(訂正版 )太陽観測衛星「ひので」の観測結果は何を物語る?
- 2011年 11月 3日
- 交流の広場
- とら猫イーチ太陽観測衛星「ひので」
数年前より、黒点が減少しつつある太陽の活動が冬眠期に入るのではないか、と天文学を中心とした専門域の科学者は観測に注力されて来ました。 観測にあたり強力な味方になったのが、2006年に打ち上げられた「ひので」でした。 現在は、「ひので」の他に、米国のSDOを始めとして6機の衛星が太陽を観測しています。
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hinode/index.shtml
太陽観測衛星 ひので
http://sdo.gsfc.nasa.gov/
SDO Solar Dynamics Observatory
その「ひので」による観測で、今まで実際に確認されたことが無い事実が明らかになりつつあります。 最近では、「磁場反転」に関する観測結果が発表され、一部では記事になりました。
読売新聞の記事では、「磁場の反転と、太陽の黒点数増減の周期は、通常約11年で一致していたが、2009年初頭まで続いた黒点の周期は12・6年に延びた。活動周期が延びる時期は、地球が寒冷化することが知られている。」とあります。
しかし待ってください。 マスコミは「地球温暖化」を極限まで煽って来たのではないのでしょうか。 「地球が寒冷化することが知られている。」と人事のように書いて良いのでしょうか。 ましてこれだけでは、何のことか判然としません。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20110902-OYT8T00266.htm
地球環境に変動?太陽北極域で異例の磁場反転 (2011年9月2日 読売新聞)
そこで、「ひので」の観測結果を詳しく知るために、平成23年8月31日に行われた「平成23年宇宙開発委員会(第25回)」の議事録を参照しました。 常田佐久氏 (独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、国立天文台教授 )の説明で、観測結果に基づく事実が明らかにされていますが、質疑応答の部分が注目されます。
太陽が冬眠期入りするのかどうか、については、常田教授は、科学者らしく、「いささか心もとない返事しかできませんが」と断られて、不確定の部分は断定されませんが、「今から4、50年以内に太陽の黒点が長期的にない状態になる片りんがあるということです。」と明言されています。
以下、議事録より引用
【池上委員長】 今までいわれていることは、太陽がまた冬眠期に入って、16世紀と同じようなことが起きるかもしれないということに対して、必ずしもそうではないというのが今回の成果ですか。
【JAXA(常田)】 そこまでは言いませんが、今回、周期が12.6年になっていまして、もう1回13年程度になると、マウンダーミニマムにいくのではないかと思っている人が多いですね。ただ、これは物理的メカニズムが非線形なのでなかなか理解が進んでないこともあって、どうしても推測の世界になります。こういうデータだから、今までの経験則に基づいてこうなるだろうというところが多くて、いささか心もとない返事しかできませんが、もう1回続くとマウンダーミニマムにいってしまうかもしれません。ですから、今から4、50年以内に太陽の黒点が長期的にない状態になる片りんがあるということです。
具体的にどういう意味かと言いますと、「温暖化が人間の活動によるものなら、それを抑制するほうには行くだろうと思います。」と説明されています。
以下、議事録より引用
【池上委員長】 先ほどの話で、過去の木の年輪を見て、やっぱり相関があることはわかっているのですか。6,000年のデータを見ると、非常に冷えた時期は、多分年輪が狭くなっていると思いますが。
【JAXA(常田)】 木目を見て温度的なデータを得ることと、炭素の同位体、宇宙線がつくる同位体を見て太陽活動を求めるという2つの方法を比較すると、気候、気温と太陽活動の相関がかなりはっきりしているといわれています。
【池上委員長】 そうですか。ではこれから先は最悪の場合は冷えていく可能性があるということですか。
【JAXA(常田)】 そこまで言えるかわからないですが、少なくとも、温暖化が人間の活動によるものなら、それを抑制するほうには行くだろうと思います。
【池上委員長】 なるほど。うまい表現ですね。
更に、常田教授は、太陽黒点の減少と寒冷化の関係は、観測事実(天文学的事実)として確定している、と言明されています。 また、服部委員の「たしか2度ぐらい平均で下がったという評価がありますよね。」との問いに、常田教授は、「そうですね。」と応じられています。 これは意味深です。 何処かの学会ではないものの「査読論文」好きのI○○○とか、Carbon millionaireのG○○○の2度温暖化の話の正反対ですから。
以下、議事録より引用
