喉元過ぎれば熱さを忘れる 日本国民、原発推進へ回帰
- 2024年 3月 16日
- 時代をみる
- 原発岩垂 弘
3月11日は、東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こしてから13年に当たる日だった。それより少し前の、2月20日付の朝日新聞朝刊の記事を目にした私は強い衝撃を受けた。その記事の見出しが、「本社世論調査 原発再稼働『賛成』50%」だったからである。
朝日新聞社は、東電第一原発の事故後の2013年から毎年、原発に関する全国世論調査を続けてきた。今年は2月の17、18の両日におこなった。世論調査の設問は毎年ぼぼ同じで、今年は「今停止している原子力発電所の運転を再開することに、賛成ですか」というものだった。
記事によれば、今回の回答は「賛成」50%、「反対」35%であった。
そして、その記事には2013年以降の世論調査結果を示す「原発再稼働の賛否の推移」を示す棒グラフが添えられていて、「原発の運転再開について尋ねた調査は、東日本大震災のあと、おおむね『賛成』が3割前後、反対が5~6割で推移。前回調査で初めて賛否が逆転し、『賛成』51%、『反対』42%だった」と述べていた。
要するに、事故後は国民の5割から6割が原発の再稼働に反対していたが、昨年から、国民の過半数が原発の再稼働に賛成するようになったというわけである。
東電福島第一原発の事故が起きるまでの日本は、世を挙げて「原発推進」だった。が、原発事故は国民に衝撃を与え、世論は急速に「原発反対」に傾斜した。
私は原発事故が起きた2011年の9月19日に東京・千駄ヶ谷の明治公園(東京五輪開催の舞台となった国立競技場拡張のため廃止された)で開かれた脱原発集会の光景を忘れられない。これは、事故直後に結成された市民団体「さようなら原発一千万人署名市民の会」が開催したものだった。
当時、同公園のキャパは3万人と言われていたが、集会にはおびただしい人々がつめかけ、人波は公園外の道路まであふれた。参加者は主催者発表で約6万人。参加者には1人で、あるいは仲間2、人で駆けつけてきたとみられる一般の市民が目立ち、その表情には「もうじっとしていられない」という危機感と意気込みが感じられた。
それを上回る大規模の脱原発の集会となったのが、翌年の2012年7月16日に東京・代々木公園で開かれた}「さようなら原発10万人集会」だった。これも、さようなら原発一千万人署名市民の会の主催で、参加者は主催者発表で約17万人。集会場の中心を埋めていたのは労組員だったが、その回りを取り囲んでいたおびただしい人たちは、一般の市民だった。
「さようなら原発10万人集会に集まった人たち。2012年7月16日」
それから11年にして世論は逆転し、「原発再稼働」賛成へ。あまりにも早過ぎはしないか。
ドイツは、東電福島第一原発の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきたが、2023年4月、稼働していた最後の3基の原発の運転を停止し、「脱原発」を実現させた。これに対し日本では、岸田政権が「原発再稼働・新増設・原発の60年超運転」というとんでもない政策を打ち出しても、目立った反対の動きはみられない。むしろ、朝日新聞社の世論調査の結果にみるように、国民の過半数が「原発再稼働賛成」である。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざを思い出す。物事を忘れやすい。これは、日本人の性癖であろうか。あるいは、「曖昧さの中で生きて行く」というのが、日本人固有の生き方なのであろうか。なにしろ、軍備と他国との軍事同盟を否定する日本国憲法第9条があっても、軍備大増強、自衛隊と他国の軍隊との共同訓練、挙げ句の果ては戦闘機の外国輸出等々が着々と進む。 国民はこうした事態に矛盾を感じないのだろうか。感じても時代の動きに流されていこうということだろうか。
急がれる脱原発運動の態勢づくり
2011年の福島第一原発の事故以来、さまざまな脱原発運動が行われてきたが、その中心は「さようなら原発一千万人署名市民の会」を中心とする運動だった。その脱原発集会が2011年には約6万人、2012年には約17万人を集めたことはすでに述べたが、その後も、3月と9月に開いた脱原発集会では3万5000人~8000人を集めた。が、2020年以降はコロナ禍のため、集会の中止や縮小を余儀なくされた。2022年からは元通りの集会に戻ったが、参加者数ではコロナ禍前の規模を取り戻していない。
コロナ禍まん延中は、人が集まることはよくないこととされた。そのせいか、そのことが生活習慣になってしまい、社会運動の集会・デモという分野では、今なおそうした生活習慣が完全に払拭されていない。コロナ禍が脱原発運動を含む社会運動に与えた影響は大きい。
したがって、脱原発運動に今、求められているのは、“集客能力”を持つ態勢づくりではないか。
最近の脱原発集会で目立つのは、参加者の多くが労組員であることだ。一般の市民は少ない。かつてのように一般市民が刻々と集まってくるような集会にするにするにはどうしたらいいか。難しいテーマだが、早急に解決を求められている問題と言える。2023年9月の脱原発集会では、気候変動問題に熱心な若者グループと提携したが、こうした流れがさらに大きくなることが望まれる。
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