ドイツ通信第207号 EU議会選挙を目前にして
- 2024年 6月 5日
- 時代をみる
- EU議会選挙T・K生ドイツ通信
自分が住んでいるヨーロッパの周辺で何が、どこで、どう変わろうとしているのか? その時のコンパスの定め方は?
5月19日(日)、翌日は聖霊降臨祭の休日になっていましたから、夜遅く11時45分のARD・TVニュースを見ていました。テーマは、ガザへの緊急食糧輸送とそれを妨害しようとする急進派ユダヤ系入植者との対立です。
食糧輸送はヨルダンから出発してパレスチナとの境界点―アレンビー・ブリッジ (Allenby Bridge)を通り抜け、エルサレムの南を迂回して再びイスラエルとの境界点―タルクミヤ(Tarqumiya)を通過して、ガザ北部のエレツ(Erez)まで至るコースです。
イスラエル占領地の通過点では急進派ユダヤ系入植者による食糧輸送妨害がこれまでにも頻繁に起きており、彼等は輸送トラックを襲い、食糧を道路に投げ出し、空のトラックだけを通過させてきました。警察も軍隊もそれに介入することはせず、むしろ容認さえしている節も見られるといいます。この現状に対抗しようとするイスラエルとパレスチナの共同行動です。
《Standing Together》という名称のグループで、パレスチナとイスラエル両市民が共生できる社会の可能性を求めて若い年齢層が中心になり作られた組織です。
40人位のメンバーがバスで現地に向かいます。グループの目的は抗議行動を起こすことではなく、現状を監視・記録し、急進派ユダヤ系入植者が食糧輸送トラックを襲撃すれば、即座に警察に連絡し、警官が阻止行動に入るよう要請することです。事前の意思一致がとられます。
バスが、現地に到着します。青年層の入植者がすでに道路に徘徊し、通過するトラックへの襲撃の機会をうかがい、グループに言い掛りをつけてきます。グループはこの挑発に乗じません。
警官が介入し、入植者の排除が進められ、トラックが無事通過していきます。これまで見たケースはいつも正反対で、入植者が防衛され、それに対峙するパレスチナ市民が排除されるのが通常ですから、この場面が個人的には全く新しく、強い印象として残りました。
しかし、1Kmほど先に行ったところで、トラックが再び襲撃にあい、貴重なガザ市民への食糧が道路に投げ捨てられました。それをかき集めながら年配者の女性(イスラエル市民だと思われます)は、「パレスチナ市民が飢え死に、イスラエルは彼らを飢え死にさせようとしている!」と涙声で話していました。
最後に、メンバーは「明日もまた来る!」と語気を強め、その声は清々しく力強かったです。
全体から見れば、ほんの一部の出来事かもしれません。しかし、パレスチナとイスラエル両市民自身の連帯と共生がなければ、「停戦」も「政治交渉」も単なる議論倒れに終始するだろうことは、「中東和平」政策の歴史的経過が教えています。
なぜなら、戦争と人民虐殺を終わらせるのは人民自身の力によるしかないと考えるからです。《Standing Together》のグループはその条件を作り上げているように思えるのです。この中で、多様な意見の議論が可能になるはずだ、とそんなことを言えば、単なる理想論に過ぎないのでしょうか?
昨年のイスラエルの民主化闘争では、社会大衆的な広がりと深さを見せつけられましたが、〈民主化〉で果たして「パレスチナ市民の権利と生存権は?」と問うたとき、直接的な言質と対応はなかったように思えるのです。
その空洞を埋めようとしているのが、このグループではないか――これが私の今の判断です。
女性の同じようなグループも組織されていますが、別の機会に改めて書いてみます。
一つ言えることは、イスラエルの社会内部で、パレスチナ市民との〈連帯と共生〉を求める運動が実際に取り組まれてきていることは事実で、それによって現実を理解しようとする目と心を開かせてくれます。
「EUへの警告!」というような表現がメディアで書かれ、語られたりします。EU議会選挙では極右派、ポピュリスト勢力の大幅な伸長が予想されることから、それへの警鐘を鳴らし、対抗戦を訴えようとしているのですが、「では、どうするのか?」となれば、はっきりとした政治方針が見つけ出されないのが、EUの現状ではないかと思います。そこに危機感があります。
5月から始まったEU議会の選挙戦です。いつものことながら直接的なインパクトは少ないです。官僚化し肥大化したEUの共同テーマは伝えられても、各国市民の切実な実生活とのギャップが埋められないからです。ここに市民の不安心理と憤怒が生じてきます。
それを象徴するテーマが、難民、農業そして自然環境保護です。
そもそも極右派、ポピュリスト勢力とは何か?
