Global Head Lines:ファシズムの脅威増すドイツ、反ファシズムへの大きなうねり
- 2024年 1月 27日
- 評論・紹介・意見
- ドイツファシズム野上俊明
<はじめに>
ドイツの赤緑連立政権への不満から、ドイツ各地、というか旧東独地域でファッショ政党であるAfD(ドイツのための選択肢)の支持率が急増しているという。その一番の原因は、ドイツの寛容な移民政策への反発にあるが、さらにウクライナ戦争の影響で、メルケル元首相が構築した産業モデル――ロシアから安価な石油や天然ガスを購入して、圧倒的な工業力で工業製品を輸出したり、また脱原発政策を補完したりする――が行き詰ったため、このところ経済状況が悪化して、とくに旧東独地域では生活上の困難が増していることが背景にある。
本年は多くの州で選挙が予定されており、旧東独に属するザクセン州、ブランデンブルク州、テューリンゲン州の選挙では、AfDが第一党になる可能性が警告されている。多くの市民のナチズムへの憂慮が強まっている折も折、研究組織「Correctiv」が、1月10日、極右の「対独秘密計画」について報じたことで、人々の危機意識にいっきに火がついた。その秘密計画というのは、AfDの高官が右翼過激派や企業家、さらにはCDUのメンバーとが会談して、数百万人の移民をドイツから「追放する」ことについて話し合ったというのだ。以下、第二のホロコーストになりかねない陰謀が暴露されたことで、ドイツ全土津々浦々から抗議行動が行われたという報道を紹介する。
(1) ドイツ日刊紙Tageszeitung 1/20
ファシズム反対デモ:フランクフルトは安定を維持
――AfDは “欧州の中心 “ではロビー活動をしていない。フランクフルトのレーマーベルクに集まった3万5千人の人々は、明らかにこの右翼政党を拒絶している。
原題:Demonstrationen gegen Faschismus:Frankfurt bleibt stabil
https://taz.de/Demonstrationen-gegen-Faschismus/!5986751/
民主主義を守れ」のスローガンの下、AfDと右翼過激主義に反対するデモのため、
レーマーベルクに集まった多くの人々Photo: Andreas Arnold/dpa
フランクフルトのレーマーベルクは、あたかも「アイントラハト調和」がカップを獲得したかのように、あるいはサッカーの世界チャンピオンを祝っているかのように、満員になっている。旧聖ニコラス教会のファサードには、「あなたの土地に住むよそ者を虐げてはならない」という横断幕が掲げられている。これはモーセ第一書からの聖書の引用である。都市と国家の旗、そしてイスラエルとウクライナの国旗がローマからはためく。「民主主義を守れ――AfDと右傾化に対してフランクフルトを!」がこの集会のモットーであり、コアラ集団の気候変動活動家たちと、その他80のイニシアチブ、組織、政党が連携して呼びかけている。
ある少年が自作の看板を持ってきた。「僕たちはみんな違うんだ」と、彼は多様性と寛容を訴える。 右翼ポピュリストや右翼過激派を直接標的にする者もいる。ある老人は段ボール箱に「EkelhAfD」(ekelhaftおぞましい、に欠けている―N)と書き、別の看板にはナチス独裁の始まりを暗示する「It’s 5 to 33」と書かれている。「民主主義で眠る者は、独裁で目覚める!」隣人はこう警告する。
最初の演説者であるフランクフルト市のマイク・ヨーゼフ市長(SPD)はそう見ている。「今目をつぶれば、後で何も知らなかったとは言えなくなるだろう!」と、彼は叫び、万雷の拍手を受けた。壇上には、前任のCDUのペトラ・ロート、SPDのアンドレアス・フォン・ショーラーも加わった。ヨゼフはこのデモを、誇りと感謝の念を抱かせる力強いサインだと語った。フランクフルト市長は、コレクティヴの調査によって明らかになった計画を「計画犯罪」と表現している。司法も含めて、誰もがこの件に対して行動を起こすべきだ!」と彼は叫び、検察の捜査を要求する。「人類の敵の計画によって脅かされているのは、私たち全員なのです」と、5歳のときに家族とともにシリアを脱出しなければならなかったヨゼフは言う。「どこの出身であろうと、誰を信じようと、誰を愛そうと、私たちは民主主義者として共に立ち上がるのです!」とヨゼフは断言し、「私たちは人々を追い払うのではなく、この街に歓迎するのです!」と付け加えた。他の何人かの講演者と同様、ヘッセン州のパリティ福祉協会のジャスミン・アリニャーギ専務理事は、連邦政府とヘッセン州の新連立(社会民主党、左翼党)政府の孤立主義的な政策を批判した。「送還構想は必要ない!」とアリニャギは叫び、「我々の民主主義は危機に瀕している、転換点にあるのだ!」と警告する。
