書評:『帝国解体―アメリカ最後の選択』…「軍産学複合体」は破滅への道-断末魔の米・日経済状況
- 2015年 8月 20日
- カルチャー
- 合澤清
書評:『帝国解体―アメリカ最後の選択』チャルマーズ・ジョンソン著 雨宮和子訳(岩波書店2012) „Dismantling The Empire : America’s Last Best Hope“ by Chalmers Johnson
チャルマーズ・アシュビー・ジョンソン(Chalmers Ashby Johnson)は1931年生まれの米国の国際政治学者で、日本、中国などを含めた東アジアの政治や国際関係論を専門としていた。2010年没。彼にはゾルゲ事件に関する著作もあるが、アメリカ帝国への内部からする警告的な著書を数多く残している。この著作もその一つである。
この本の核心部は、現代のアメリカが陥っている泥沼が「軍産複合体」に由来するものであることを鋭く剔抉した点にある。
米・日経済情勢に対する相反する評価
2008年のリーマン・ショック以後アメリカの景気は低迷し、それまで世界経済のリードオフマン(lead-off man)を自他ともに任じてきた米国が、ついにはその地位を明け渡す時が来た。それに代わって中国が台頭、EUをも含めて世界は新たな覇権争い(ブロック化の時代)に突入した。更に、基軸通貨ドルの凋落は、世界経済に計り知れない大混乱を引き起こし、「パニック型の恐慌」にこそならないまでも、隠然たる恐慌状態が続いている。
おそらくこういう見方が、ここ数年にわたって多くの経済学者によって主唱されてきた見解だったのではないだろうか。
ところが、今年に入ってこういう見方が一変したかのように、アメリカの経済はこのところ堅調に推移していて、今までの停滞状態からの脱却も近い、との観測が盛んに流れ始めた(FRBイエレン議長が再利上げを示唆、など)。そしてそれに同調するかのように、日本でも、少なくとも政府筋からは、「アベノミクス」によって景気が再浮揚する可能性があるかに喧伝されている。―「緩和策の下で、デフレ意識の転換は確実に進んでいる」「(しかし2%の物価安定目標の達成には)まだ道半ばだ」「この先も緩和策を着実に推進していくことで、目標を実現できる」「成長力の源泉は民間企業の投資であり、技術革新だ」(日銀・黒田東彦総裁)。東京証券取引所の扱う株式も15年ぶりの高値を付けていることがその証左であるという。
この相反する観測は一体どういう根拠に基づくものであろうか?どちらかが虚偽の主張をしているということなのか?
世界の諸情勢を概観すると、…
この問題と直接向き合う前に、一旦われわれの眼を世界の諸情勢(動向)の上に置き換えて、それを概観することから始めたいと思う。というのは、いかなる強大な覇権国といえども、その一国だけで自己を維持しているわけではなく、絶えざる世界的連関の中で、他との緊張関係の中で自己を維持する以外に存立しえないからである。その意味では、世界というマクロコスモスと特定な一国というミクロコスモスとの関係は、特定のミクロコスモスが世界というマクロコスモス(普遍性)を自らの本質として自己の内に内在化させつつ自己(個別性)であり続けるという、いわば「具体的普遍」という構造において在るといえるであろう。
そこで、今日のメディア情報などを基に世界を概観してみたい。
