本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(465)
- 2024年 6月 15日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究本間裕金融
マネーとクレジット(3)
「1913年の米国FRB創設」から「現在」までの「100年余りの期間」については、「1600年前の西ローマ帝国の末期」と同様に、「マネーの大膨張」が発生した時期だったものと考えている。具体的には、「氷のような状態だった金(ゴールド)」が、「経済成長」の熱を帯びながら、「水のような状態の紙幣や預金」から「水蒸気のようなデジタル通貨」へと変化した展開のことである。
そして、この時の注目点は、「1971年のニクソンショック」を境にして、「それまでの約50年間が金本位制の崩壊期」であり、また、「その後の約50年間が、新たな通貨制度が、世界的に実験された期間」だった状況である。つまり、「金本位制」に関しては、「金貨本位制」から「金地金(じがね)本位制」、そして、「金為替本位制」へと変化し、この理由としては、「実体経済の成長に伴うマネー重要の増加」が指摘できるのである。
また、「1971年以降の状況」については、「経済は成長するのが当たり前だ」というような意識と、「政府や通貨に対する信用」を基にして、「信用本位制」と呼ぶべき新たな通貨制度が産み出されたのだが、残念ながら、現時点でも、この点を理解する人が、ほとんど存在しない状況ともいえるのである。つまり、「目に前に発生する現象」については、多くの人々が「当たり前」と捉えがちになるために、いつの間にか、単なる数字が、大切なマネー(お金)」に変化してしまったことも見て取れるのである。
しかし、現時点で注目すべき事実は、すでに、「水蒸気のような状態のデジタル通貨が、徐々に、水のような状態の紙幣に変化し始めた事態」であり、この点については、間もなく、「約600兆ドルのOTCデリバティブ」が崩壊した時に、世界中の人々が、「新たな時代」の始まりを認識せざるを得なくなるものと感じている。つまり、「1600年前の西ローマ帝国崩壊時」と似たような状況のことでもあるが、今後の注意点としては、やはり、「信用消滅がもたらすマネー残高の実質的な急減」が指摘できるようである。
具体的には、「大量のCBDC(中央銀行デジタル通貨)や紙幣の発行」により、「通貨や政府に対する信用」が急減し、世界中の人々が、慌てて、換物運動に走り始める展開のことである。つまり、「劇場の火事」のような「ボトルネック・インフレ」が発生する可能性のことでもあるが、実際には、「金融大地震」とも言える「2008年前後のGFC(世界的な金融大混乱)」が作り出した「世界的なインフレの大津波」が、「水上から陸上へと移行し始めた状況」を表しているものと考えている。(2024.5.8)
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マネーの膨張メカニズム
現代の経済理論に抜け落ちているのは「マネー理論」であり、特に、「マネーの膨張メカニズムに対する理解」とも感じているが、実際には、「過去2000年間に、どのような通貨が、どれほどの規模で作り出されたのか?」の分析である。つまり、現在のような「大量のデジタル通貨が、世界的なコンピューターネットワークの中で、縦横無尽に動き回る社会」が出来上がるまでには、きわめて長い時間が必要だった状況の理解である。
そして、この時に必要なことは、「分業がもたらした生産性の向上であり、また、目に見えない信用の量の増加」を認識することだと考えているが、実際には、「無人島に一人で生活する時には、貨幣が存在しなかった状況」の理解とも言えるのである。また、その後の展開としては、「共同体の規模拡大」により「分業化の進展がもたらす生産性の向上」が発生したことも見て取れるのである。
このように、現代社会は、「グローバル共同体」という言葉のとおりに、「2008年前後に、共同体の規模がピークを迎えた状態」であり、その後は、「東西の冷戦激化」により、すでに、「共同体の規模が、劇的な縮小を始めている段階」とも言えるのである。つまり、「目に見えない信用」が「目に見える通貨」に変換されるものの、その後は、「世界的な不信感の増加により、共同体の規模縮小が始まった状況」とも考えられるのである。
より詳しく申し上げると、「過去2000年間の世界的な金融システムや通貨制度」を俯瞰した場合、「1971年のニクソンショック」から始まった「信用本位制と呼ぶべき通貨制度」については、それまでの「金(ゴールド)を本位とした通貨制度」とは違い、「経済成長や政府に対する信用」だけを基にして「大量のデジタル通貨」が産み出された状況だったことも理解できるのである。別の言葉では、「人類史上、まったく初めての実験が、世界の金融市場が行われた状況」とも言えるために、今後の資産運用や、世界経済への対応としては、この点に対する理解や認識が必要不可欠の状況とも考えられるのである。
より具体的には、「信用消滅がもたらす世界的な金融大混乱」が発生する可能性のことでもあるが、実際には、「世界中で開花したデジタル通貨の文明社会が、急速にしぼみ始める可能性」である。つまり、今までのデジタル社会では、「0と1との間に存在する人間の感情や思い」などが切り捨てられ、その結果として、「お金儲けのためなら、どのようなことでも行う人間」が増えていたものの、今後は、「お金よりも命のほうが大切である」という「当たり前の認識」が復活するものと想定されるのである。(2024.5.13)
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スタグフレーションの再来
現在、世界の金融市場では、「1970年代のスタグフレーションが再来しているのではないか?」というような意見が頻繁に見受けられるが、この点には、大きな注意が必要だと感じている。つまり、当時の状況としては、「景気の低迷下で、なぜ、物価の上昇(インフレ)が発生するのか?」が理解できず、そのために、「景気の低迷」を表す「スタグネーション」と「物価の上昇」を表す「インフレーション」を合わせて、「スタグフレーション」という新語が作られたという状況だったのである。
より詳しく申し上げると、当時の状況としては、「デフレ」や「インフレ」という経済用語そのものが、きわめて曖昧な内容しかもっていなかったために、「現実世界で発生している変化に対応できず、より曖昧な言葉が作り出された状況」だったものと想定されるのである。つまり、「1923年のドイツで発生した急激な物価上昇」をキッカケにして、「風船を膨らませる」という意味で使われていた「インフレーション」が経済用語となり、また、「1929年のアメリカで発生した大恐慌」をキッカケにして、「デフレーション」という言葉が使われ始めたものの、きわめて曖昧な内容しかもっていなかったのである。
そのために、約50年後の現時点で、「これらの経済用語に、どのような問題点が存在したのか?」を考えると、実際には、「通貨価値の下落」を意味していた「インフレ」が、現在では、「実体経済の成長がもたらす物価上昇」へと変化した可能性も指摘できるのである。また、「デフレ」についても、同様に、「需要低迷による価格の低下」を表している状況とも思われるが、「1923年のドイツ」で発生した現象は、「国家財政の破綻がもたらした通貨価値の急激な現象」だったことも理解できるのである。
つまり、「1929年のアメリカにおける大恐慌」では、「民間金融機関の連鎖倒産」が発生したものの、「中央銀行の資金繰りや政府の財政状態には、問題が存在しなかった状況」であり、このことは、「国家財政が破綻した1923年のドイツ」とは、大きな違いが存在した状況だったことも理解できるのである。より具体的に申し上げると、「1970年代のスタグフレーション」では、「通貨への信用低下が実物資産への資金移動を発生させたものの、政府や中央銀行の健全性が保たれた状況」だったことも見て取れるのである。
しかし、今回の「世界的な金融混乱」については、「世界全体で、国家や中央銀行の信用が失われ始めている状況」とも言えるために、「1929年のデフレ」ではなく、「1923年のハイパーインフレ」が発生する可能性が高まっている状況とも思われるのである。(2024.5.14)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13757:240615〕
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