一枚岩ではないのです。その現状をまず、整理してみます。
EU議会内のこのグループには、EKR(EU批判のナショナル保守派)、ID(右派ナショナリズム・ポピュリスト)、NI(無所属派)の流れがあり、自国のナショナルな経済権益を第一義に掲げながら、しかし他方で、〈ナショナリズム〉の解釈をめぐって右派戦線の共同行動を相互に阻むことになります。
EU議会に議席を持つ右派ナショナリストのジレンマは、一方でEUによって自国の経済利益を確保しながら、しかし、他方でEU規則を「服従」と理解することにあり、「ブリュッセル(EU)の独裁」というのが、彼らの謳い文句です。
具体的にはユーロ導入によるEU域内市場の拡大、財政援助、さらに世界市場からの利益を確保するによって国内経済を安定化させ、そこから強められてくるナショナリズム意識は、各国の国家主権を求めることになり、EU権限が桎梏となってきます。
各国の例からグループなりのジレンマの解決に向けた方向性を見れば、イギリスは政府の経済危機から起こされた社会問題を難民に責任を転嫁することによってEU離脱を図るも、問題は解決するどころかより以上の社会混乱を逆に引き起こしました。
ドイツAfDからは、ユーロ廃棄からマルクの再導入が聞かれ、これに対してフランス(極右派・RN)とイタリア(極右派・FDIイタリアの同胞)は、それによって大衆支持を集め、選挙に勝利してきたEU及びユーロからの離脱を政治方針から削除することになりました。これはしかし「解決」ではなく、単なる自国権益をどう確保するか、市民の動向をうかがいながらの政治マヌーバーでしかありません。この傾向がさらに強まれば、(極)右派・ポピュリストの共同戦線は一層困難になってきます。
一例ですが、フランス極右派RNは、ナチ化傾向を公然と進めるドイツ極右派AfDと一線を画すことになりました。
では次に、極右派・ポピュリストはどこから来て、どこに向かうのか?
長い歴史を持ちながら今日のような極右派の戦線が形づけられてくるのは、ユーロ危機、難民問題、コロナ禍を契機としてではなかったかと思われます。その時の財政政策をめぐるEUの共同対策と各国のナショナルな軋轢が、政治的亀裂を生み出す要因になっていることは、この間の政治討論、援助活動から個人的にも実際に体験してきたところです。
一般的な言葉を使えば、グローバル化とナショナリズム化と表現されるでしょうが、その背景に南北問題――言ってみれば帝国主義体制の歪が抜き難く潜んでいることが、東西関係を含めウクライナ、ガザ戦争に対する戦線の政治色を規定しているように考えられるのです。
ユーロ危機に際してEUは、資本力のある北ヨーロッパ――例えばドイツですが、国家財政危機にあった国――南ヨーロッパ、ギリシャですが、を援助するにあたって、「絞り取り」――「搾り取り」の感が強いのですが、といわれた「緊縮政策」でその国の経済・財政決定に厳しい規制を課しました。あらゆる国家機関の根本的な立て直しと負債整理が当事国に強制され、こうして国家主権と国民の自主決定権が奪われる形になりました。
この同じ構造は、EUによるコロナ禍でのワクチン共同買占めと、各国への分配でも見られました。
話は少しそれますが、この時、EU委員長のフォン・デア・ライエン(CDU)が、2021年アメリカの製薬会社ファイザー(Pfizer)と交わした契約協定に汚職の疑いがもたれ、現在、EU議会からも事実解明の要請が出されています。「疑い」ですから、この点に関しての発言は控えますが、「疑い」から事の事実を証明するためには、SMSで行われた交渉のやり取りを公開すればすむことで、何も特別な専門知識は必要ないはずです。
むしろここが本質的な論点になり、追及されたフォン・デア・ライエンは、「SMSは既に消去した」と回答し、今後どうなるか先行きは分かりません。
同じ理由というか手口で、ドイツ連邦軍の改革をめぐり縁故関係を利用した過剰な資金支出が明らかにされた過去があります。その交渉経過を問われた彼女は、「SMSは既に消却した」を理由に責任をうやむやにし、スキャンダルに発展しそうになったとき、マクロンの援助でEU委員長に就任しました。結局、事実関係がどうだったのかは、私が知る限り、人脈も含め何一つ明らかになっていません。
