NHKの監督権限を政府から離す改革こそ必要 - 受信料「合憲」判決は、環境変化に言及せず -
- 2017年 12月 13日
- 評論・紹介・意見
- NHK隅井孝雄
NHKの受信料強制が合憲かどうか争われていた裁判で、12月6日、寺田逸郎最高裁判所長官が「合憲」の判断を下した。「受信契約義務」と書かれている放送法の双務性が否定され、「受信料支払い義務」と読み替えられたのだ。
不払いは違法
「NHKを受信できる設備を設置した者は、NHKと受信契約を結ばなければならない」と放送法は規定している(64条1項)。これが受信料支払い義務に直結する規定かどうかについては、長年にわたって問題となってきた。「契約という以上、受信者の側にも一定の権利があり、番組内容や経営方針に対して異論がある場合、それが正されるまでは契約をしないことが認められるべきだ」との放送専門家の多数見解があり、これまで受信契約拒否、受信料不払いの根拠とされてきた。
今回の訴訟では「番組が偏っている」という理由で2011年9月に受信契約を拒否した男性に対し、同年11月NHKが提訴した。男性の側は「契約の自由を保障した憲法に違反する」と主張していたが判決では受信料でNHKを支える仕組みは合理性がある。放送法64条1項は「合憲」であり、テレビがあれば受信契約して受信料を支払う法的義務がある、と指摘した。
またこの裁判では支払い義務のある期間についても争点となった。最高裁は裁判で勝訴が確定した時点で契約が成立、テレビの設置時期にさかのぼって支払い義務があると判断した。これまで受信料の不払いについては時効が5年という定説があったが、未契約者には適用されず、テレビを設置して以降全期間さかのぼって徴収できるとした。
今回の最高裁の判決は、受信者側の完敗ともいうべきもので、今後NHKは収納率(現在79%)の向上を図り、900万世帯といわれる未契約世帯に積極的に働きかけるものとみられる。なお2017年4月末の受信世帯数は4,326万世帯である。
受信料をめぐる角逐
1990年代の初頭、ジャーナリスト本多勝一氏の著書「受信料拒否の論理」に触発されて、受信料拒否の動きが広がったことがある。2004年紅白歌合戦の制作費着服の発覚、経営姿勢に対する批判などから、不払いが広がり、2005年1月海老沢勝次会長が引責辞任した。しかし収納率は低下を続け、2006年度末までには63%まで落ち込んだ。NHKが不払い者に対する、裁判を始めたのは2006年11月からだった。
また籾井勝人元NHK会長が、就任記者会見で「政府が右というものを左とは言えない」と発言(2014年1月)、従軍慰安婦問題などでも政府寄りの姿勢を見せたことから、市民の間でNHK批判が広がった。しかし不払いではなく新しい運動形態として「籾井退任まで支払いを保留する」という動きが広がった。
受信料をめぐって訴訟に至ったのは2006年以降現在まで4000件以上あると読売新聞が報じている(12/7)。その一方、奈良地裁では視聴者の側が「NHKは放送の公正を守っていない、放送法順守義務違反だ」として46人が集団訴訟しているケースがある。
放送環境の変化には言及なし
放送法は1950年に制定された。それから67年後の今、放送をめぐる環境は大きく変化している。テレビの多チャンネル化が進み、衛星放送では有料無料のチャンネルが輩出した。デジタル化に伴い、ワンセグ放送が始まり、iPoneなどデジタル携帯やパソコンに既存テレビコンテンツを含むさまざまな映像が流入している。ワンセグの受信料の可否をめぐっての裁判も判断が分かれたままだ。またNHK自身、デジタル機器への番組の同時送信を検討しているほか、4K, 8Kの高画質放送の事業化を検討している。地上波放送だけだった時代と違い、「受信機があってもNHKを全く見ない」人がいても不思議はない。
今回の最高裁判決は、これらの新しい動きが、受信料制度にどうかかわるのかについては、全く言及しなかったのは、不可解というほかはない。
「国家の影響排除、知る権利充足のため」と最高裁見解に疑問符
判決では受信料制度について次のような判断を最高裁が示している。
「(受信料は)特定の個人、団体、国家機関から財政面での支配や影響が及ばないよう、広く、広範に負担を求めたもの」。「NHKの財政的基盤を受信料によって確保するものとした仕組みは、憲法が保障する表現の自由の下で、国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう、合理的なもの」。最高裁のアイロニー(皮肉)かとも思える理由であることに驚かされる。
2012年以降の安倍第二次政権下で、政府主導のメディア操作が進み、NHKの報道姿勢の御用化が進んでいるとの指摘がある。事実「公正ではない放送を繰り返せば、免許停止もありうる」発言(高市元総務相、2016年2月)もあったし、国谷キャスター退任(2016年3月)などもあった。報道の面では「もっぱら安倍首相の意向を代弁するレポートばかりだ」と批判される記者もしばしば画面に登場する。秘密保護法、集団的自衛権、安保法制についてのNHK報道が民放に比べて著しく不十分だった、という調査、分析を公表した市民組織もある。
果たしてNHKは「国家機関からの影響が及ばない」、「知る権利を充足する」公共放送なのかという疑問が市民、視聴者の間で広がっているとみるべきではないだろうか。
NHKを政権の手から、国民の手に
更に、国連人権委員会から「(日本の)放送の独立性を確保するため放送法の改正、第三者機関の新設を検討すべきだ」という勧告が出されている。国連は、政府からの独立、第三者機関による放送行政は世界のすう勢だとしている。
NHKの監督権が政府の手にあることに、年度加えて、年度ごとの予算についても「国会承認」の名分のもとに、政府与党が権限を握っている。今回の最高裁の、受信料義務化容認の判決は、政権によるNHK支配をさらに進めることになるのではないか。
受信料がNHKの国家機関からの独立や知る権利の保障として機能させるのであれば、現行の放送法を書き改め、真に国民の代表となりうる第三者機関を新設し、NHKの監督権限を政府から切り離す改革が必要だ。
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