法律新聞(2月14日)より、「福島の子どもたちを守るために -「まつもと子ども留学」と「ふくしま集団疎開裁判」の取り組みについて」
- 2014年 2月 21日
- 交流の広場
- chibaふくしまの子どもたち
週刊「法律新聞」(2月14日付け2面)に掲載された記事を
ご本人の了解を得て投稿します。
◇松本市の被ばく低減のための取組みについてもぜひご覧ください。
「まつもと子ども留学」ホームページ
http://www.kodomoryugaku-matsumoto.net/
◇松本市長による記者会見(2013年12月17日)
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/shisei/sityo/kaiken/2013/20131217.html
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福島の子どもたちを守るために
~「まつもと子ども留学」と「ふくしま集団疎開裁判」の取り組みについて
弁護士 安藤雅樹(長野県弁護士会所属)
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1 この度、原発事故の被害に遭った(そして今も遭い続けている)福島県を中
心とした放射能汚染地域の子どもたちを守るため、「まつもと子ども留学」の取
り組みが始まった。
これは、福島の子どもたちを長野県松本市に設置する寮に受け入れ、安全で
安心できる生活・教育を提供するというものである。福島から親子避難している
家族は多いが、現在福島に留まっている家族も、避難したい、せめて子どもだけ
でも避難させたいという気持ちは持っているものの、仕事上の問題など様々な事
情により親が避難することができないという人が多くいる。そのような家族に、
子どもだけでも「留学」という形で被ばくの危険性が少ない地域に避難させると
いうプロジェクトである。
2 子どもは被ばくに対するリスクが高く、内部被ばくを含めて将来の健康に影
響を及ぼす可能性があり(平成25年11月に、既に疑いを含めて59人の子ど
もたちの甲状腺癌が発表されている)、汚染地域から避難させる必要性が高い。
また、福島の子どもたちは外で十分に遊び回ることができず、土いじりなどもで
きないといった状況にあるが、子どもの健康かつ健全な成長のためには生活環
境・教育環境として適切なものとは言えない。
子どもたちの避難は、本来であれば国や福島の地方自治体が率先して行うべ
き課題である。しかしながら、国などは被ばくの危険を矮小化して評価すること
に終始し、このような施策に取り組むことは全くない。むしろ帰還を進めるため
に莫大な予算をつぎ込んで邁進している状況であるし、避難を受け入れてきた周
辺自治体も被災者への支援を打ち切りつつある状況である。
そのような状況下で、子どもだけを避難させるという取り組みを、民間主導
で行うことを考えたのが、「まつもと子ども留学」である。
3 本「まつもと子ども留学」は、受入先の地方自治体である松本市と、特定非
営利法人まつもと子ども留学基金が協力して行うことに特色があり、民間NPO
と松本市が協働して子どもたちを受け入れるという点で、私の知る限り全国初の
取り組みである。
松本市の市長は、チェルノブイリ原発事故の後に医師として現地で医療活動
を行った経験のある菅谷昭氏で、原発事故直後からテレビや講演などで健康被害
のリスク及び子どもたちを避難させることの重要性について発言してきた。菅谷
市長と松本市に福島から避難している市民たちとが懇談を重ねる中で、本取り組
みを行うこととなり、現在まで民間と松本市の協働によりプロジェクトが進んで
いる。
具体的には、松本市において教育環境を整え、NPOにおいて住環境、ス
タッフ体制を整え、資金集めを行うというものである。松本市においては居住す
る地域の理解を得るためのネットワーク作りについても協力してもらっている。
平成25年12月17日、松本市長及びNPOより本プロジェクトが記者発表さ
れ、「留学生」を募集し、現時点で数名の福島の子どもたちの松本への「留学」
が決まっている。平成26年4月の開始のため、ボランティアや地域の人の協力
を得て、寮の整備などを急ピッチで進めている状況である。
4 このプロジェクトの原点の一つに、「ふくしま集団疎開裁判」がある。
これは、平成23年6月24日、福島地方裁判所郡山支部において、郡山市
を相手方として、福島県郡山市立小中学生14人が、年1ミリシーベルトを超え
る環境下の学校施設で教育活動を実施することの差止め、及び、年1ミリシーベ
ルト以下の環境下の学校施設で教育活動を実施することを求めた民事仮処分事件
である。
審尋を重ねたが、平成23年12月16日(奇しくも当時の野田首相が
「福島第一原発事故収束」宣言を行った日であった)、福島地裁郡山支部で却下
決定を受けた。そのため仙台高裁に即時抗告をした。
仙台高裁による決定は平成25年4月24日に下された。その決定では、
「チェルノブイリ原発事故によって生じた健康被害、福島県県民健康管理調査の
結果、現在の郡山市における空間線量率等によれば、子どもたちは、低線量の放
射線に間断なく晒されており、これによる、その生命・身体・健康に対する被害
の発生が危惧され、由々しい事態の進行が懸念される。この被ばくの危険は、こ
れまでの除染作業の効果等に鑑みても、郡山市から転居しない限り容易に解放さ
れない状態にある。」と判示しつつも、「中長期的には懸念が残るものの、現在
直ちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは証拠上認め難い。」とし、
被保全権利・保全の必要性を否定した却下決定であった。
仙台高等裁判所は、チェルノブイリ報告書や福島県民健康管理調査の結果等
から、子どもたちの生命身体への被害発生の危険性を正当に評価し、「由々しい
事態の進行が懸念される」と強い調子で断定し、集団疎開は、「被ばく被害を回
避する一つの抜本的方策として教育行政上考慮すべき選択肢である」とまで述べ
ている。それにも関わらず、裁判所は子どもたちが郡山市に対して避難を求める
権利を有することを認めなかったが、これは責任を行政に丸投げし、司法の職責
を放棄したに等しい結論であると言える。
現在進行中の21世紀日本最大の重大な人権侵害について、司法が果たすべ
き役割は本来大きい筈であるが、この役割を自ら放棄したことになる。司法の自
律の観点からも重大な問題であると言わざるを得ない。
5 「まつもと子ども留学」と「ふくしま集団疎開裁判」の取り組み、これに共
通する目標は「脱被ばく」である。
福島第一原発の事故による被ばく。繰り返すが、これは明らかに、21世紀
日本での最大の人権侵害行為である。それが現在も進行している。しかし私たち
法律家はこれに余りにも無関心になってはいないだろうか。この無関心あるいは
傍観は、重大な人権侵害行為に手を貸していることにすらなるのではないかと考
える。
被災者の損害賠償への支援など、法律家がやるべきことは多い。その中でも
私は「命」を守るべく、脱被ばくのためにできることをしたい。その取り組みの
大きな柱が「まつもと子ども留学」である。もとより、松本だけの取り組みで終
わるのではその意義は小さいものとなってしまう。全国各地でこのような取り組
みを行い、最終的には国の施策として子どもたちだけでも「疎開」「避難」させ
る、そういった大きなうねりができればと夢想する。
私たちは、将来ある子どもたちの命と健康を守るため、動かなければならな
い。それは原発を基礎にした社会を是とし、あるいはそれに対する問題意識を持
とうとせずに無批判に文明社会の恩恵を享受してきた、私たち大人の義務であ
り、償いでもある。
以上
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弁護士 安藤雅樹
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