極右派・ポピュリストの反政府批判にみられる共通用語は、ここから「エリート(独裁)」批判です。
〈民主主義と人権〉及びそれに不可欠な密室・陰謀政治に対抗する〈公開性〉を基本原理に成立しているEUですが、現実には、上記のような不透明さを通して市民の中に政治への不信感や猜疑、忌諱が生み出されてくる原因となります。この点は今まで議論されてきたことですから、ここに改めて述べるほどのこともないと思うのですが、重要だと思われる点は、社会的人間は決して非政治的ではなく、政治的であるという事実です。
これが極右主義、ファシスト勢力をサロン化させ、彼らの政治と結びついたとき、そこに結集する市民が急進化、あるいはまた暴力化していく背景だと思われます。
ここで極右派・ポピュリスト勢力の「EU-エリート批判」を検討しながら彼らの方向性を見比べてみることにします。ナショナリズムの主張の裏で、何を目的にしているのかが明らかになるはずです。
ユーロ危機とコロナ禍に際してAfDとFPÖ(オーストリア)は、各国共同出資からなる「フォンド資金」――いわゆる「負債の社会化」に反対していました。ナショナリスト的に経済力のある自国を防衛し、危機にある国への節約・緊縮を要求します。これが、ナショナリズムと排他主義の現実です。
AfDからはそこからマルクへの回帰が叫ばれますが、これはしかし、経済力のある国(ドイツ)に言えることで、南ヨーロッパの貧困国では、再建・援助金を必要とします。
その後の議論では、フランス・マクロン大統領からEU独自の財政資金を確立し厳しい基準を設けた規則――いわゆる「リスクの分担」が提案され、加盟国への財政政策をめぐる内部干渉を可能にしようとします。財政運営にあたって各国の国庫へのコントロールとチェックを強化することです。
このマクロンの考えは、彼のEU軍事‐防衛戦略と同じ根を持つものだと思われます。アメリカから独立してロシア(そして中国)に対抗できるEU独自の軍隊と武器調達を確立することを目指したものといえるでしょう。フランスに歴史的に強い中央集権的な国家観念が持ち出されてきていると思うのですが、その背景には極右派RNなどのナショナリズムへの配慮と対応があることは間違いないと思われます。ここで連邦制をとるドイツとの違いが明らかになります。
メルケル(CDU)旧政権時代、そしてショルツ(SPD)現政権は、マクロン・フランスからの提案にまだ何一つ返答を出していません。裏を返せば、ドイツはEUへの確かな政治展望を持ち合わせていないということです。EUの「枢軸」あるいは「原動力」といわれるフランスとドイツの関係が冷たくなる根本的な要因です。
この政治空洞の中で、極右派、ポピュリストそしてファシストが公然と活動し、勢力を伸ばしてきているのが、EU議会選挙を目前に控えた状況です。
EUの財政改革に対して各国の極右派・ポピュリストにどのような反応が見られるのか? 以下、新聞記事を参考にしながら整理してみます。(注)
(注)Extrem uneins von Stephan Kaufmann
Frankfurter Rundschau Montag,29.April 2024
・AfD、FPÖが財政赤字への罰則を要求するのに対して、
・フランスRN、ベルギーVB、イタリアLegaは、ナショナル国家への外部からの介入と圧力を含む財政規律に反対
・イタリアFIDはLegaと同様な立場をとりながら、しかしポーランドPiS、フィンランドPSの支持を得て反対
・ベルギーN-VA、スペインVox、スロバキアSaSは、それに対してEU 規律に反した 国への罰則適用に賛成
と入り乱れ別々のグループを形成し、これを書きながら自分でも全体を見通すことは非常に困難です。
ここ数年、極右派、ポピュリスト、ナショナリスト等による戦線形成が試みられていました。その際、誇らし気に「ナショナリズムのインターナショナル化」なるキャッチフレーズが吹き上げられていましたが、各グループ間に存在するナショナルな利害対立が戦線統一を阻む原因になっていることは明らかです。
