違法輸入がはびこる放射線照射食品・下 -照射食品は「健全な食べもの」なのか-
- 2014年 7月 16日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治放射線食品
◆利用が急増する中国
食品への放射線照射は「原子力の平和利用」として始まり、原子力関係者の強力な後押しを受けて、多くの国に広がっている。
世界の事情に詳しい久米民和・元日本原子力研究開発機構研究員によれば、世界の年間処理量(照射食品生産量)は2005年の約40万トンから10年には47万トン以上に増え、さらに12年には100万トンに達したと推定されている。
最大の処理国は中国で、ニンニク、スパイス・乾燥野菜、健康食品、穀類、肉類など多種多様な食品に照射している。近年は農薬類の過剰投与が問題になったため、それに代わるクリーンな方法として増加が著しい。コバルト60γ線照射施設が200基以上あり、処理量は12年には76万トンにまで増えたと、照射食品関係の国際会議で報告されている。
近年、ベトナムやメキシコなどアジアや中南米での処理量も急増しているが、これは主に米国へ熱帯果実を輸出するためだ。米国は世界有数の処理国であると同時に、世界最大の照射食品輸入国でもある。
◆「健全性に問題はない」と国際機関
世界ではこれほどまでに増加した照射食品だが、そもそも「健全な食べもの」といえるのだろうか。三つの視点から考えてみよう。
一つは安全性である。
照射食品を食べたからといって、すぐに健康に悪影響が出ることはない。ただ照射食品が登場して以来、摂取すると健康に悪影響があることを示す動物実験がいくつも発表され、論争が続いてきた。
そうしたなかで国連食糧農業機関(FAO)・国際原子力機関(IAEA)・世界保健機関(WHO)の合同専門家委員会は1980年に「10kGy以下の照射食品の健全性(毒性学的・微生物学的安全性と栄養学的適格性)に問題はない」との見解をまとめた。さらに97年にはWHOが「10kGy以上照射しても食品の健全性に問題はない」との見解を発表している。
しかし、原子力関係者を含めた合同専門家委員会の見解には多くの疑問が出されている。また、WHOの見解について欧州連合(EU)の食品科学委員会は「いかなる線量を照射した、いかなる食品も安全である」という見解を受け入れず、安全性は個々の食品ごとに調べる必要があるとしている。
日本の厚労省は「安全性や品質に与える影響に関しては、現段階では十分な評価がなされていない」との立場だ。
◆オーストラリアでネコ怪死事件
照射食品の安全性に疑問をつきつける事実も次々に明らかになっている。
たとえば「人類への警告かもしれない」とされるオーストラリアでのネコ怪死事件だ。同国で2008~09年の半年間に95匹のネコが神経症状を起こし、37匹が死亡した。調べると、同国政府が防疫のため高線量の放射線照射を義務づけていた非加熱の飼料(ペットフード)を与えられていた。政府は09年5月、キャットフードへの照射義務づけを中止した。
これまでのところネコにしか確認されていないが、EUの科学専門委員会は「健康への有害影響の可能性を示すエビデンス」だとし、ヒトの健康への関連性を評価するためさらなる研究が必要としている。
このほか、食品照射でできる副生物(分解生成物)の「2-アルキルシクロブタノン」が発がん促進作用をもつ可能性が指摘されている。
また、放射能汚染食品が誘導放射能(放射線を出す力)をもち、体内被曝を増加させるのに対し、照射食品は放射能を帯びることはないというのが通説だが、これに疑問を示す調査論文も発表されている。
1950~60年代の米国陸軍の研究所の実験で、国際的に認められている放射線照射でも、食品に含まれる元素によっては放射能を帯びることが明らかにされていた――軍のベールの中で行われ、ずっと伏せられていたこの研究を、日本の国立医薬品食品衛生研究所の宮原誠研究員が発掘し、同研究所報告『国立衛研報』第127号(2007年)に発表しているのだ。
◆食品の品質が低下する
