境問題』を考える」」http://www.env01.net/より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study405:110806〕
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