ジャーナリストであり、ドイツにおける黒人のイニシアチブの活動家でもあるハディア・ハルナ・オルカーは、「AfDの忍び寄る正常化」を嘆く。今回明らかになった「国外追放計画」によって、右翼の「自傷戦略」は終焉を迎えた。「私たちが祖父母の立場だったらどうしたかを、今ようやく知ることができるのです」と、彼女はポスターを引用する。「私たちは全員が多数派であり、黙っていません!」と、有名な司会者が同僚のエレオノール・ヴィーデンロート・クリバリとともに終わりに叫ぶと、数千人が唱和した。
マインカイとパウルス教会前の大きな広場も現在は超満員となっている。右派に反旗を翻すために集まった人数は35,000人と発表されると、大きな歓声が沸き起こった。 バンドOhOhOhsのテクノ・ビートがデモ隊を暖める。帰り道には、グループShantelの “Disko partizani “が演奏される。
(2)Washington Post 1/23
抬頭するドイツの極右勢力が清算を促す
原題:Germany’s surging far right provokes a reckoning
https://www.washingtonpost.com/world/2024/01/23/germany-far-right-alternative-for-germany-afd-reckoning-protest-future/
週末、国民の良心が動き出したようだ。ドイツ全土の都市で反ファシストのデモ隊が街頭に立ち、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)に抗議した。デモの発端となったのは、今月初めに発表された調査報告書で、AfDのメンバーが11月に極右過激派との会合に参加し、政権を取った場合の大量国外追放計画について話し合っていたことが明らかになった。
日曜日、ベルリンの帝国議会議事堂前で人種差別と極右政治に反対するデモが行われ、
参加者が携帯電話のライトを照らす。(Christian Mang/AFP/Getty Images)
それはかつてのような完全な架空のシナリオではない。AfDの支持率は22%で、現在の連立与党の中道・左派3党の支持率を上回っている。AfDは、これまで極右派との連立交渉を拒否してきたドイツの主流派政党がAfDの周囲に張り巡らせた「聖域」を破り、今年末の州選挙で政権を奪取する勢いだ。AfDの幹部が、移民や外国にルーツを持つドイツ人の強制送還を公然と考えていたことは、暗い過去を深く記憶しているドイツの多くの人々を恐怖に陥れた。反AfDデモには140万人以上が参加したと言われる。
ハンブルクとミュンヘンでは、予想を大幅に上回る人々が参加したため、集会は解散を余儀なくされた。全国からの空撮画像は、1月の厳しい気温をものともせず、街の広場や大通りを埋め尽くす大勢の人々を映し出していた」と同僚のケイト・ブレイディは報告している。「警察の発表によると、日曜日のベルリンでは、約10万人がドイツ連邦議会下院のあるライヒスタークの芝生に集まった。集会での看板やスローガンは、多くのドイツ人が危機に瀕していると考えていることを明確にした。横断幕は “ナチス “の再来を警告し、デモ行進者はアドルフ・ヒトラーとその同盟国が投票箱を通じて支配権を掌握した1930年代の遺産を呼び起こした。ベルリンでは、「みんな、一緒に、ファシズムに反対しよう」と唱和された。
