「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」中の駄法螺について(続々)
- 2014年 7月 16日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
閣議決定文書の非現実的で虚構の論理、即ち、空中楼閣を笑っている場合では無い、と云うことは分かっているのですが、いくら連立相手の説得用にしても、これでもか、とばかりに駄法螺を連ねた文書を読んでいると、不謹慎にも笑わずにはおれません。
例えば、文書中の「2国際社会の平和と安定への一層の貢献」中の「(2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用」の最終に唐突に書かれた一項がありますが、それは、「(エ)なお、これらの活動における武器使用については、警察比例の原則に類似した厳格な比例原則が働くという内在的制約がある。」と書かれています。
まあ、言いたいことは分かりますが。 此処でいくら強調しても、現実には何の意味もありません。 海外在留邦人保護名目で、海外派兵した自衛隊が現地で誤射し現地の民間人を殺傷した場合等において、連立与党の一方が、だから我が党は、警察比例の原則を貫くように主張した、と言い逃れ出来るように態々、意味の無い一項を入れたのでしょうか。 でも、第一、此処では、「日本警察における」との限定がありません。 それに、今後は、日本の警察機関も米国並みに銃器の使用が許容される事態が多くなることでしょう。 警察比例の原則ね~。 大公秀吉の刀狩りではないですが、一般人の銃器保有が珍しい国では、牧歌的な夢物語を語るのも良いでしょうが、海外では通用しないでしょう。
因みに、米国の警察機関では、銃器の使用許可は容易ですし、警察機関そのものが軍隊化しています。 米国内の治安が悪いのと、民間人の銃器所有が一般的なことに依り、警察機関の銃器使用が多いのが特徴的です。 警察機関の銃器訓練も軍隊と同等です。 ある意味では、軍隊より銃器使用が頻繁、とも言えます。 下記の訓練状況に明らかなように、警官の拳銃を収めたホルスターは抜き撃ちに適したようにカバー等はついていません。 その昔、米国各地の警察で、警察官用のホルスターに米軍用を採用しようとしたところ、警察官組合が反対してストまでしたことがあるくらいです。 何故なら、現場で、抜き撃ちしなければならない警察官にとっては、軍用ホルスターのように拳銃を覆うカバーがついていては、咄嗟の場合に後れをとるからです。
https://www.youtube.com/watch?v=KuwHygZlWYE
Police Gun Training You-tube
更に、警察機関には、SWATと呼ばれる準軍事部隊があり、重武装しています。 実際の薬物犯罪取り締まりに出動したSWATが銃器を使用した事例が下記にありますが、一台の車両に何発撃っているのかが御分かりになりますか。
https://www.youtube.com/watch?v=ummnOoSfd54
SWAT open fire on fleeing drug dealer You-tube
逆に、下記の英軍のように、軍隊が警察機関のように、抜き撃ちが可能な拳銃とホルスターを採用した事例もあります。 これは、恐らく、中東でのイスラム過激派との戦訓に依ると思われます。 グロック17は、安全装置が引金にあり、引金を引くと同時に安全装置が外れる構造ですので、弾丸を薬室に装填したままホルスターに入れておき、抜き撃ちが可能になるのです。 テロとの戦いの行く末は、軍と警察が限りなく同質化して行くのです。
https://www.youtube.com/watch?v=cPIpNUPKVuY
Royal Marine Firing New Glock 17
さて、或る意味では、米国自身が国内で対テロ戦を日常的に行っているかのような状況ですが、この国のテロとの戦いに参加すれば、必然的に、警察機関と自衛隊の訓練を厳しくして行かざるを得ません。 閣議決定文書にも言及はありますが、それが何を意味するかを考えると暗澹たる思いがします。
米国とともに、対テロ戦争を継続中の英国で、昨夏に生じた予備役兵士の教練中の事故では、救出時に2名が既に死亡し、1名が重体で後に死亡しました。 彼らは、予備役のSAS(英陸軍特殊空挺連隊 Special Air Service)に志願し、そのために過酷な教練中であったのですが、風光明媚なブレコン・ビーコンズでも、軍の教練地としては、一般兵士にとっては過酷に過ぎたのでしょう。
Two soldiers die in heat while training in Brecon Beacons The Telegraph By Ben Farmer, Defence Correspondent 3:25PM BST 14 Jul 2013
Brecon Beacons National Park
英国では、この事故を契機に軍役中の死亡者の調査が行われました。 報道に依りますと、例えば、The Independentが入手したMOD(英国防省 Ministry of Defense)の資料では、1998年から2007年の過去10年間に800人近くの英軍で兵役に在った者が死亡したとのことであり、その内、三分の一が健康上、或は安全上の瑕疵に依る事故死とのことです。
One-third of deaths in Britain’s military caused by accidents The Independent By Brian Brady and Jonathan Owen Sunday 22 February 2009
自衛隊での教練も、特に島嶼部での侵攻を想定したものでは、米軍とともに実戦に近い厳しい演習が実施されているようですし、習志野の空挺団では、陸上自衛隊の尖鋭とも言える部隊に相応しい過激な教練が行われているようです。 今後は、警察機関ともども訓練の更なる過激化が想定されますので、事故の多発化も想定されます。
護憲・反戦の陣営にある方々には、以下の英陸軍の新兵訓練を御覧になるのは御注意を願いますが、これが、戦争を現実にしている国の軍事教練なのです。 しかも、未だ20歳前後の新兵が相手の初歩的教練です。 その新兵の教練で、上官の怒号が飛ぶ中で、タリバンを敵に見立てて銃剣徒突の教練を行うのです。 子供や孫に、こんな教練を強いるのが通常になれば、この国の行く末はどうなることでしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=_Op1zjd7KKE
British Army Bayonet Training You-tube
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4915:140716〕
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