赤い羽根と緑の羽根と~募金の向こう側で
- 2024年 6月 7日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子赤い羽根と緑の羽根
「赤いきつねと緑のたぬき」ならぬ「赤い羽根と緑の羽根」が、いまだに、地域の自治会を悩ませているという。班長が各世帯を回って、対面で定額の募金を徴収する場合も、班長の負担をなくすため、自治会費に上乗せしたり、自治会財政の中から全世帯分を募金として天引きしたりする場合は、本来自由であるべき「募金」や「寄付」を否応なしに徴収されることになり、各地で異議が噴出しているとも報じられている(「強制される善意 緑の募金 自治会費天引き」『毎日新聞』2024年5月16日)。
前者の事例では、顔見知りのご近所さんとのトラブルは避けたい、断りにくいという悩みを持ち、後者の事例では、有無をいわさず強制的に自動的に募金させられていることは納得できない、募金の分を返還して欲しいなどの不満が鬱積している住民も多いのではないか。
しかし、自治会の総会や意見を言う場所で、そうした悩みや疑問を表立って発言する人は稀で、たとえ、そうした意見が出たとしても、多くは役員会などでは、慣例重視、隣接自治会との横並びということで、無視される場合が多い。私も自治会活動をする中でいやというほど体験した。
私は、地域の自治会にかかわっていた20年ほど前に、佐倉市の社会福祉協議会と日本赤十字社の一世帯一律500円を班長さんが集金していた慣例を、役員・班長さんの協力で、募金は自由であることを前提に、募金袋を手渡しで回し、募金をしたい人が自由な金額を入れてもらう方式にして、今は定着している。佐倉市共同募金会支会長名と佐倉市社会福祉協議会長名で「お願い」がくる「赤い羽根」の共同募金も同様だが、「緑の羽根」募金については、幸いにも自治会で実施されたことがない。
そもそも、こうした募金が行政を通じて地域の自治会や町内会に丸投げするという、いわば「家庭募金」の実施に地方自治体が加担すること自体が、自由意思による募金の精神に反している。
かつて、市の担当者に、なぜ、そうした募金活動を自治会に担わせるのか、少なくとも、強制するような形での募金はしないように、行政として明確に指示してほしいと、申し入れしたことがある。たしかに、自治会・町内会役員の手引きなるものに、「あくまでも会員の自由意思による」と付記されるようになった。社協や日赤の募金の「協力お願い」文書にも「自由意思」の文字が見受けられる。しかし、一世帯500円を目途に集金したり、自治会からまとめて世帯分を天引きしたりする自治会が多いのが実態である。
「緑の羽根」の募金主体は、公益社団法人「国土緑化推進機構」に設置された「緑と水の森林ファンド」である。「国土緑化推進機構」は農水省の外郭団体で、その役員の出身を調べてみると、みごとに、農水省、とくに林野庁官僚の天下りの受け皿になっていることがわかる。常勤の常務理事・専務理事は、1200万円以上の年俸と多額の退職金が用意されている。今の理事長は、前東大総長の浜田純一とか。植樹祭(1950年~)、育樹祭(1977年~)、開催と各地の緑化運動への助成、「緑の募金」関連活動なのである。
さらに、2024年6月2日には岡山県での全国植樹祭に天皇夫妻が出むいたニュースは、まだ覚えている人 も多いだろう。全国育樹祭は昨年10月11・12日,茨城県でおこなわれ秋篠宮夫妻が出かけていて、そういえばそんなニュースを思い出す。ことしは10月19日福井県で行われる。この二つの行事は、負担が大きいと問題になっている国民体育大会と同様、都道府県の持ち回りなのである。国体も含めて、天皇、皇族が出向くことで共通する。主催団体は、皇族を利用、あるいは宮内庁が皇族の出番を定例化しているのではないか。
また、林野庁は各種団体と共催で、「みどりの感謝祭」というものを開催、ことしは、八王子市で秋篠宮佳子さんが出向いている。
「国土緑化推進機構」では、「緑の羽根」募金が始まると、「みどりの大使」とかのミス東京が首相の胸に「緑の羽根」を着けるなどが恒例になっているらしく、こんなことを知ると、なぜか馬鹿らしくなってくる。
かつては25億ほど寄付が集まっていたが、近年は、19億~20億円と減少している。だからと言って、間違いなく官僚の天下り先になっていて、皇族を利用している「国土緑化推進機構」に安易に寄付するものではないし、まして強制的な手段での募金に対しては声を上げなければならない。
雑草がぼうぼうだった庭の一画を、連れ合いが突如、土を掘り起こし、1週間ほどかけて腐葉土や培養土を混ぜ、ピーマン、トマト、ナスを植えた。無事育ってくれればと。
初出:「内野光子のブログ」2024.6.6より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2024/06/post-1cdbf1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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