政治的、社会的な関心から世界を見渡せば、なぜか混沌とした状況しか見えてこない。中東地域の戦乱は一向に収まる気配はなく、むしろ、ますます拡大する方向で進んでいるように思える。シリアの内戦から起こった地域戦争が、今やイラク、ヨルダン、イエメン、トルコ(クルド人地区)などのアラブ全域に及ぶほどになり、更にアフリカのリビアや西アフリカ方面など、従来からかなり不安視されていた地域にも飛び火し、果ては東南アジアにまで拡大波及してきている。もちろん、以前から深刻な問題であるパレスチナをめぐるイスラエルとパレスチナ、イラン、レバノンなどのアラブ諸国との対立はますます深刻さを増している。またイラク戦争、アフガニスタン戦争の決して癒えきれぬ後遺症が依然としてくすぶり続けている。さらに近年、東欧地域では、ウクライナ問題が戦争にまで発展し、米国とEU諸国が支援するウクライナの保守派とロシアが支援する親ロシア派といわれる主にロシア系住民たちとの間の激しい戦いがいまだに収まる気配がないばかりか、一触即発の大戦争(核爆弾を使った世界戦争)になりかねないほどの緊張感を孕みながら、世界中に深刻な影を落としている。それ以外にも、各地で小規模な民族紛争が勃発しているし、紛争とまでいかなくても、人種的対立や、地域格差からくると思われるさまざまな軋轢が後を絶たない。
これらの諸問題の基盤には相変わらずの苛烈な貧困、失業、劣悪な生活状態からくる虚脱と絶望、また戦争による破壊、祖国を追われた大量の難民の発生、その受け入れをめぐる「民族主義」「排外主義」の台頭、がある。
しかしまたそういう社会の上に成立している他方の繁栄(富者の富の異常な蓄積‐国際非政府組織オックスファムの発表では、2014年の世界の富裕層上位1%が所有する資産は全世界の資産の48%を占める、という。また、企業の大いなる利益、膨大な内部留保金‐例えば日本の大手企業だけでも2013年度は328兆円あった、など)もある。もちろん、国家レベルで比べてみても、その格差は歴然たるものだ。アフガニスタンやパキスタン国境地帯の辺境地で、農業用運河の建設や医療活動などに奮闘するペシャワール会の中村哲医師が指摘するように、格差、貧困、荒廃が様々な紛争の種をまき散らしている主要因であることは確かであろう。
日本や米国の国内問題も当然のことながらこのような世界の情勢と密接なかかわりを持っている。一見何のかかわりもないような社会変化ですら、よくよく観察すればそこに世界の動静とのかかわりを読み取ることができる。沖縄の問題の背後には絶えずアメリカの影があり、日米合同での対中国政策、対アジア政策が透かして見える。また国民の大多数の反対を押し切ってまでの原発再稼働政策は、原発関連産業の海外売込み、日本の核武装化・再軍備化の故であり、そのためには国民の犠牲すらいとわず、また地域の過疎化、「限界集落化」も原発設置にとっては必要条件なのであろう(なぜなら、過疎であるがゆえに、どんな危険なものでも設置して、地域繁栄、生活向上につなげたいと願う、そういう切羽詰まった住民意識を醸成できるからだ)。さらに、「憲法9条廃棄」の動きは、当然ながら企業の軍事産業化と同時並行的に進められている。そしてすでにして三大軍事企業とも呼ばれうる三菱重工、東芝、日立が、かつての財閥(三菱、三井、芙蓉)につながっていること、またそれ以外の旧財閥グループ(住友、古河、三和)再編成の動きも同様に活発であることは注目に値する。軍産学協同、軍事産業への政府支援資金制度(武器輸出への資金援助)、武器輸出解禁、自衛隊の現地派兵、などの一連の動きが、停滞からの脱出、「積極的平和路線」の掛け声で推し進められている。
沖縄をスケープゴートにし、中国、朝鮮半島との講和をないがしろにしたまま、日・米講和条約(サンフランシスコ条約)によって戦後の70年間を凌いできた日本とは何なのか?
