「差し迫る福島原発1号機の倒壊と日本滅亡」(森重晴雄著:せせらぎ出版、2023年10月)の紹介
- 2024年 2月 26日
- 評論・紹介・意見
- 有澤広巳ゼミ有志の会森重晴雄椎名鉄雄
今、福島第一原発1号機が深刻な状態となっている。
本書はその危機の状態をリアルに、切実に述べている。そして、その対応策(工法)を具体的に提示している。ここでは、その要点をメモ的に紹介したい。
1.福島第一原発1号機の原子炉が倒壊の危険にさらされている
2011年3月の福島第一原発の大事故で核燃料が溶け落ちたため、その高温によって1号機原子炉を支えているペデスタル(土台の部分)の基礎のコンクリートが溶け落ちてなくなり、鉄筋がむき出しになっている、との写真が公表された。むき出しになった鉄筋も切断されていると推定される。そのため、原子炉は支えを失い極めて不安定な状態となっている。300ガル(震度6強)程度の地震で1号機が倒壊する恐れがある、と著者は指摘している。
著者は,以前三菱重工主席技師として鹿島建設と共同で原子炉の耐震研究を行ったことがある。その時の研究対象が偶然にも福島第一原発1号であったので、その構造や耐震性について良く知っていた。その著者が、上記の状況を検討した結果、導き出した結論は、震度6強相当の地震で1号機が倒壊する可能性がある、ということであった。震度6強の地震は、2018年~2022年の4年間で各地で5回発生している。実際、2021年と2022年だけでも震度5を超えた地震が、福島第一原発を襲っている。尚、2024年1月1日に能登地方を襲った地震の震度は輪島で震度7を記録している。
2.もし1号機が倒れたらどうなるか
もし1号機が倒れたらどうなるか。1号機の建屋の中に使用済み核燃料を保管しているプールがある。そのプールで380体の使用済み核燃料を冷却している。なぜ冷却しているかというと、使用済み核燃料は核分裂物質が残っているので、冷却しなければ核分裂反応が再開してしまう。そこで水を張ったプールのようなところに沈めて崩壊熱が沈静化するまで保管しなければならない。1号機は約900トンの重さがあり、それだけの重量物が使用済み燃料プールにぶつかれば亀裂が入るなど大きな損傷が生じることになる。プールに亀裂が入るとプールの水が抜けて380体の使用済み核燃料は、冷却できなくなり、それが溶けだして大量の放射性ダスト(放射能)が飛散する。福島第一原発の敷地内にいた人は、全身の神経が麻痺し即死に近い状況となり、半径80kmのエリアには人は近づけなくなる。2011年3月の大事故を超える大事故となる。
そうなると、もはや1号機だけでなく福島第一原発内の2号機から6号機のすべてが人の手で管理できなくなる。トラブルが生じても対応できなくなり暴走し始める。それどころか11㎞ほどしか離れていない福島第二原発にも入れなくなり、やはり使用済み核燃料を管理できなくなる。福島第一と第二に保管されている使用済み燃料の量は合わせて3000トン。広島に落とされた原爆の15万倍の量である。これが放置されると莫大な放射性物質を発生させ、首都圏から東日本にかけて全滅することになる。 これだけでも大惨事であるが、人が近づけないエリアは、北に向かって宮城県の女川原発まで広がり、さらに青森県の六ケ所村の再処理工場、北海道の泊原発も飲み込んでいく。又、西に向かっては、新潟県では柏崎刈羽原発、静岡県の浜岡原発、若狭湾岸の原発、島根原発、愛媛県の伊方原発、鹿児島県の川内原発を巻き込んでいく。日本に住む多くの人がおそらく1年以内に命を落とし、海外に逃れた人たちも難民となるでしょう。これはSF映画の話ではない。このまま手をこまねいていれば、かなりの確率で起こりうる事態である。
3.1号機倒壊を回避する方法はある
しかし、これを回避する方法はある。福島第一の1号機を補強して震度6強の地震でも倒壊しないようにすればよい。著者は、原子炉の上部を支える部分を補強することを提案している。現在1号機内部は高レベル放射能で満たされており、ここで作業することは不可能であるが、この補強作業ならば実施可能である、と述べている。そして、この工法・手順を具体的に提示している。(詳細省略)
4.政府の対応について
(ア) 2023年5月6日、著者は西村経済産業大臣に1号機倒壊の恐れがあること、それを防ぐための工法を提言。西村大臣は、それは東京電力(註:1)の問題だと答弁。
(註:1)東京電力は、福島第一原子力発電所の事故処理を適切に進めるだけの技術力を有していない。東京電力は、原子力発電施設の一ユーザーに過ぎない。福島第一の4基の事故炉を廃炉にするには、原子力発電プラントのメーカーは勿論のこと各分野の研究者や有識者の知見を結集しなければならない。政府や東電は相変わらず内輪だけで対処しようとしている、と著者は批判している
(イ)2023年5月10日、立憲民主党の川田龍平議員が1号機の現状認識と倒壊防止策について国会質問。岸田総理は、放射線量が高過ぎて調査が困難であると答弁。倒壊リスクについては、「構造上の影響評価」の問題として東電に対し評価の実施を指示した。東京電力が安全かつ着実な福島第一原発の廃炉に向けて必要な対策が検討されていくよう政府として継続的な監視及び指導を行っていく。尚、倒壊予防工事は、現状では実施困難である、と答弁。(詳細省略)
5.政府答弁は無責任ではないのか
今年の1月1日の能登地方では、震度6強、輪島市では震度7を観測している。志賀町の志賀原発は大きな損傷は免れた。しかし、大損傷が発生した場合、現在の避難対策は機能しないことが明確になった。もし、この地震が福島で起きていたら福島第一原発1号機は倒壊していたかもしれない。これは他人事ではない。著者の提言を検討もせずに放置しておいてよいのか。これは一東電の問題ではない。地震の専門家は、この30年以内に東南海大地震が70%の確率で発生する恐れがあると警告している。1号機倒壊リスクは、写真等の既存のデータで予測可能な筈である。土台が崩れた建物は、地震で倒壊すると考えるのが当たり前ではないか。政府やるべきことをやっていない。リスク調査も対策も東電任せである。無責任極まりないと言わざるをえない。
ここで私の気になることは、福島第一原発の国会事故調査委員会の黒川清委員長(元日本学術会議会長・医学博士)の調査報告書にある言葉である。「2011年3月11日の事故は人災である。行政も事業者もやるべきことが解っていながら手を打たなかった」「こうした事態に陥ったのは、事業者を監督すべき行政が、事業者の虜になってしまったからである」。この言葉は今でも生きていると思う。残念ながら、2011年3月11日の福島第一原発事故前の状態と変わっていない、と思う。以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13580:240226〕
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