脱原発は科学的な必然(下)ーⅣ不安定電力はエネルギー効率を落とす、Ⅴ自然エネルギー発電利権に群がる人々
- 2011年 5月 21日
- スタディルーム
- 『環境問題』を考える近藤邦明
Ⅳ 不安定電力はエネルギー効率を落とす
前回は自然エネルギー発電の例として太陽光発電について紹介しました。前回は太陽光発電電力について、その絶対量についてだけ評価してきました。しかし、社会を支えるエネルギーとしての電力には高い質が要求されます。高い質とは、需要に対して過不足なく電力を供給することです。そのためには、出力を完全に制御できることが必要です。
電力供給のためのエネルギー源として自然エネルギーが持つ致命的な欠陥とは、発電量が予測不能で制御不可能だという点です。現在の自然エネルギー発電を巡る論議でこの問題があまりにも軽視されています。
実際の自然エネルギー発電の発電特性はどのようなものかを以下に示します。
左が晴天時の太陽光発電出力であり、右が風力発電の出力例です。太陽光発電では天候によっても大きく出力が変動します。風力発電は、太陽光発電以上に短い周期で激しく出力が変動することがわかります。いずれもこの不安定な出力のまま高品位の送電線網に接続して効果的に運用することは難しいと考えられます。
現在、戸建て住宅用の太陽光発電システムは通常の送電線網に系統連携して運用されています。家庭内で余った電力は、形式的には売電メーターを通して送電線網に逆流して電力を供給しているように見えます。しかし実際には太陽光発電のような不安定な電力を当てにすることは出来ませんから、電力会社は太陽光発電電力を無視して発電を行います。太陽光発電から送電線網に逆流した余分な電力は送電線網の中で熱化して消えてしまうだけです。太陽光発電電力は余りにも量が少ないため、無視しても送電線網全体にそれほど大きな悪影響は与えません。
風力発電の場合には少し事情が異なります。最近の大型風力発電装置では1基で1MWクラスのものもあります。そのため、送電線網に与える影響を無視することは出来ません。そこで、風力発電が集中している地域では既に送電線網の系統連携では処理しきれない悪影響が生じる可能性が出てきたため、電力会社は風力発電事業者に対して電力品質の低下が考えられる場合には、解列、つまり送電線網から風力発電を切り離すことを要求しているのが実態です。
そのため、風力発電ではかなり以前から蓄電装置との併用による出力の平滑化の検討が行われています。シミュレーションの一例を下の図に示します。
図からわかるように、蓄電装置との併用で高周波成分が均されて比較的滑らかな出力変動になっていることがわかります。しかし、発電出力が制御不能であること、直近の未来の出力がどのように変化するかを的確に予測することが出来ないという本質的な問題は回避できないことに変わりありません。
風力発電用の蓄電池のデータを表に示します。価格を見ると、43~76万円/kWとかなり高価です。
菅民主党政権は太陽光発電を政策的に導入するために、同時に戸建て住宅用の蓄電装置の導入と「スマートグリッド」の導入を考えています。これは前に紹介した風力発電に対する蓄電池併用による出力平滑化を太陽光発電にも導入しようとするものです。風力発電でも述べたように蓄電池とスマートグリッドを導入したところで、太陽光発電の出力が制御不能であり、未来の発電量が予測できないという問題は避けようがないのです。
今回の大震災で、電力不足対応ということで戸建て住宅用の蓄電装置が前倒しで販売され始めたことをNo.579「原発事故を商売の種とは・・・」で紹介しました。記事で紹介したエリーパワーは2kWh蓄電装置を100万円台前半で販売するとしています。概ね60万円/kWh程度というところでしょうか。
現在戸建て住宅用太陽電池パネルと同時に導入しようとしている蓄電装置は150万円程度といいますから、容量は2~3kWhという規模だと推定されます。ただし、蓄電装置の寿命は一般的にそれほど長くなく、太陽光発電パネルの標準的な耐用期間17年間の内には1回更新することが必要になるでしょう。
