護憲派は今こそ奮起を -「戦後民主主義」の息の根を止めさせないために-
- 2012年 12月 9日
- 時代をみる
- 岩垂 弘憲法改正総選挙
16日に行われる総選挙は日本の歴史上、画期的な転換点になるのではないか。なぜなら、このまま行くと、日本国憲法の改定を掲げる政党が多数を占めそうな気配だからだ。もしそうした選挙結果になれば、日本国憲法の改定が極めて現実味を帯びてくる。もし日本国憲法改定が現実のものとなれば、それは、戦後日本の政治社会体制の骨格をなしてきた「戦後民主主義」の終息を意味する。今こそ、護憲派に、改憲勢力に「戦後レジームの総決算」をさせないための奮起が望まれる。
日本国憲法が施行されたのは1947年5月3日である。よく知られているように、日本国憲法は日本が15年に及ぶ「アジア・太平洋戦争」を起こしたことへの反省を踏まえて制定されたものであり、日本国憲法を支える理念は「平和主義」「国民主権」「基本的人権の尊重」の3本柱とされる。「平和主義」を体現したものが第9条であることは言うまでもない。これらの理念をまとめて総称したのが「戦後民主主義」と言われる呼称であり、これが、戦後日本の国家的枠組みを形づくってきたといってよい。
「戦後民主主義」を根底で支える日本国憲法が施行されてからすでに65年になるが、これまで、これが改定の危機に直面したことがたびたびあった。中でも最大の危機は1954年12月10日に鳩山一郎内閣が成立した時だ。鳩山一郎は当時、日本民主党(自民党の前身)総裁で、憲法改定に意欲的だった。
このため、1955年2月27日に行われた第27回総選挙は、憲法改定をめぐる与野党の激突の場となった。与党の日本民主党が「独立の仕上げ(自主憲法制定の準備を含む)と領土回復」を公約に掲げたのに対し、野党の左派社会党は「護憲・非武装・中立」を掲げ、右派社会党も「総選挙で保守派が3分の2を占めれば、憲法が改正され、再軍備が行われ、徴兵制がしかれる」と訴えた。
総選挙の結果は日本民主党185、自由党112、左派社会党89、右派社会党67、労農党4、共産党2、諸派2、無所属6。左右両派社会党と労農党、共産党合わて162議席となり、衆議院全議席の3分の1(156議席)を上回って憲法改正発議の道を封じたのである(日本国憲法第96条には「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」とある)。
この時以来、衆参両院で憲法改定への発議がなされることはなかった。この間、日本国憲法の理念は着実に国民の間に定着してきた、とみていいだろう。
ところが、6日付の新聞各紙を見て、仰天した。各紙による衆院選序盤情勢調査(世論調査)の結果が載っていたからだ。「朝日」は「自民は単独で過半数を確保する勢い」「日本維新の会は50前後」と報じ、「読売」は「自民は単独で過半数を大きく上回る勢い」「日本維新の会は自民、民主両党に続く第3党の座をうかがう」と書いていた。「毎日」は共同通信社による世論調査結果を掲載しているが、それによると、各党の推定獲得議席数は民主69、自民293、未来15、公明27、維新46、共産8、みんな15、社民2、大地1、無所属4で、同紙も「自民 単独過半数の勢い」と伝えている。つまり、3紙とも自民党が単独で過半数を制するだろうという予測で一致している。
かりに共同通信社が予測するように自民が「293議席」を獲得したとする。日本維新の会が50前後(朝日)から46議席(共同通信)とすると、自民、維新の両党で343~339議席となる、そうなると、これはもう衆院全議席の3分の2を上回る巨大な勢力である。
11月30日付朝日新聞によると、自民党は今回の総選挙公約で「憲法改正」を掲げ、「自衛権の発動を妨げず、国防軍保持」と明記している。そして、安倍晋三総裁は、30日に日本記者クラブで行われた11党による党首討論会で「国防軍は、憲法を改正しなければ国防軍にはしない。我々は憲法を改正する手順として、まず96条の改正手続きから始めたい」と述べた。また、安倍総裁は、たびたび集団的自衛権の行使容認の発言をしている。「集団的自衛権の行使は日本国憲法上許されない」というのが、これまでの政府見解である。
さらに、11月30日付朝日新聞によれば、日本維新の会の憲法関係に関する選挙公約は「自主憲法制定。首相公選制、参院廃止」となっている。
総選挙の結果によっては、自民党と日本維新の会の連携も考えられる。5日付朝日新聞によると、日本維新の会の石原慎太郎代表は4日、NHKの番組で、総選挙後の自民党との連立について「できると思う」と述べ、呼びかけがあれば、前向きに検討する考えを示唆した。その上で、「自民党は憲法を大幅に直す、あるいは新しい憲法を作る(と言っている)」とし、改憲に向け連携することに意欲を示した。
安倍総裁は、2006年9月に第90代内閣総理大臣に就任した時、所信表明演説で「戦後レジームから脱却し戦後の総決算を行う」と述べた。そして、在任中、国民投票法(日本国憲法の改定手続きに関する法律)を成立させた。今度の総選挙で大勝すれば、いよいよ「戦後レジームから脱却し戦後の総決算を行う」ために全力を上げるだろう。
「戦後民主主義」はいまや最大のピンチを迎えたとみていいだろう。戦争直後に制定されたばかりの日本国憲法の理念に基づく教育を受けた「戦後民主主義世代」の1人として、危機感が募る一方である。
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