ここまでは単なる一つの事実経過にすぎません。また、そこに危険性が認められるのは確かですが、ファシズムへ傾れ込んでいく最大のポイントは、彼らの政治内容とともに、保守・中間派の動向――具体的に言えば多数派を獲得するために極右派との関係をどう立てるのかという権力奪取をめぐる路線問題にあるといえるでしょう。
つまり各政党の政治定義と同時に、戦線の流動性とその都度変化する組み合わせで、これが私の最大の問題意識となっています。どう政治と戦線が状況に応じて変化していくのかというのがテーマです。
この点で保守派EVP(CDU系)が、既に動き出しました。イタリアのポスト・ファシスト党(FDI)への接近です。
事前の選挙予報ではEKR(EU批判のナショナル保守派)、ID(右派ナショナリズム・ポピュリスト)の(極)右派が議席を伸ばし、保守中間派EVPが議席を減らしはするが、しかしSPD系、リベラル系、左翼系、最大の議席減が予想される緑の党との、にもかかわらず民主リベラル派連合によるEU議会の絶対過半数は十分に可能とみられています。
EVP(CDU)系の焦りは、一方でこのグループの連合政権内左派系に対する権力喪失にあり、他方で急迫してくる極右派を懐柔、分断することです。人権、民主主義、対ファシズムを声高に且つ晴れやかにアピールしながら、その背後で実は極右派との接触を可能にしていきます。
このどっちつかずの路線を進めるEU委員会議長フォン・デア・ライエン(CDU)の危険性は、極右派をサロン化させることにあるのは言うまでもないとして、自分自身の政治生命に振り返ってくることです。
彼女の政治指導に関する批判はEU内に根強くあり、さらに極右派との境界を取り除いてしまえば、対ファシズムのEU戦線が内部と同時に外部から崩壊していきます。
EU議会内部では、多数派を獲得しながら民主リベラル派連合内からの批判でフォン・デア・ライエンの2期目を目指した議長選出が不可能になる一方で、対外的には、フランスRNをはじめ極右派・ナショナリストへの抵抗感が取り払われ既成事実として受け入れられてしまいます。東西南北ヨーロッパには、イタリア・メローニに続いて次の出番を今か今かと待っている(極)右派が列を連ね、機会をうかがっています!
他方で、それは同じく極右派自身の戦線分岐にもはね返ってくるところに、現在のEU議会選挙の焦点が当てられていくと思います。
既にオランダの選挙が、それを明らかにしました。
懐柔・分断に莫大な資金が動くのは、政治とマフィアの世界でも変わりないでしょう。具体的に以上の経過を、『シュピーゲル』誌の記事(注)を参考に振り返ってみます。
(注) Der Spiegel Nr.21/18.5.2024
Gefaehrliche Freundin von Frank Hornig
EUからイタリア・メローニ政権に桁違いの2000億(200Md)ユーロのコロナ援助金という名の経済再建資金が支払われました。これには間違いなく難民対策費も含まれているはずです。ドイツ、フランスに次いで経済力のあるイタリアをEU内にとどめておく必要性があるからですが、国内の汚職や浪費、現実的な取り組みへの遅滞等々に関する批判は、全く議論されることがありませんでした。メローニは、それによって首相の座につくことができた政治スローガン――「親ロ」「EU批判」(イタリア国民が、まず第一、常にどこでも!)を取り下げ、フォン・デア・ライエンからは「エクセレントな協力関係」と称賛され、イタリアの日刊紙『Corriere della Sera』は、「鉄の意思を持つブロンド女性に牽引される枢軸」と謳い上げているといわれます。
「ブロンド女性」なる表現が強調されると、ファシストの前線気流がヨーロッパを覆いつつある現実が実感されるのです。それを人は息を吸い吐くように体内に吸収して、最後には知らずのうちにファシズムを完成させることになります。
そして、それは知らなかった!
