「選択的夫婦別姓」の今後―「戸籍」制度そのものの再検討
- 2024年 8月 8日
- 時代をみる
- 池田祥子選択的夫婦別姓
憲法24条および民法750条
「夫婦同姓(氏)が義務づけられているのは、世界中で日本だけだとされる」(法務省)ただし、これまでにも、日本の「夫婦同姓(氏)」制度の違憲性を問う裁判も行われてきたが、2015年および2021年の二度に亘っての最高裁判所大法廷は、「日本の夫婦同姓(氏)制度は憲法に違反してはいない」との判断を下している。
しかし、その一方で、以下のようにも指摘されていることは忘れられてはならない。(とはいえ、現実の政治のレベルでは、ほとんど忘れられているが・・・)
「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄である・・・」
ここで、もう一度、憲法24条と民法750条を確認しておこう。
憲法24条(1項)・・・婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
民法750条・・・夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
確かに、憲法24条の条文を読む限り、「何と〝民主的”な条文であることよ!」と思ってしまう。
「両性の合意のみに基いて」・・・「両性」が、歴史的には「男と女」と想定されてきたのは止むを得ないことではあろう。ただ、カップルが「男と男」「女と女」であっても、「両性」という規定がネックになることはないだろう。さらに、「合意のみに基いて」である。ここには、社会の風習・習慣ゆえに否応なく規制され誘導される側面は、きれいに捨象されている。「権力や暴力が用いられて」いるわけではない。ただ、見えない形で「当然のように強いられている」側面は、この「合意のみに基いて」という「言葉」によって見えなくされている。
「民法750条」は、制定当時、意外にそれまでの「家」同士の婚姻が想定されていたのかもしれない。「男の子」の生まれない家では、娘に「婿養子」を取らせていたから、「夫又は妻の氏を称する」の規定は、すんなり首肯されていたのではないだろうか。
ただ、「家制度」自体は表向き廃止され、「婿養子」のケースはみるみる少なくなって、大半が、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫の・・・氏を称する」となったとしても、誰も意にも留めなかったのではないだろうか。
「選択的夫婦別姓」をめぐる「経団連」の提言
「選択的夫婦別姓」に関わっては、1996年2月に法制審議会が「民法の一部を改正」する答申を公表し、法務省がその年、民法改正の準備を始めたことはよく知られている。
ただ、その後2010年にも同様に、民法改正の準備が始められたが、同じく、与党内の反対が強くて、実現に至っていない。
ところが、今年2024年6月10日、経団連の十倉雅和会長は、「夫婦別姓を認めない今の制度は、女性の活躍が広がる中で、企業のビジネス上のリスクになりうる」(したがって、政府に)「選択的夫婦別姓」の導入に必要な法律の改正を早期に行うよう求める提言を取りまとめた、と発表した。
上記の「ビジネス上のリスク」とは、具体的には、働く女性たちの、「旧姓の通称使用」を指している。「民間企業などでは、(結婚による)改姓によって、キャリアが分断されるのを避けるために、結婚後も旧姓を通称として使用することが定着しているが」、
時に、正式な(?)結婚後の「姓」を用いなければならない時に、「同一人物」と認定されなかったり、「企業にとってもビジネス上のリスク」となり、「企業経営の視点からも無視できない重大な課題である」と指摘されている。そして、「選択的夫婦別姓」という「不自由なく自らの姓を選択できる制度の実現」を求めている。
この経団連の「提言」を受けて、岸田文雄首相は、衆院決算行政監視委員会(6月17日)で次のように述べている。
「真摯に受け止める必要がある。ご指摘は重く受け止める」と、いつもの紋切り型の対応をしつつ、「議論の際には、ビジネス上のさまざまなリスクとあわせて、家族形態の変化や国民意識の動向、家族の一体感、子どもへの影響といったさまざまな視点が考慮される必要がある」と、まさしく「日本の家族」に関わるこだわりを述べている。
岸田首相の「選択的夫婦別姓」への忌避観?
偶然ながら、「朝日新聞」2024.7.15の市川美亜子(社会社説担当)の「序破急」の一文が目に留まった。
― 「子どもの幸せとか利益に関心を持っておられる方は、(選択的夫婦別姓に)消極的な意見が多い」。国会閉会に際した会見で、岸田首相が発言した。聞き間違いかと思ったが、確かに言っている。/文字どおり、はて?が頭に渦巻いた。/直前に首相が言及した「家族の一体感」は繰り返し聞いてきた。「子の氏をどうするのか」「子がいじめにあうのでは」といった懸念も聞いたことがある。だが、子の幸せへの関心の有無と、別姓への賛否を直結させる論は初めてだ。
しかし、この岸田首相の「本音」こそ、日本での「選択的夫婦別姓」から始まる「結婚制度」の変革に対するしぶとい「抵抗」の形・意見なのではないだろうか。
先ほど挙げた経団連の「提言」に呼応するかのように、朝日新聞社の世論調査(2024年7月)が発表されている。
「選択的夫婦別姓」に「賛成」が73%、「反対」21%。
因みに2021年4月の調査では、「賛成」67%、「反対」26%であった。
この3年の間でも、確実に「賛成」が増えていることが分かる。さらに、少し立ち入ると、先の朝日新聞社の調査では、賛成は、女性79%、男性66%で、やはり女性の賛成がかなり多い。また、年代別を見ると、30代では、男女合わせて「賛成」が87%である。時代は、確実に「選択的夫婦別姓」へ動き始めているように見える。
しかし、これらの「選択的夫婦別姓」賛成論が、はたしてどこまで、日本の「結婚制度」の特異性、一体性を対象化しているのか、「選択的夫婦別姓」の実現は、日本の結婚制度を支えている「戸籍制度」までをも問題にせざるを得ないことを、どこまで見据えているのか、さらにまた、「選択的夫婦別姓」制度が、いざ現実化されようとした時には、かなり根強い抵抗が起こりうるだろうことを、どこまで見通しているのか・・・
日本の「結婚」の制度と問題は、まだまだじっくり考えていかなければ、と私は思っている。(続く) 2024.8. 5
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