やはり原発は新設すべきでない -危険な使用済み燃料をこれ以上増やしてはならない-
- 2012年 8月 24日
- 評論・紹介・意見
- 伊藤力司原発
本ブログ「リベラル21」への寄稿家である早房長治氏の「最低限の原発新設が必要」とする論文を一読、柄にもなく反論したくなった。なぜなら、筆者は原発というものをこの地球上からできるだけ早く全廃すべきだと考えているからだ。その理由は一にも二にも、危険極まりない放射性物質の塊である使用済み燃料をこの地上にこれ以上増やしてはならないということだ。仮に世界中の原発がすべて安全に稼働したとしても、使用済み燃料は増え続ける。トイレのないマンションに排泄物が溜まり続けるのだ
思えば、かのフランスの物理学者キュリー夫妻(Pierre Curie, Marie Curie)が1898年にウラン鉱石中に放射性元素ラジウムとポロニウムを発見したことから、原子物理学がスートする。これより先、やはりフランスの物理学者ベクレル教授(A. H. Becquerel)は、ウランの放射線がα線、β線、γ線の3種類であることを発見していた(日本でも昨年3月以来ベクレルという言葉は放射線量の単位として日常語になったが)。キュリー夫妻とベクレル教授はこの功績で1903年のノーベル物理学賞を受賞した。
この3人のノーベル賞受賞後約40年を経て、アメリカで原子爆弾の開発が急ピッチで進められていた。この40年間世界中の原子物理学者の間では、ウラン235の原子核に中性子を当てて核分裂を起こすと、途方もないエネルギーを放出することが知られてきた。これこそ原子爆弾の原理である。欧州全域を戦火に巻き込んだナチス・ドイツのヒトラーは自国の科学者を督励して、原爆の製造に躍起になっていた。
ヒトラーに迫害された優秀なユダヤ人科学者、アインシュタイン博士やオッペンハイマー博士らはアメリカに亡命、時のルーズベルト大統領にドイツより先にアメリカが原爆をつくらないと欧州は大変な災厄に見舞われると訴えた。こうしてアメリカの原爆製造を目指すマンハッタン計画が始まった。
自然界に存在する唯一の核分裂物質はウラン235だが、ウラン鉱石の99%は核分裂しないウラン238なので、これをウラン235にまで濃縮するには巨大な施設と膨大な費用が必要だった。ヒトラーもドイツ科学者に巨額な予算を与えたが、ウラン濃縮に成功しなかったし、日本でも理研(理化学研究所)で仁科芳雄博士がウラン濃縮を試みたが、成功しなかった。けた外れの予算と優れた亡命科学者多数を擁するアメリカだからこそ、ウラン濃縮に成功したのだった。さらに原子炉から副産物として得られるプルトニウムを使った最初の原発実験が成功したのは1945年7月16日だった。それから1カ月もしないうちに広島(8月6日)、長崎(8月9日)に原爆が投下された。
原子核分裂によるエネルギーを、一瞬の爆発ではなく長期的・持続的に利用する方策が原子力発電である。言うところの、原子力の平和利用である。都市を破壊し生き物を殺傷する爆弾ではなく、原子力エネルギーを人間社会に有用な電気に換えるという訳だ。誠に結構なことで、原爆をつくったアメリカ、旧ソ連、フランス、イギリス、中国が次々に原発を稼働させた。日本もアメリカに勧められて原発建設に励み、米仏に次ぐ第3位(狭い国土に53基も)の原発大国になった。しかし人類は、1979年の米スリーマイル島、1986年の旧ソ連チェルノブイリ、そして2011年の福島第1原発深刻な大事故を体験した。その結果われわれは原発に大事故が起これば、放射能汚染という恐ろしい事態に見舞われることを骨身にしみて味わうこととなった。
そうなのだ。キュリー夫妻、ベクレル教授の大発見以来110年以上、世界中の最も優秀な科学者たちが有害な放射能をコントロールする術を発見しようと懸命に努力してきたが、その努力は実っていないのだ。しかも原子炉を動かせば否応なしに、放射能の塊である使用済み燃料が出てくる。おまけにウラン235を原子炉で燃やせば、副産物として危険極まりないプルトニウムが自動的に生成される。このプルトニウムの毒性は何万年かかっても消えないというのだ。
