「積極的平和主義は積極的戦争主義」 -横浜憲法集会が安倍政権の改憲作業を糾弾-
- 2015年 5月 5日
- 時代をみる
- 岩垂 弘憲法
「平和といのちと人権を! 5・3憲法集会」と銘打った集会が、憲法記念日の5月3日、横浜市のみなとみらい地区の臨港パークで開かれた。参加者は主催者の予想をはるかに超える3万人に達し、炎天下の会場を埋め尽くした人たちは、安倍政権が進める集団的自衛権行使のための立法作業、改憲に向けた作業に「なんとしても押しとどめなくては」と怒りの声を上げた。
これまで、憲法記念日には、憲法会議など共産党系団体や市民団体でつくる「憲法集会実行委員会」と、旧総評系の「フォーラム平和・人権・環境」が別々に集会を開いてきた。が、安倍政権が昨年7月に憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めるととともに米軍など他国軍への後方支援を拡大することを閣議決定。これを受けて、安倍政権は開会中の国会でこれに関連する安保法案を成立させる構えだ。安倍政権はまた、沖縄県民の総意を押し切って名護市辺野古で新しい米軍飛行場の建設を進める。
国家のあり方を根本的に変えるこうした一連の動きに、「憲法集会実行委員会」、「フォーラム平和・人権・環境」とも「安倍政権による憲法9条の破壊だ」「平和憲法は戦後最大の危機を迎えた」と危機感を深め、安倍政権に抗議するための集会を共同で開催することで一致し、「平和といのちと人権を! 5・3憲法集会実行委員会」を結成した。
この日の横浜は、朝から真夏のような暑い日差しが照りつけた。が、同市内の、みなとみらい線みなとみらい駅は、正午前から、電車を降りてきた、旗やのぼりを先頭に掲げた人々でごった返した。この人たちは、そこから、横浜港に接する臨港パークへ向かった。集会開始は午後1時半だったが、それを待たずに会場はおびただしい人々で埋まった。主催者発表は3万人。主催団体関係者は「1万人を超えれてくれればと思っていたのだが……」ともらす。
会場の周りを一巡してみた。労働組合、反原発団体、平和団体、生協など消費者団体、文化団体などの団体旗が、海面を吹き渡ってくる潮風に翻る。それによって、これらの団体から参加者が多かったことが分かった。が、この日の団体旗の数は、私が予想していたほど多くはなかった。つまり、会場を埋めた人々の多くは、これらの団体旗を持たない、いわゆる一般市民のように私には思われた。安倍政権による、あまりにも性急で強圧的な改憲作業にごく普通の市民が強い危機感を覚え、いたたまれなくなって会場に足を運んできたように私には思われたのである。
会場の片隅の木陰の下で、手製のプラカードを掲げてひっそりと立ち続ける初老の男性がいた。ブラカードに書かれていた文字は「徴兵は命かけて阻むべし 母 祖母 おみな 牢に満るとも 石井百代」。これは、1978年9月18日付の朝日新聞「朝日歌壇」に載った短歌だ。福田赳夫首相(当時)が有事法制の研究を指示した情勢の中で詠まれ、話題になった。初老の男性の胸を浸していたのは、改憲で徴兵制がいよいよ現実味を帯びてきたという切迫感と憂慮だったのではないか。
改憲に反対するための集会だから「護憲」を訴えるブラカードが目立ったのは当然だが、それ以外の訴えを記したブラカードが多かったのも印象に残った。例えば、「原発再稼働反対」「原発事故被災地住民の救済」「米軍普天間基地の辺野古移設反対」などを訴えるブラカードだ。
考えてみれば、原発再稼働と原発輸出、米軍普天間基地の辺野古移設は、安保法制の整備とともに安倍政権が今、総力をあげて実現を図っている重点政策である。したがって、この日の集会は、安倍政権が進める政策をトータルに否定し、対決する集会であったといっていいだろう。
集会では、呼びかけ人の中から、雨宮処凜(作家)、大江健三郎(作家)、澤地久枝(作家)、香山リカ(精神科医)、樋口陽一(憲法学者)、落合恵子(作家)の6氏のほか、民主党、共産党、社民党、生活の党と山本太郎となかまたちの各代表、高里鈴代さん(沖縄、基地、軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)らが発言した。
ほとんどの発言者が、安倍政権が、日本が集団的自衛権を行使できるための法整備を急いでいることに言及した。「要するに、自衛隊が世界各地で米軍と一緒に戦うことを可能にしようということ。日本は、戦後70年もの間、1人の戦死者も出していないし、戦争で外国人を殺してもいない。集団的自衛権の行使など、絶対に認められない」という発言が目立った。
訪米した安倍首相が、ワシントンの米議会上下両院合同会議で演説し、今国会での成立を目指す安保法制について「自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟はより一層堅固になる。この夏までに、成就させる」と言明したことにも「法案はまだ国会に提出されず、国会での審議もまだ始まっていない。つまり、政府としてまだ国民の意見を聴いていないのだ。それなのに、法案の成立を外国に約束するとは何ごとか。いったいどこの国の首相なのか」といった発言が目立った。
呼びかけ人で最後に登壇した落合恵子さんが「安倍首相が掲げる『積極的平和主義』とは、言うなれば『積極的戦争主義』なんです」と声を張り上げると、会場からひときわ大きい拍手がわき起こった。
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