沖縄の海兵隊について考えたこと
- 2010年 12月 17日
- 評論・紹介・意見
- 沖縄浅川修史海兵隊
海軍にも陸軍に相当する地上戦を行う部隊がある。戦前の日本海軍には陸戦隊があった。1937年の第二次上海事変では日本租界を国民党軍から守るために戦ったが、兵力に優る国民党軍に圧倒され、拠点をかろうじて守ったが、最後は陸軍の大規模な応援を必要とした(杭州湾上陸作戦など)。この反省もあって、「陸軍並みに戦えることを目標にした」海軍特別陸戦隊をしだいに整備して、太平洋戦争ではマリアナ諸島、フィリピン、硫黄島、沖縄で陸軍とともに米国と戦った。しかし、海軍陸戦隊は陸軍と比較すると、特別陸戦隊といえども、兵士の資質、装備、訓練でかなわず、陸軍からは、「使い物にならない」という評価を受けている。さらに、陸軍と海軍ではそれぞれ統帥権(独自に作戦を立てて、戦争する権限)を持っており、陸海が統合して戦う態勢ではなかった。統合された「日本軍」が実質的に存在せずに陸軍、海軍が独自に戦争を遂行したことが敗戦の一つの原因だろう。陸軍と海軍陸戦隊はフィリピン、沖縄などでも別個に行動している。特にフィリピンでは陸軍の方針に反して、海軍陸戦隊がマニラ防衛に固執した結果、フィリピン住民に多大の死傷者をもたらすことになった。
ところがアメリカ合衆国海兵隊は日本の海軍陸戦隊とはまったく異なる設計思想でつくられた世界最強の「陸海空を統合した強襲軍」である。外征を目的にする強襲遠征軍である。独自のマッチョな海兵隊文化を誇っている。米国海兵隊は敵前での上陸作戦やもっとも困難な戦場に投入される部隊で、米海軍とは独立した軍隊(軍種)である。米軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊の5軍体制を敷いている。日本など世界各国の米国大使館を警備しているのは海兵隊である。海兵隊の厳しい訓練を受けたということで、海兵隊OBは米国内で有権者からは高く評価されていて、連邦議会議員になっている海兵隊OBも多い。
太平洋諸島で陸軍は米国海兵隊を当初「海軍陸戦隊のようなもの」と甘く見ていたことから、ガタルカナルなどで苦杯をなめることになる。最近ではイラクのファルージャの戦いで、「武装勢力」に大きな被害を与えて、「さすがに海兵隊、陸軍より強い」という評価を米国内で受けている。
海兵隊がマッチョな、体育会系の文化を誇るとすれば、空軍はエリート文化と言われている。沖縄にある広大な嘉手納空軍基地には広大なゴルフ場があり、空軍の将兵がゴルフを楽しんでいる。海兵隊のほうは酒と女と喧嘩の文化である。
海兵隊ヘリコター部隊のある普天間基地の移設問題が焦点になった2009年に岡田外務大臣(当時)から、嘉手納空軍基地に普天間基地に移して、普天間基地の負担を減らす案が示された。嘉手納空軍基地には普天間基地のヘリコプター部隊を受け入れるだけのスペースや滑走路が十分にあることは、筆者は外部からの目視で確認できた。
ところが、この統合案に真っ先に反対したのが嘉手納空軍基地を持つ空軍だった。「これは俺たちの場所だ」「海兵隊のような下品な奴らにこられたら、静かにゴルフを楽しめない」――こんな感じだったという。日本のことを考えない勝手な理屈だが、日本にもよくある官庁間の縄張り意識や文化の違いからの反発である。本当の理由は、米国政府の高度なレベルでの、「普天間基地を日本政府の意思で動かすことになると、その他の基地も日本政府の意思で改編されうる前例となる」という判断からだろう。
普天間基地や嘉手納空軍基地は海岸に近く、その浜辺はハワイのリゾートの雰囲気が漂う。イラク、アフガニスタンなど過酷な環境で戦った海兵隊兵士にとって、沖縄は居心地の良い場所に違いない。世界に海兵師団(遠征軍)は3つしかない。米国本土に2つ、3つ目が沖縄にある。沖縄にあるのは第3海兵遠征軍である。
このリゾートのような沖縄で海兵隊兵士が求めるものは酒と女を含むレジャーである。普天間基地問題が語られたときに、徳之島などの離島への移転も候補地に挙がったが、こうした人口の少ない、あるいは無人島では海兵隊が求めるサービスを提供できないことから、米国にとって検討課題にもならなかったようだ。
米国が3つしかない海兵遠征軍の一つを沖縄に置く理由は多くの識者によって指摘されている。まとめると、沖縄の戦略的地位、思いやり予算、居心地、既得権ということになるか。
11月の沖縄県知事選挙で当選した仲井真知事も日米間で合意した辺野古沖移転に反対であることから、辺野古沖に新しいV字型滑走路を日本の資金で建設して、海兵隊ヘリコプター部隊を移転して、垂直離陸機など新鋭機を飛ばせる滑走路にすることで質的にも強化を図るが、実現は現困難である。日本政府も早く普天間基地の「県外・海外移設」路線に戻るべきだろう。
沖縄県中部にある普天間基地、海兵隊地上部隊基地、嘉手納空軍基地を外部から目視しただけだが、相当贅沢にスペースを使っているという印象があり、整理統合の余地はあるだろう。どれか一つの基地でも空けることができれば、ドバイやバーレンのような沖縄経済発展のためのフリーゾーンをつくれる、と痛感した。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion253:101217〕
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