初めて両者の会合が持たれたときのエピソードが紹介されています。40分の予定でその内35分が、プライベートな話に費やされたといいます。メローニは7歳の娘との二人暮らしです。ウエイトレスとして生計を立て、職業訓練は受けられず、また大学を卒業することもできず、それに対してフォン・デア・ライエンはヨーロッパ共同体のディレクターで後に州首相になった父を持ち、7人の子供があります。ベルギー、オランダで裕福な生活環境の中で育ちました。国民経済と医学を学び、医学博士号を取っています。
メローニの興味は、自分の厳しい生活環境を振り返りながら、フォン・デア・ライエンが7人の子供を育て政治と家庭をどう両立してきたのかという点でした。〈家庭と子供〉のテーマが、資金提供に加えて両者を緊密に結び付けたことになります。
しかし、政治問題に関しては残りの5分だけだったといわれます。
〈突き放すのではなく、抱きかかえる〉をモットーに、現にイタリアの無節操なEU批判者であったブルルスコーニをCDUのパートナーにし、保守中間派グループに迎い入れた元首相コールの路線は、以降CDUのヨーロッパ対策の基本になっているといわれ、フォン・デア・ライエンの対応はその「戦術的な傑作」ではないかと記事は分析しています。
保守派(CDU)の目的は、極右派グループ内部の穏健派を強硬派から分離させ、保守中間派に取り込み自派の政治ヘゲモニーを強化していくことです。そこで問題となるのは、〈選挙後の議会内で、果たして極右派グループとの協力した活動と共同の意思一致が可能か、どうか?〉の一点に絞られてきます。
フォン・デア・ライエンは、そのための4つのポイントを挙げています。
・ヨーロッパ支持
・ウクライナ支持
・反ロシア
・法治国家制度支持
この基準からは、過去にロシアから借り入れていたクレジットを既に返却しているフランス極右派RNル・ペンとの連携も可能になってきます。これを巧みな政治外交とみるか、あるいは権力維持のマヌーバーとみるかは、EU委員会の、そしてそれはまたフォン・デア・ライエンの政治アジェンダと自他ともに認められる自然環境保護政策――「Green Deal」をめぐる議論で明らかになってくるはずです。
極右派・ナショナリストに対する「防波堤」をどこに立てるのか、その線引きが曖昧にされ、それと同じく、壁の高さも削られてきているようです。
ドイツのFFFは、前もってそれを見通すかのように、
「民主主義と自然環境を防衛するのか、あるいはその両方とも失うのか!」
と対抗軸を立て、反ファシズム、極右派との闘争に取り組んでいます。
一点付け加えておけば、CSUはメローニFDIとの協力を拒否しています。
保守中間派(CDU)の政治観を極めて分かりやすく表現したインタヴュー記事が地方紙に掲載されてあります。(注) 2月の初めに全ドイツを席巻した反ナチ-反ファシズム街頭デモに際して、メルケル政権下で家庭大臣を務め、途中退陣したヘッセン州出身の元女性議員(Christina Schroeder)の発言です。
ついでに退陣までのエピソードをここに紹介しておきますが、彼女が大臣として幼稚園、保育園の現場を視察、訪問し、しかし子供、生徒たちにどう対応していいのかわからず手を焼いている姿の動画が、これでもかこれでもかと各メディアで流されていました。最後は、大臣席を投げ出す形となりました。
(注) HNA Freitag, 9.Februar 2024
以下に重要と思われる個所を要約しておきます。
・反¨右派¨(gegen Rechts) の集会には決して参加しない。
・反右派デモ(Demo gegen Rechts)の意味するところは、全ての中間右派に反対する ことで、彼女の政治ポジションはその中間右派にある。
・彼女は右派ではなくリベラル保守で、CDU/CSUは政治的右派を自認する人たちの 〈故郷〉にならなければならない。
・デモ主催者と参加者は区別すべきで、参加者にはCDUに近い中間派もいるが、集 会舞台での発言は、コントロールされた難民政策に反対し、資本主義をファシズムの前段としてとらえ反対している。
問題にされるべは2点ではないかと考えます。