それは言うまでもなく、米・欧に追随して世界に覇を成すブロック形成に棹さそうとするものでしかないのではないだろうか。しかし、その一枚岩的な共同関係すら今や風前の灯と言っても良い岐路に立たされている、というよりも既成の資本主義体制そのものがその存続を問われているように思える。
中国提唱のAIIB(アジアインフラ投資銀行)へ米国の反対を押し切ってEU主要国がこぞって参加したこと、EU内の格差増大とギリシャ財務危機(EU解体の危機)、そして2008年のリーマン・ショックとその後始末に公的資金(税金)をつぎ込んでの金融機関の救済、…。
「リーマン・ショック-金融機関救済のために多額の公的資金注入-ポールソン財務長官(ゴールドマン・サックスの出身者で、市場の自由を積極的に擁護していた)-ヨーロッパでも同様な金融機関救済が行われた-政府の介入が資本主義を救った(純粋な市場経済、純粋な資本主義では生き残れないことが示された)」(p.ⅰ-ⅱ) (『新自由主義の帰結-なぜ世界経済は停滞するのか』服部茂幸(岩波新書2013))
「米国-AIGやバンク・オブ・アメリカといった大手金融機関の救済、GMへの公的資金注入など。欧州-合計1兆ユーロを超える資金を金融機関に注入(2012.5現在)。日本-麻生政権下で、総額75兆円の金融・財政措置(うち財政支出は20兆円)」(p.25)(『静かなる大恐慌』柴山桂太(集英社新書2012))
「軍産学複合体」という極めて危険な賭けに出た資本主義諸国
そして、「景気浮揚の最後の手段として」、実際には資本主義体制の生き残りをかけた最後の賭けが「軍産学複合体」という形での路線化-軍事的な再覇権化への道-に他ならないのである。米、欧(特に独、仏、英)、日、また中国やロシアも、がこの路線に向かって急速に走り始めているのではないだろうか。
そして、われわれがその未来を懸けて、また生命を賭しても対峙しなければならないのはこの人類にとってまことに危険きわまる「路線化」に対してである。
アメリカ経済の実態と「軍産複合体」への傾斜
この問題にアメリカの側の分析から鋭く迫るのがこの著書である。
著者チャルマーズ・ジョンソンは、元米国CIAの顧問であり、タカ派の論客として鳴らしていたが、その後「反軍主義」に転じたという珍しいキャリアの人物である。その彼が次のように警鐘を鳴らす。
「アメリカの経済状態がどんなに悪化しているかが、もっとはっきり分かる比較は、各国の「経常収支」だ。経常収支は、国の貿易黒字または赤字に、外国から支払われる利息や、特許権や著作権の使用料、配当金、資本利得、海外援助などの収益を加算したものだ。例えば、日本が何かを製造するには必要な原材料を輸入しなければならない。そのための多額の支出があってもなおかつ、日本の対米貿易収支は年間880億ドルの黒字であり、(中国に次いで)世界で第二の経常収支残高をもっている。それに引き換えアメリカは第163位、同様に多額の貿易赤字を抱えるオーストラリアやイギリスよりさらに低く、最下位なのだ。アメリカに次いで赤字を抱えているのはスペインで、2006年度の赤字額は1064億ドルだったが、アメリカの経常収支赤字は8115億ドルという巨大な額だった。持続不可能というのは、このことだ。」(同書p.159)
最近のアメリカの経済収支赤字について調べてみると、「2013年の経常収支(貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支)を日本とアメリカで比較してみると日本+610億ドル、アメリカ-4510億ドルと巨額な数値…特にアメリカの経常赤字は慢性化しており1980年以降現在に至るまで黒字化した事はない。」という。
経済力と軍事力は当然のことながら密接に関係している。経済力の衰退は確実に軍事力に及ぶ。米国は世界最大の軍事大国である。しかし、その経済力に陰りが出て来るとともに、軍事力へのその影響も大なるものになりかねない。アメリカは経済と軍事の両面からその覇権を脅かされるという窮地に立たされる。そのような窮地からの脱出はいかにして可能なのか。当座の対策としては次の布石が考えられる。
第一は、自国内の経済振興策として、「軍産複合体」の一層の推進を図ることであり、第二は、その必要性をつくり出すために、地域戦争や地域の緊張関係を不断につくり出す努力をすることである。第三は、従来の植民地支配に替わり(なぜなら、反植民地闘争などにより、あまりにその代償が大きすぎるからだが)、sympathischな関係(日米関係、米欧関係などの様な共通利益関係=同調者)を利用して、米国中心のバリアーを世界中に張り巡らすことで、覇権を維持すること、である。