原発を建設することは「トイレのないマンション」をつくるようなものだ、という例話は多くの人が知っている。トイレがないのに使用済み燃料という有害な排泄物を地球上に排出し続けているのが原発である。使用済み燃料を再処理して高速増殖炉の燃料に利用すれば、無限のエネルギーが利用できるというのが「夢の増殖炉」という話である。これは理論的には正しいとされているが、実現は極めて困難だ。現に福井県には1994年に高速増殖炉「もんじゅ」が建設されたが、冷却材につかうナトリウム漏れの事故が重なるなど、18年経ってもまだ実現できないでいる。原子炉先進国のフランスでも「フェニックス」という高速増殖炉計画が進められていたが、結局ものにならないという結論が出て、計画はオシャカになった。
使用済み燃料を再処理するため2001年に竣工した青森県六ヶ所村の再処理工場は、2兆円余の膨大な予算を食ったにもかかわらず、未だに稼働出来ない状態が続いている。仮に再処理が行われたとしても、そのプルトニウムを使う高速増殖炉はおろかプルトニウムをそのまま原発燃料に利用するプルサーマル計画も、大飯原発を除いて原発48基がストップしている現状では意味がない。六ヶ所村と各地の原発サイトには、キャスクという特殊容器に入れられた膨大な使用済み燃料がたまったままだ。
使用済み燃料を再処理できなければ「直接処理」と称して、地中深くに埋めるしかない。そこで日本政府はこれまで最も過疎のいくつかの地域に、莫大な交付金を与えることを交換条件に直接処理の候補地を探してきたが、どこからも断られたままである。あの広大なアメリカでもその候補地が見つからないのだ。どういう訳か日本の新聞ではあまり大きく扱われなかったが、米原子力規制委員会(NRC)は8月6日、使用済み核燃料の最終処分の対応策ができるまで、新規原発の建設認可手続きをストップすると発表した。これは米政府がネバダ州ユッカマウンテンに恒久的な最終処分場を設ける計画を、地元の反対で断念したことが直接の理由である。
フィンランドでは、後の世代に害を及ぼさないためにと地中深くに穴を掘って使用済み核燃料を10万年貯蔵する施設を建設しているという。しかし10万年先の「人類」にその施設が危険なものであることを本当に知らせることができるだろうか。その苦悩を描いた「100,000年後の安全」というドキュメンタリー映画が昨年日本各地で上映された。残念ながら筆者はこの映画を見逃したが、チラシによると「未来のみなさんへ ここは21世紀に処分された放射性廃棄物の埋蔵場所です。決して入らないで下さい」と各国語での注意書きが貼られているという。10万年後の人がそれを理解できるだろうか。
早房氏は「新興国で建設される原発の安全性の向上に寄与するために、国内での最低限の原発新設も必要である」「日本が安全技術のレベルを向上し続け、新興国などを援助するためには国内的に原発を実際に建設し続けなければならない」と言う。これは本末転倒ではないか。日本の安全技術がお粗末だったから福島事故が起きたのではないか。野田内閣はいまだにベトナム、トルコ、リトアニアなどに日本からの原発輸出を意図していると報じられている。これまた本末転倒である。
故郷を失った16万人もの福島県の人々だけでなく世界中に迷惑を掛けた日本が、原発を輸出するなど許されることだろうか。新興国で新規に原発を建設して稼働すれば、この地上に危険な放射性使用済み燃料をさらに増やすことを意味する。新興国がもし今でも原発を建設したいと言うのであれば、日本は「原発は危険だからやめろ」と言い、再生可能エネルギーのプラント輸出に取り組むが筋ではないか。
早房氏はまた「自然エネルギーの開発が遅れた場合、日本全体がエネルギー不足に陥り、ブラックアウト(大規模停電)」の怖れがあると指摘している。しかし多くの専門家が指摘しているように、昨年春実施した東京電力による計画停電は「電力が不足する」との「脅し」であって、実際には電力は足りていた。野田内閣が無理やり実行した大飯原発の再稼働だが、再稼働なしでも関西電力管内はブラックアウトの危険などなかったことが明らかになっている。
今年も猛暑の中、甲子園では高校野球が例年通り開催されている。今年も日本中でたくさんの人がエアコンを入れながら高校野球をテレビ観戦したはずだ。午後2時とか3時とか最も暑い時間帯に、高校球児たちの熱戦が展開されるので、電力使用量はピークに達する。お盆休み中は休業していた多くの工場も操業を再開、残暑きびしい中で高校野球も準決勝、決勝と進んでTV観衆も増えているというのに、電力不足は起きていない。
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