二つ目の視点は有用性・必要性である。
国際食品規格委員会(コーデックス委員会)は10kGy以下の照射を認めつつ、それは「衛生管理や製造管理の代用として用いられるべきではない」との条件をつけている。しかし、世界で実施されている照射の多くはこれらの代用として使われているのが実態だろう。
照射によって食品の内部では大きな変化が起き、たとえばビタミンB1、ビタミンC含有量は減少するし、食材によっては風味などが変化する。また生鮮食品に照射すれば、いつまでも新鮮に見え、結果として消費者をだますことになる。
「こうしたことが水面下で行われれば、食品の質は低下していく。たとえばフンまみれの鶏肉を照射すれば、殺菌はされるが、フンは残り、口に入るのです」と久保田裕子・国学院大学教授(消費経済論)はいう。
食品の衛生安全を保つ技術は次々に有効な方法が開発されている。消費者にとって放射線照射は必要のない技術なのだ。
そして三つ目が、食べものの本質に関する視点だ。食べものは単なる物質ではなく「生命(いのち)の糧(かて)」である。そのようなものと、原子力技術が生みだした放射線照射とは相容れないものではないだろうか。
◆表示の厳格化で需要が激減
EUは中国などとは対照的に、照射食品の導入に慎重だ。1999年に統一規制を定め、照射原料を使った製品も含めて厳格な表示を義務づけたところ、処理量が激減した。需要が激減した結果とみられる。同時に認可品目リストの拡大も目指したが、これまでのところ認可されたのは「スパイス・ハーブ類」だけである(このほか加盟国が国別にいくつかの品目を許可している)。
消費者が受け入れないのは韓国も同じで、少量添加物にも表示が義務づけられた直後の2010年から需要は激減し、いまや壊滅的な状態になっている。
◆日本ではジャガイモの発芽防止だけ
日本では1972年にジャガイモの発芽防止用が許可された。北海道・士幌町農協に全国でただ一つの照射施設があり、74年から運営されている。
厚さ2メートルのコンクリートで遮蔽された照射室の中心にコバルト60が装備され、1・5トン入りコンテナ19個に入れられたジャガイモがその周りを一方の面から1時間、反転して他方の面から1時間回ってγ線を照射される。
照射ジャガイモは「芽止め・ガンマ線照射済じゃがいも」の表示つきで販売されているが、需要は表示のない加工食品が中心だ。年間出荷量は目標よりはるかに少ない6000トン前後(ジャガイモ全体の約0.3%)にとどまっている。
2000年に全日本スパイス協会が、トウガラシやコショウ、ニンニク、ゴマなど94品目の香辛料への照射を認めるよう政府に申し入れた。これを受けて原子力委員会は06年に推進を促す文書を厚労省などに通知。これに対して厚労省が10年に、安全性審査に進むにはまだ資料が不十分との趣旨の通知を原子力委員会に返し、そこで表立った動きは止まっている。
◆牛の生レバーで研究が進行中
いま注目されているのは、生の牛レバー(肝臓)への照射だ。牛レバーの生食の販売・提供が2012年7月から禁止されているが、照射によってそれを解禁させようという動きが進んでいる。
厚労省が主導し、国立医薬品食品衛生研究所などが2012年9月から15年まで実験中だ。これまでの実験で、死者も出た食中毒の原因になった「腸管出血性大腸菌」の除去に必要な放射線照射量の大枠は把握したといい、さらに研究を続けている。
関係業界は早期の解禁を要望しているが、仮に解禁されたとしても、照射費用に冷凍状態を維持するためのドライアイス費用などを加えると、コストは1kg当たり100~200円かかる見通しだ。風味が微妙に変化するという見方もあり、どこまで消費者に受け入れられるだろうか。
照射食品を増やそうという国内の動きについて、中村客員教授は「個々の品目ごとに毒性検査を丁寧に実施することが最低限必要」といい、久保田教授は「予防原則に立ち、いっさい認めるべきでない」という意見だ。
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