非営利の調査機関Correctivによる調査報告書には、11月にベルリン郊外のポツダムのホテルで開かれた会合で、AfDのメンバーと影響力のある右翼過激派や裕福な企業幹部の同好会の間で交わされた広範な私的な話し合いの詳細が記されている。その中には、亡命希望者や居住権を持つ非ドイツ人、さらには「非同化」ドイツ市民を国外追放する「再移民」計画の話も含まれていた。極右過激派でオーストリアの「アイデンティティタリアン・ムーブメント」のリーダーであるマルティン・セルナーは、この集会に出席し、これらの国外追放者を北アフリカにある想像上の「モデル国家」に送り込むことさえ可能な「基本計画」を持ち出した。その提案が実現不可能であったにせよ、それは1940年にナチスが数百万人のユダヤ人をマダガスカルに強制移住させることを検討していたことと重なる。セルナーはかつて、2019年にニュージーランドのクライストチャーチのモスクで凄惨な殺戮事件を起こした白人ナショナリストのブレントン・タラントと連絡を取り合っていた。・・・(中略)・・・
元ナチス宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルス(左)とAfDの最有力候補ビョルン・ホーケを示すプラカードを掲げるデモ参加者(日曜日、テューリンゲン州)。(ヴォルフガング・ラッタイ/ロイター)
・・・(中略)・・・
連立与党への不満が高まっていることが、同党の世論調査での躍進の背景にある。「2024年が始まってまだ数週間しか経っていないにもかかわらず、ドイツはすでに大規模な農民の抗議行動に揺さぶられている。「この1週間だけでも、何千台ものトラクターが都市や高速道路を封鎖している。評判の良かった製造業の工場は閉鎖され、生産は他所に移されている。連邦政府は財政危機の打開に苦慮しており、緊縮財政の新時代を迎えようとしている。今週発表されたデータによると、ドイツは昨年、主要国の中で最悪の経済パフォーマンスを記録した。
こうした中、反体制を公言するAfDが勢いを増している。「AfDを追放せよという要求はまったく不合理であり、このような要求をしている人々の反民主的な態度を露呈している」と、ヴァイデル氏はポリティコ紙への文書で述べている。
タイムズ紙とのインタビューで、ヴァイデル氏は、AfDが今後の欧州議会選挙で好成績を残すと予想される数カ月後を、自信たっぷりに見据えていた。彼女は、英国に続いてEUを脱退する可能性さえ提起した。「EU加盟国の主権を再建できないのであれば、イギリスがそうであったように、国民に決断を委ねるべきだ。そして、”Dexit”-ドイツのEU離脱-について国民投票を行うこともできる。
今のところ、AfDの反対派は、極右勢力がその目標達成に近づく前に膝を打ちたいと考えている。「社会民主党のラース・クリングバイル党首は、先週の連邦議会での討論でヴァイデル党首にこう言った。「しかし、言っておくが、君たちの仮面は崩れ始めている。人々はついにAfDの素顔を見ることになった」
(機械翻訳を用い、適宜修正した)
<追補―あとがき>
この1月15日、ドイツ全土で増税や補助金カットの撤廃を求めて、農業者らが大々的に抗議デモを行い、首都がマヒ状態になるほどであった。大規模な道路の封鎖はハンブルク、ケルン、ブレーメン、ニュルンベルク、ミュンヘンなど東西の各都市にも及び、それぞれ2000台ものトラクターが集結した。トラクターやトラックの車列は抗議の横断幕を掲げるなどして早朝から道路を封鎖した。
このままいけば、AfDに追い風が吹き、窮地に追い込まれるかに見えたショルツ政権であるが、それに救いの手を差し伸べたのが、民間のSNSチェック機関である「コレクティーヴ Correctiv」―メルケルが立ち上げ、ジョージ・ソロスがバックアップーが、外国人労働者の移送Deportation計画の「陰謀」をすっぱ抜いた。ナチスのホロコーストを連想させるこのスキャンダラスな暴露によって、1週間足らずで情勢は逆転、親AfDの機運はしぼんで、寒いなか全土が反AfD=反ナチスの抗議集会で沸き返った。ガザ紛争での親イスラエルの政府態度に国際世論は反発を強めているが、裏を返せば、そのことはホロコースト問題にドイツ世論、特に旧西独世論がいかに敏感に反応するかということと通底しているのである。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13515:240127〕
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