これらの点に関してチャルマーズ・ジョンソンの見解を見てみよう。彼は今日のアメリカの経済対策を「軍事ケインズ主義」と呼んでいる。
「1990年までには武器と機材と国防総省専属の工場の資産価値は、アメリカの製造業全体の資産価値の83%を占めるようになっていた。1947年から1990年までの間のアメリカの累計軍事予算額は8兆7000億ドルだった。ソ連がもはや存在しなくなってからも、軍事ケインズ主義への依存は弱まるどころか、既得権益が軍部の内外にすっかり根付いたおかげでむしろ強まった。時とともに、軍需産業と民需産業を両立させる構造は不安定だということが歴然としてきた。軍需産業が民需産業を圧倒してしまい、深刻な経済弱体化へと導いていく。事実、軍事ケインズ主義に傾倒することは、経済にとっては一種の緩慢な自殺行為なのだ。2007年5月1日、ワシントンにある経済政策研究センターは、軍事支出の増加が経済に及ぼす長期的な影響について、グローバル・インサイトという経済予測を専門とする会社がまとめた研究論文を発表した。ディーン・ベイカーという経済学者が中心となったこの研究によると、軍事支出の伸びは当初は需要を刺激する効果をもたらすものの、6年もすると軍事支出増加の効果はむしろマイナスに転じる。言うまでもなく、アメリカ経済は増え続ける軍事支出を60年以上も抱えてきた。ベイカーの研究では、高い軍事支出を10年間続けた後の雇用は、軍事支出を低く抑えた基本モデルより46万4000件も少なくなるということが分かった。ベイカーはこう結論する。「戦争が起こって軍事支出が増えると、経済が活性化すると一般に考えられている。しかし実際には、ほとんどの経済モデルが示すように、資力が消費や投資などの生産的な分野から軍需産業に流れ、軍事支出は究極的には経済成長を鈍らせ、雇用を減らすことになる」と。」(同書pp.162-163)
ここでの指摘と、先にみた「経常収支赤字が慢性化した」国アメリカの現状を篤と見比べてもらいたい。彼はアメリカは「持続不可能」とまで断じているのだ。「軍事ケインズ主義」は米国経済の救出策とならないばかりか、更なる悪化を招く悪循環に他ならない。
「軍事ケインズ主義」を正当化するためにアメリカが世界に対していかなることをやってきたか、この点に関しては、元CIA顧問というキャリアが十二分に物を言い、多くの実例が掲げられている。ここでは二、三の例のみ紹介する。
「ブッシュ政権は国内および国際的な破産を避けながらも、経済と財政を壊滅的な崩壊へと向かうような態勢を作り上げた。つまり、最富裕階層には減税し、二つの戦争(及び将来の戦争とそれらを闘うための兵器)では浪費し、共和党イデオロギー信奉者を監査委員長に任命し、ありとあらゆる問題を悪化させた財政管理により、ブッシュ政権は我々を大恐慌以来最悪の財政危機につき落したのだ。」(同書pp.4-5)
「アメリカ科学者連盟は、第二次世界大戦が終了した時から2001年9月11日まで海外でアメリカが関わった200以上の軍事活動のリストを作成した。現在のアフガニスタンとイラクでの戦争はそのリストには含まれていないが、そのうちの大部分はアメリカが先制攻撃したものだ。その軍事活動のどれをとっても、直接の結果として民主的な政府が生まれたケースは一つもない。インドシナ半島から追い出されるまでアメリカに後押しされたベトナムとカンボジアの一連の軍人たちはいうまでもなく、イランのシャー、インドネシアのスハルト将軍、キューバのフルヘニオ・バティスタ、ニカラグアのアナスタシオ・サモサ、チリのアウグスト・ピノチェト、そしてコンゴ(ザイール)のモブツ・セセ・セコのような独裁者を、アメリカは就任させ、支えてきたという好ましからざる記録がある。その上アメリカは、キューバとニカラグアが独立闘争でアメリカの気に入らない結果をもたらしたため、その両国に対して歴史上、もっとも広範な国際テロ作戦の一つを行った。他方、アメリカの介入に反対したために民主化が成立した重要なケースはいくつかある。例えば、1974年にCIAが権力の座に就任させた将校たちの政権が崩壊した後のギリシャや、アメリカの支援したファシスト独裁政権が1974年に終わったポルトガルと1975年に終わったスペイン、また1986年にフェルディナンド・マルコスを打倒したフィリピン、1987年に全斗煥を追い出した韓国、そして同年に38年間続いた戒厳令を説いた台湾が、その例だ。」(同書p.66)
最後の第三の点に関しては、特に日本や沖縄問題に関わりある個所から引用しておきたい。