一つは、反右派デモ(Demo gegen Rechts)のとらえ方です。デモでの右派の対象は暴露された秘密会議に参加していた極右派・ナチ勢力、AfD、またそこに含まれていたCDU極右派グループで、さらにその時議論された難民・移民排除からファシズムの道に向かう危険性に反対する目的を持って取り組まれデモであり、「あらゆる右派」を対象にしているわけではないことは、極右勢力・ナチによる政党、政治家に対する虐殺、テロ、襲撃に抗議していることからも明らかです。
二つ目には、ではCDUが極右派・ナチに対抗する反対運動をどう取り組んでいるのかとなれば、そこから逆にCDUの右傾化が進んできたのが現状で、難民対策では、90年代初めにヘッセン州で取り組まれた「二重国籍」反対の署名運動が記憶に蘇ってくるくらいです。
保守中間派と自認する政党が左右の間で揺れながら、最終的には右へ舵を取るしかない内部メカニズムをここに見ることができます。
他方で左派戦線の現状に目を向ければ、2021年のドイツ連邦議会選挙で労働者階級の各政党への投票分布を分析した世論調査機関があり、そこに示された結果から左翼党の戦略的課題を引き出そうとしたローザ・ルクセンブルク財団――左翼党系のシンクタンクの研究報告が出されました。その解説が掲載された新聞紙(注)に沿って、今後の左派戦線の方向性と課題を簡単にまとめてみることにします。
(注) Frankfurter Rundschau Samstag/Sonntag,17/18.Februar 2024
Die Wurzeln der Linken von Steffen Herrmann
まず、調査機関Infratest Dimapによる各政党への労働者階級の投票分布を見れば、
左翼党:5%
CDU/CSU:20%
AfD:21%
SPD:26%
となり、数字的に見れば左翼党が、労働者階級の基盤をなくしてしまったのかという議論になります。上記財団のそれへの返答は、「そうではない」としながら、基本的な問題は労働世界が変化していることを指摘し、特に女性及び移民の労働市場への編入が進み、しかし伝統的な既成政党はこのグループを組織できる体制にはなく、将来ここに左翼党の可能性が残されていると判断しています。
次に、調査機関Meinungsforschungsinstitut Kantarによる社会的エッセンシャル部門のアンケート調査では、左翼党へのポテンシャルな投票グループが介護、保育、販売、配送分野の労働者に認められ、同じく産業部門でも低賃金労働者にその可能性のあることが証明されています。それに移民の背景を持つ人たちが加わります。
この事実から〈5%〉の意味するところは、左翼党の組織対象がアカデミカー、都会人、特権的な地域の人たちに偏りすぎてきたのではないかという評価と批判に関して財団は、重要なグループは健康、介護、保育、そして教育労働にあり、アンケート調査を受け左翼党への投票傾向を示した人たちの40%以上がこの部門の労働者で、一番大きかったグループは、介護部門だといいます。
以上のことから、左翼党のポテンシャルが、低賃金労働者にあることがわかります。
そこで問題とされるべきは、左翼党は組織基盤のポテンシャルを汲み上げ切れていないという点にあり、手取り給料1500ユーロまでのグループでは27%、1500から2500ユーロまでは23%が左翼党への投票意思を示し、手取り給料が少なければ少ないほど、投票ポテンシャルはより大きくなっていると結論付けています。
アンケート調査を受けた人たちの57%が、その職場での最大の問題点を以下の様に指摘しています。
・低賃金
・職場でのストレス
・労働過多から引き起こされる同僚との対立
・以上の職場問題は、男性より特に女性に顕著に現れる
ここから単に左翼党のみならず、左派戦線と労働組合の役割とは何か?と考えたとき、テーマと方向性は自ずから引き出せるのではないかと思うのです。
それを受けて極右派・ポピュリストの「ナショナリズム」との対抗戦がどのように立てられていくのか、来たのか? 逆に言えばこの「ナショナリズム」がどこで、どう戦線を展開しているのかが考察されなければならないのですが、これについては次回に書く予定です。
6月9日(日)はEU議会選挙です。戦線の動向に注目しながら投票してきます。
(つづく)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5258:240605〕
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