自治会の法人化って、そのメリットは、デメリットは~自治の力を弱めないか
- 2017年 7月 14日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
7月の初旬に、当自治会の臨時総会が開かれた。議題というのは、自治会の法人化であった。今年の4月の定例総会で、出ていた話であったが、「法人化」についての資料が届いたのは6月中旬で、説明会もないままの臨時総会での議決だった。資料だけではわからないので、立ち話ではあったが、出会った班長さんの複数の方に尋ねたところ、「班長会でもわかる人は少ないのでは」とか「私にははっきりとわかりません」「会長さんに聞いてみては」との話だった。臨時総会の前夜、思い切って知り合いに電話したところ、自治会館の建て直しが3年後に迫り、その敷地を廻って、佐倉市と交渉している中で、市から法人化をすすめられたという。任意団体の自治会では、市から土地の提供はあっても自治会館という上物の所有権は、今のままでは、自治会の所有にはならず、市に帰属してしまいますよ、ということらしい。 法人化のための自治会の規約改正も、臨時総会の議決事項の一つだった。ざっと目を通してみると、わかりにくい上に、疑問も多いのだ。
法人化のメリットって
そもそも、法人化は、従来の自治会が世帯単位であるのに比べ、個人単位で、構成員になることができ、年齢・性別・国籍など問わず、その区域に住所を有すれば、だれでも構成員になれること、法人化によって、自治会としての不動産登記ができるようになることがメリットだという説明だった。
しかし、不動産登記に関しては、現在は、自治会館は、市の所有権で、火災保険などは市が掛けているが、管理運営は自治会の会館管理委員会が中心で、建物の管理や清掃などを実施しており、増改築や修理には助成金も出る。その利用にあたっても不自由を感じたことは、まずなかった。
疑問1:赤ちゃんにも議決権があるという
法人化した自治会の構成員は、世帯ではなく個人単位であるのが、特徴だ。現実に、佐倉市の場合は、全住民、人口の三分の二が構成員ならないと法人化できない、というルールを設けている。自治体によっては、二分の一だったり、四分の三だったりするとのことで、構成員の名簿の提出を義務付けている。そして、規約は、佐倉市の法人化の手引きによる「ひな形」に準じての改正が行われ、年齢は問わないので、赤ちゃんも構成員になれるといい、議決権は、構成員一人一票で、これは地方自治法で決まっている。となると、 意思表示ができない赤ちゃんになぜ議決権があるのかが第一の疑問だった。民法により親権者がその議決権を行使できる、ともいうのであるが、なぜそこまでして赤ちゃんを構成員にして、議決権を行使させなければいけないのか。選挙権のように、年齢制限を設ければ、その不合理は解決できると思うのだが、法律上、年齢制限はできない。
構成員になるかならないかは、個人単位なのだから、最初から構成員にならなければよい。世帯主による選択は可能だということは、臨時総会の質疑の中で確認された。総会参加者の一人は、子供の名前まで並べて、自治会の構成員にするつもりはない、提出する名簿の管理にも疑問を呈していた。世帯の中で、構成員に「なる」「ならない」の自由はあるのだから、少なくとも法律的に意思表示ができない家族を除く方が、住民の意思を反映するとい点では優れていると思う。
しかし、法人化を提案する執行部は、全住民のうちの三分の二を構成員とするためには、各世帯の全員が構成員となるよう、協力を求めていた。たしかに、自治会への加入率は、地域の高齢化に伴い、年々低下している佐倉市でもあるが、赤ちゃんを構成員にして加入率を高めて、どんな意味があるのだろう。
当地の従来の自治会は、各世帯全員が自治会会員であり、議決権は世帯で1票としていた。世帯内の意見の対立は当然予想できるが、それでも家族内での話し合いで、世帯としての意思決定、議決権行使が前提となっていた。これも、便宜上の「擬制」の一つであろう。それに比べ、年齢を問わず、意思表示の可否にかかわらず構成員になった以上、議決権があたえられるというのも、一種の「擬制」である。法人化後の自治会にとって、いずれが住民の意思がより正確に反映できるかといえば、私は前者の方が、ベターだと思ったのだ。
疑問2:総会に参加せず、議決権行使をしなかった構成員は、自動的に議長委任になるという
構成員全員の議決権行使を義務づけるということは、先の赤ちゃんの議決権行使をも前提とする法人化ルールと共通する考え方ではないか。いわゆる「棄権」、意思表示をしないことを選択する自由がないことになる意味を考えておきたい。例えば選挙権を行使しない「棄権」を認めないことと同じではないか。このように、法人化による自治会内の意思決定の安定性や効率性を優先することと、法人化本来の個人単位の自治会構成、個人単位の意思表示を重視する方向性とは、相反するのではないか。意思決定の安定性と効率化は、通常の世帯内の合意形成過程や自治会への主体的な参加意識を損ない、多数の言いなり、自治会役員主導、トップダウン、「おまかせ」や「あきらめ」を助長しないか、結果的に、自治会への無関心を助長することになって、自治会の「自治」の力を弱めることになるに違いない。
私は、以上二つの理由を以て、今の時点での法人化には反対の意思表示をしたのだが、自治会世帯数約650中、臨時総会参加者50人弱であったが、参加者の中で反対は2名だった。不参加者の議決権行使により、執行部提案は、多数で可決された。一度の説明会もなく、班長さんたちも理解不足のまま、大事なことが決まってしまう、いまの自治会への不信感が強まった。少数者、少数意見が尊重されるべき地域社会において、本来の住民自治、行政からの自律から遠のくことのないように、暮らしていくにはどうしたらよいか。
いまだに、疑問は去らず、市役所の人権自治課にも、問い合わせてみたところ、疑問の1については、制度上、たしかに問題はあるが、とりあえず、赤ちゃんはじめ意思表示ができない家族を構成員にしないという選択肢があるので~とのことであったが、制度改革への意欲は感じられなかった。
法人化する自治会は、行政に構成員の名簿を提出し、規約を改正し、総会の議事録を提出する。これまでさえも、自治会等の行政の下請け機関的な要素が色濃くなる中で、住民の種々の要望を行政に的確に伝えるという自治会の重要な役目を十分果たせるのだろうか。自治会の意思決定の安定化、効率化を趣旨とする法人化によって、そのパイプは、劣化してしまわないのか、大きな不安の一つとなった。
なお、佐倉市の場合255の自治会・町内会があるが、法人化しているのは15自治会に過ぎないとのこと、全国調査によれば、5%にも満たないらしい。
「佐倉市 自治会町内会の法人化の手引き」↓
初出:「内野光子のブログ」2017.07.13より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/06/post-4431.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion6800:170714〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。