特別な解説も必要ないであろうが、一つだけ注意すべきは、アメリカが特にベトナム戦争以後の経済的疲弊の中で考え出した新たな世界支配の戦略としての「間接支配」ということである。その一番のターゲットが日本であり、沖縄ということであろう。日米の支配者階級の利害がこの点で一致したということであろうか。
「「自国領土外でアメリカが権力をふるう典型的なやり方は、直接統治の植民地体制でもなければ、植民地体制という制度を利用した間接統治でもない。それは衛星国家あるいは従順な国家を経由するシステムである」(エリック・ボブズボーム)…この意味で、アメリカの帝国主義は19世紀のイギリスやフランスの帝国主義よりも、第二次大戦後のヨーロッパにおけるソ連型帝国主義に似ている。」(同書p.136)
「アメリカと日本は、日本が日本本土と沖縄に駐屯する米軍とその扶養家族を支えるために毎年支払う18億6000万ドルをめぐる論争を長年繰り返している。これは日本では、アメリカがもはや自分の外交政策を遂行するだけの経済的な余裕がないことへの皮肉をこめて「思いやり予算」と呼ばれている…海外の米軍基地はすべて、余儀なくその影響を被らされている住民との間に緊張状態を生み出す。その最も恥ずべき例の一つは、インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島だ。1960年代にアメリカはイギリスとその島の貸借協定を結んだのだが、その際イギリスは全島民をそこから追い出し、2000キロメートル余りも離れたモーリシャスとセーシェルに強制移住させたのだ。ディエゴ・ガルシアは、現在、米海軍と爆撃機の基地、諜報活動センター、CIAの秘密拘置所、グアンタナモ湾やその他の場所で手厳しい尋問を受けさせるべく空輸される囚人の中継地点だ。」(同書p.142)
「『駐屯軍隊に関する法律のハンドブック』(The Handbook of the Law of Visiting Forces)によると、…日本では2001年から2008年までの間に3184名のアメリカ軍関係者が犯罪を犯しており、そのうちの83%は起訴されていない。イラクでは、アメリカは日本と戦後最初に結んだ地位協定に非常によく似た内容のものに調印した。つまり、非番時の犯罪で告訴された軍関係者及び軍請負契約者は、イラクが取り調べている間は、アメリカ当局に拘留されるというものだ。これは勿論、容疑者が起訴される前にひそかに国外に出す絶好のチャンスをつくることになる。」(同書p.208)
「横須賀海軍基地に停泊中の航空母艦キティーホークから下船した水兵にレイプされたあるオーストラリア人女性教師の調査から、1953年10月に、日米両政府が地位協定の一部に犯罪が「日本国にとって重要」でなければ司法権を放棄するという秘密の「合意」があったことを見つけ出した。アメリカはこの補足「合意」の締結を強く主張した。そうしなければ、年間350人もの兵士を性犯罪で日本の監獄に送り込むことになりそうだと心配したのだ。それ以来、アメリカは地位協定において、同様な文言の補足を、カナダ、アイルランド、イタリア、そしてデンマークとも交渉した。…日本でのやり方が世界中の地位協定の標準となり、その結果は予測できるものだった。」(同書pp.207-208)
つかの間の景気浮揚策=「産軍複合体」は、人類破滅への道に直結
今や「産軍複合体」は政治をもその手中に収めたかの感がある。
「今日、軍産複合体は政治組織を操作することはわけないと自信満々で、ある計画がキャンセルされたらその選挙区では何人失業するかなどと公表するのを憚らないようになった。また、計画に協力的ではない議員には政治献金はしないと脅し、それを実行したりする。…カリフォルニア南部での最大の民間雇用主は、ボーイング社とノースロップ・グラマン社だ。両社は5万8000人を高給で雇っており、そのことが不況により避けられない軍事費の合理化を、政治的に難しくしている。」(同書pp.184-185)
以上見てきたように、今やアメリカの政治・経済体制は大いなるディレンマ(dilemma)に陥っている。景気浮揚のための「軍産複合体」は、かえって財政赤字を増やし、産業の衰退を招くが、それらを一時的にしろ食い止めんがためには、益々「軍産複合体」への傾斜を強める以外にないといった状態である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0151:150820〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。