【服部委員】 なるほど。それから基礎的な話ですが、黒点が出てきたり、あるいは極が変わったりというお話があったのですが、それが我々の社会に影響するものとして、今は温度の話がありましたが、太陽系のいろいろな現象を極めることによって、科学的な興味以外に、我々の日常や長いスパンでの生活に影響するものが考えられるのですか。
【JAXA(常田)】 普通、天文学者というと、天体にしか興味がないのですが、非常に大事な御質問で、太陽の場合は、月並みですが、我々の生存に直結しているところがあります。そんなことは絶対に起きないだろうと思いますが、実際は1650年に黒点がなくなって、ほんの400年前ですよね、そのときは寒冷化していたことははっきりしていますので、また起きたらどうなるかという想定質問には、天文学とは少し別な話として答えを考えておかないといけないのかなと思います。
一方、学際的な分野では、天文だけではなくて気候モデルとかにも関係しています。そういうところについては我々も全く知らないので、一番インプットの、エネルギーの入るところだけを我々は観測していますが、その影響のところまでは、軽々しく何か言うことは難しいと思います。ちょっと答えになっていないかもしれません。
【服部委員】 そうすると、1600年に非常に温度が下がった話はよく本でも出ていますが、そのときに黒点はもうほとんどなかったというのは、事実としてあったのですか。
【JAXA(常田)】 ガリレオが望遠鏡を発明して観測しだしたのがほぼ1600年頃で、非常に詳細な記録が残っていますが、ガリレオの記録と、その後継者たちの1600、1700年の観測は、すべて正しかったと思います。15ページにプロットしたようなものですね。本当に黒点がほとんどゼロだったということは天文学的事実で完全に確定しています。驚くべきことが起きていました。
【服部委員】 たしか2度ぐらい平均で下がったという評価がありますよね。
【JAXA(常田)】 そうですね。
【池上委員長】 今のお話に関連して、通常は、磁場が弱くなると宇宙線量が増えて雲が増えるという話は噂ではなくて、ちゃんと議論した話なんですか。
【JAXA(常田)】 ニ、三日前に「ネイチャー」にCERN(欧州原子核研究機構)の実験が出まして、地上でCERNの加速器からの粒子を、大気を模擬した環境の中に入れて、雲の核みたいなものができるというニュースが出ました。
【池上委員長】 やっぱり確認されているのですね。
以上、議事録の引用は、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/uchuu/016/gijiroku/1310708.htm
文部科学省 平成23年宇宙開発委員会(第25回)議事録
http://www.jaxa.jp/press/2011/08/20110831_sac_hinode.pdf
「ひので」の観測成果 ~上昇し始めた太陽活動と極域磁場の反転~
最後の部分に関しては、デンマークのHenrik Svensmarkの学説が有名ですが、温暖化論者は悉く否定的に評論しています。 でも、実験に成功すれば黒白は自明になります。
http://www.nature.com/news/2011/110824/full/news.2011.504.html
Cloud formation may be linked to cosmic rays (Nature News 24 August 2011)
補足
本稿は、筆者の興味本位で「ひので」の観測に基づく成果を御紹介したものですので、関連の成果全体について、国立天文台のHPで御覧いただければ幸いです。
http://hinode.nao.ac.jp/index.shtml
国立天文台ひのでホームページ
宇宙開発委員会で説明をされた常田教授は、御自身の研究室のページで、「この研究室では、(国内外の多くの人・グループと協力して)自分で装置を開発し、観測し、観測結果から新しい事実を見つけ、それを説明する理論を構築するところまでやります。少なくともそういう意気込みでやっています。」「私自身は、新しい観測装置のデータを苦労して解析し、新しいことを発見したときが最も心躍る瞬間です。飛翔体搭載装置を開発する人は、単に観測して論文を書く人の数倍大変です。しかし、そうしなければ絶対に新しいことはできないというのが私の信念です。」と語られる篤い魂を持たれた科学者です。 教授は、NHKの「サイエンスZero」に出演されて、我々一般人にも理解が可能に先端的科学を語られる方でもあります。 御紹介の仕方が悪いのは全て筆者の責任ですので、読者の方と教授には深く御侘び申し上げます。
http://hinode.nao.ac.jp/~tsuneta/
ひので科学プロジェクト 常田研究室
http://www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp206.html
ここまで見えた 知られざる太陽 NHK サイエンスZero
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