能登半島地震と原発-メディアと信頼の問題を問い返す
- 2024年 2月 20日
- 評論・紹介・意見
- メディアと信頼原発再稼働合澤清能登半島地震
【続発する大地震と原発再稼働】
すでにちきゅう座の画面でご紹介しておりますのでご承知かと存じますが、来る3月2日(土)午後1時から、文京区民センターで、ジャーナリストで作家の青木美希さんをお招きして、「3/2現代史研究会 討論集会「地震列島ニッポン、原発は大丈夫か?」」を開催する予定です。それに先立って、少し前宣伝のための口上として2,3の問題を提起してみたいと思います。
今朝の新聞記事でまず驚かされたのは、〔女川2号機9月再稼働へ」という報道でした。「東日本大震災」の傷跡もまだ十分には癒えないままで、しかもついこの元日には「能登半島地震」が起きて、「珠洲市に建設予定だった原発が、もし建設されていたらどうなっただろうか、建設されなくてよかった」、と胸をなでおろしたのもつかの間、更にこれに加えて、石川県には、志賀原発があります。こちらは幸いにして稼働していなかったからよかったものの、もし稼働中だったら間違いなく大惨事です。またすぐ隣の新潟には柏崎刈羽原発が、福井には敦賀原発もあります。活断層があり、危険だといわれながら、長年大地震がなかったからという楽観論から、この地域に原発が集中して作られています。しかし、今回の地震で明らかになったように、能登半島の被災地住民は、原発事故がなくても避難・退避が滞って、珠洲市では孤立状態に置かれた人々が大勢いたと言われています。こういうつい最近の災害に関する反省や対策すらなく、「再稼働」を当初の予定通り決定する、この無神経さというよりも、企業利益追求のためには住民の犠牲などなんとも思わない為政者(政・財界)の強引さには、心底怒りを覚えます。
原子力規制委員会という名前の「認可組織」は、こういう住民の危機対策などまるで関知していないように、また地震学者からの警告など馬耳東風に聞き流し、かえって規制を緩める方向へと再稼働を急がせています。
NHKや大新聞などの大手メディアは、こういう事態の推移をただ「客観報道」するだけにとどまり、それに対する疑問視や反対の声、地元の人々の反応などは一向に取り上げようとしていません。だから、大方の人々(特に直接の被害地から離れた人々)は、なんとなく、世の中はこういう風に進んでいくものと、半ばあきらめ、半ば傍観者的に日常生活の雑事に追われています。
問題はこれらが決して他人事ではなく、いつ自分たちの身に返ってくるかもしれない重大な危険事だということにあると思います。何しろ、日本列島はまさに地震列島であり、いつ何時、どこで大地震が発生してもおかしくないうえに、周囲を50以上の原発によって取り囲まれているのですから。
地震学者の石橋克彦が『大地動乱の時代』(岩波新書)を書いて警告を発して以後も、地震と原発の問題は一向に前に進まず、放置されたままです。
日本列島は江戸末期以来(19世紀半ばごろから)「大地動乱」の時期に入っているのです。石橋によれば、1923年の関東大震災は、「1703年元禄関東地震以来220年間たまり続けた南関東全域のひずみエネルギーが、激しい震動となって一挙に放出された。M7.9の関東大地震の発生である。」(石橋:同書)
ここで、ただ地震や原発だけに限って「危機意識」を駆り立てようとしているのではありません。当然、それ以外にあまた多くの危険がわれわれを取り巻いています。戦争もそうですし、公害もそうですし、コロナなどの流行性の病気もそうです。だからこそ、個々の問題を取り上げながら、同時に社会全体を見つめて、その有機的な関連を考えることが大事なことだと思うのです。
【メディアと信頼の問題】
私たちのちきゅう座は、まことに細やかなミニコミにすぎませんが、これまで、大手メディアにない切口から、様々な社会問題を取り上げ剔抉してきましたし、今後もそういう方向で努力していく覚悟を決めています。
先ほど「報道の客観性」ということに少し触れましたが、科学史家の村上陽一郎によれば「色眼鏡をかけない純粋に客観的な情景(対象物)」などどこにもない、それは「ヌーディティ・プレディレクションnudity-predilection」(裸体偏愛)という一種の迷妄だ、と言っています。
つまり、メディアが掲げる「報道の客観性」とは、認知された「既成事実」を報道し、それを積み上げることで、それがあたかも世の中の常道であるかのように装われた、権力側のプロパガンダに他ならない場合が多いということを考える必要があるだろうと思います。一例として、やはり今日の新聞ニュースから次の実例を引用して考えてみたいと思います。
それは、有識者会議が防衛相に対して「防衛費増額検討を提起」を(5年で43兆円としていたのをさらに増額したいという提案)したという記事に関してです。このことはまさに「客観的な報道」です。しかし、それでは「有識者会議」とは、誰が、どのように、作ったものなのか。そしてそのメンバーとはどういう人たちなのか、このことをじっくり見極めて考える必要があると思います。
