73年の意味番外篇 敗戦直後のクスリ屋事情(8)
- 2018年 9月 2日
- カルチャー
- 内野光子
(8)くすり屋の雑貨
今回のシリーズを書くにあたって、本棚にあったつぎの2冊を取り出した。こうした懐古趣味は、結構、昔から私にはあったのだなと思う。
・串間努:図説・昭和レトロ商品博物館 河出書房新社 2001年
・初美健一:まだある 今でも買える”懐かしの昭和“カタログ―生活雑貨篇 大空出版 2006年
著者の串間は1963年生まれ、初美は1967年生まれ、というから、私の子どもの世代と言ってもいい若さである。こうしたものを、記憶を残そう、ものを残そうという人がいるということは、頼もしい限り。私は、たまたま30年間近く、まちのくすり屋の娘として過ごしたときの記憶をたどりながら、当時の暮しや家族、商品、お客さんとのさまざまな思いを、後付けながら、できれば社会的背景も自分ながらの理解で綴っている。「自分史」というくくりはあまり好きではないけれど、これからも綴っていくことができればと思う。
当時のくすり屋が扱っていた、さまざまな雑貨にも、さまざまな思い出がある。
「チリ紙」や「綿花」も大事な商品だった。チリ紙に関しては、厚い束で届いたものを小分けに、二つ折りにし、紙テープで束ね、それを積み重ねて店頭に出していた。「京花」という上質紙は、個別に袋に入っているものもあった。また、少し時代が下ると、色も灰色っぽく、しわしわの柔らかい紙質のものを平らに積み重ねたまま手洗いに置く「落とし紙」もあったと思う。いわゆるテイッシュ・ペーパーは、日本では、1953年にクリネックスから売り出されていたが、高価だったので、普及するのはかなりあとだったのでは。70年代の初めに私が生家を離れるころ、ロール式のトイレットペーパーは一つずつ包装されていたようにも思う。
「綿花」あるいは「脱脂綿」は、平たく折りたたんで「衛生綿」などと書かれた20センチ四方くらいの紙袋に入っていた。子どものころは、消毒用や傷あてに使用するものとばかり思っていたが、化粧用品でもあり、生理用品でもあったのである。アンネ・ナプキンが売り出されるのは1961年のことだった。いま、ドラッグ・ストアで見る、あの多様さは夢のようでもある。
店は、銭湯「平和湯」の斜め向かいでもあったので、石鹸はよく売れた。石鹸の登録・クーポン制については前述したが、1950年統制解除になると、品物が多くなる。店さきの台の最上段に、何種類かの石鹸を半ダースの箱からばらして並べる仕事もあった。花王、ミツワ、牛乳、アデカ、ニッサン、資生堂(オリーブ)、ライオン、ミヨシ・・・。当時は、石鹸と言えば、固形の化粧石鹸、洗濯石鹸、粉石鹸・・・とあり、父などは、化粧石鹸を「シャボン」と呼んでいた。この頃の石鹸事情については、『暮しの手帖』(20号 1953年)で、「商品テスト」を実施していることがわかった。これを見ると、私の記憶では、化粧石鹸と洗濯石鹸の売れ筋がごっちゃになっていたようだ。『暮しの手帖』のテスト結果は、今でこそ商品名が明らかにされるのが特徴だが、まだABC・・・の匿名だったようだ。
現在でも、「ワ、ワ、ワが三つ・・・」(1954)「…牛乳石鹸、よい石鹸」(1956)「あごのしゃくれたお月様~うぶゆのときから花王、花王石鹸、・・・」(1956)を思い出すが、なんと、このすべての作詞・作曲が、「日曜娯楽版」(NHKラジオ番組1947年10月12日~1952年6月8日)の三木鶏郎と知ったのが、今回だったのである。お中元やお歳暮の時期になると、半ダース入りの箱にのし紙をつけて、手軽な贈答品としても、売れていた時代があった。
「暮しの手帖」20号(1953年)より。カラーでないのが残念なのだが、当時「「舶来」石鹸などとは縁がない店であり、暮らしだった。また、洗濯用の粉石鹸はどれほど普及していたのか。花王ビーズ、ライオン、ゲンブ、ニッサン・・・、思い出す。合成洗剤としては、モノゲン(1934発売、1964年モノゲンユニ、2006年販売終了)、エマールというのもあって、純毛や絹ものなどを洗うときは、ぬるま湯で溶いて、丁寧に洗っていた記憶もある。
現在、我が家で使っている「化粧石鹸」は、ほぼ、上の二つ。一番下のは、娘が帰省したときに使う石鹸で、無添加、釜練りというが・・・
番外編の方が、回を重ねることになってしまったのだが、ひとまず今回で終わりたい。「73年の意味」については、これからも、天皇の代替わりに向けて、オリンピックに向けて、自分のなかで、渦巻く思いを伝えていきたいと思う。
初出:「内野光子のブログ」2018.08.31より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔culture0691:180902〕
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