今はインターネットですぐに、これらの構成メンバーに関するある程度の情報がつかめます。座長は、榊原定征(経団連名誉会長)、副座長・北岡伸一(東大名誉教授)、澤田純(NTT会長)、森本敏(元防衛大臣)、等々。これでは最初から、この会議の提案の方向は決まっているも同然です。いわばなれ合いの「有識者会議」なのです。先ほどの原子力規制委員会と同じです。しかもこういう「専門家会議」が、あたかも庶民の上に、庶民とかけ離れた存在として庶民を睥睨しているのです。これが事実報道の内幕です。
かつて、スノーデンはこの内幕を暴き出したため、アメリカから永久に「追われる身」になってしまいました(『スノーデン・ファイル徹底検証』小笠原みどり著 (毎日新聞出版2019)。スノーデン・ファイルについては前にちきゅう座で紹介したことがあります(http://chikyuza.net/archives/130502)ので、ここでは省きますが、国民全体を対象としての恐るべき監視体制の構築〈特定秘密法、盗聴法、共謀罪)が今も進んでいます。
ここでは、この「メディアと信頼」に関連した次の記事をご紹介してひとまず擱筆したいと思います。いずれも『メディアの「罪と罰」 新たなエコシステムをめざして』松本一弥(岩波書店2024)からの引用です。
まず、面白いデータをご紹介します。
「…英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所が2019年に発表した「ロイター・デジタルニュースリポート」によると、「ニュースメディアは権力を持つ人々やビジネスを監視していると思うか?」との問いに対し、「監視している」と答えた人々の割合は日本の場合、調査対象38か国中最低の17%でした。ところがこの数字をジャーナリストを対象にした別の調査と比べてみると、日本では断トツの91 %のジャーナリストが「権力監視は自分たちの重要な仕事だ」と回答したといいます。…この落差こそが「メディア不信」や「報道不信」を生んでいる様々な根っこにあるということを、メディアで働く多くの人々は意識すらしていません。だからこそ現実には権力者にすり寄る「御用メディア」によって権力者が発表したままを伝える「客観報道」が「大本営発表」のように垂れ流され、「メディアの「罪と罰」」と呼びたいような惨憺たる報道が繰り返されるのです。
ニュースメディアが「権力を監視している」と人々が最も評価した国はブラジルの56%、カナダが49%、フランス47%、アメリカ45%、イギリス42%、イタリア33%、韓国21%など。…落差が際立っていたのは、日本以外では、韓国(21%/86%)、アメリカ(45%/86%)、落差が小さかったのは、イギリス(42%/48%)、ドイツ(37%/36%)」
つまり、いかに日本の庶民がメディア報道を「信頼していないか」がわかる。
もう一つ、先ほど今日の新聞報道から取り出し、ご紹介した≪有識者会議が防衛相に対して「防衛費増額検討を提起」≫に関連するものを引用紹介したい。この中に出てくる「元朝日新聞主筆」とは、船橋洋一である(これはネットですぐに調べられる)。
「岸田政権は2022年12月、外交・防衛政策の基本方針である「国家安全保障戦略」など、安保関連三文書を閣議決定しました。相手の領域内を攻撃する「敵基地攻撃能力」を保有することを明記したほか、五年間の防衛費総額を43兆円とすることなどを盛り込みました。これらは「戦後の安全保障政策の大転換」であるにもかかわらず、国会では説明を行わず、なし崩し的に閣議決定した議論の一端を担ったのが、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」です。この有識者会議には、メディア側からは日本経済新聞社顧問や読売新聞グループ本社社長、元朝日新聞社主筆が参加しました。この中で、例えば初会合に欠席した元朝日新聞主筆は事前に発言要旨を提出し、「実戦・継戦防衛力において最も重要かつ急を要する課題は、陸海空及び宇宙、サイバー、電磁波の領域横断作戦を迅速に遂行できる常設統合司令部の創設であり、常設統合司令部の任務である」「実戦・継戦防衛力強化においては、ミサイルを含む打撃能力(反撃能力)の保有も欠かせない」との内容を明記しました。元主筆はさらに「これからの時代の安全保障を考えたとき、二つのことを肝に銘じておく必要がある。一つは、国を守るのは自らの責任であるという国家としての当事者意識である。(中略)もう一つは、国を守るのは国民全体の仕事だという国民としての当事者意識である。(中略)有事の際の対応にあたっての国民の関与と参画の在り方、その際の国民の権利と義務の在り方に関する新たな社会契約を結ぶ時に来ている」などの内容も加えました。…実質的には最初から「結論ありき」だった政府の方針である敵基地攻撃能力の保有などにお墨付きを与え、政府のお先棒を担ぐ役割を担ったという事実。」
この引用と先ほどの今朝の新聞記事からの抜粋とを比較しながらお考えいただければ、「有識者会議」なる怪しげな権威集団が、いかに国民をだますために作られたものであるかがお分かりいただけると思います。
2024年2月20日記
記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13567:240220〕
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