戸建て用3kW太陽光発電パネルを蓄電池と併用して17年間運用する場合のコストは次の通りです。
260万円+150万円×2=560万円
耐用期間中の総発電量は 51000kWhなので、蓄電池併用の太陽光発電の電力原価は次の通りです。
560万円÷51000kWh=110円/kWh
途方もなく高価な電力です。この数値を元に電力生産図を訂正すると以下の通りです。
太陽光発電に蓄電装置を併用すると、発電原価は2倍以上になります。この場合、単位発電電力量当たり太陽光発電は石油火力発電の 22円/6.8円=3.24倍の石油を消費することになります。「スマートグリッド」という情報通信網を付加すれば更に発電原価は上昇します。
ここで特に注意してほしいのは、不規則変動をする自然エネルギー発電電力を平滑化するための蓄電装置を追加するためのエネルギー・コスト、ここで示した太陽光発電の場合では蓄電池150万円×2=300万円だけで1kWh当たり石油換算で
60円/kWh×20%=12円/kWh
の追加費用が発生するのです。蓄電装置を追加するためのエネルギー・コストだけで石油火力発電の総エネルギー・コストである6.8円/kWhを大きく上回るのです。つまり、どのように低発電コストの自然エネルギー発電であったとしても、発電出力が不規則変動をする限り、単位発電電力量当たりの総エネルギー・コストが石油火力発電よりも安くなることは絶対にあり得ない=石油消費を減らすことは出来ないということです。
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Ⅴ 自然エネルギー発電利権に群がる人々
2回にわたって太陽光発電を中心に自然エネルギー発電の特性について検討してきました。制御不能な不規則変動する自然エネルギー発電は、発電システムそのものの機能としては原子力発電よりもはるかに劣る劣悪な発電装置であることがわかりました。これを大規模に電力供給システムに「敢えて」導入する場合には、何らかの巨大なバッファー=蓄電装置および制御機能を追加して出力を制御しなければ運用できないことがわかりました。
「自然エネルギー発電+蓄電・制御システム」=自然エネルギー発電システムのコストは、おそらく石油火力発電の10倍以上となり、単位発電電力量当たりの石油消費量は石油火力発電の数倍に達することは避けようがありません。このような非効率的でレア・アースなどの希少資源を含む有用資源を大量に浪費する発電システムで石油火力発電システムを代替することには何の科学的な合理性も存在しません。
ではなぜ今、自然エネルギー発電の導入に政府や企業は熱心なのでしょうか?それは電力生産図を見れば一目でわかります。前回示した太陽光発電システムの電力生産図を再掲しておきます。
石油火力発電を太陽光発電システムで代替する場合には、石油火力発電の 22円/6.8円=3.24倍の石油を消費し、88円/3.2円=27.5倍の工業生産品が必要になるのです。これによって発電施設の製造・建設の市場規模が27.5倍に膨れ上がるだけでなく、実は石油消費も3.24倍に膨れ上がるため、石油元売各社にとっても自然エネルギー発電の導入は市場の拡大になるのです。何のことはありません。結局自然エネルギー発電も原子力発電と同様に企業利益を膨らませる効果があるからこそ国や企業によって推進されているのです。
ここでただ一つ問題になるのが膨れ上がった電力供給費用を誰に支払わせるか、という問題です。これは言うまでもなく電力消費者である国民からの電気料金、あるいは税金で支払われるのです。
通常の市場であれば価格競争によって非効率的な自然エネルギー発電が普及することはありません。そこで、国は設置者に対する財政補助(税金の投入)を行い発電電力を高値で電力会社に買い取らせ(電気料金の値上げ)ることにするのです。そしてこうした措置を国民に納得させるための嘘が「原子力安全神話」に代わる「自然エネルギーは石油を消費せずCO2を削減する」という新たな神話なのです。
某情報関連産業の社長が自然エネルギー普及のための財団の設立を主張していることを高く評価する愚かなカッコつきの「知識人」が少なくないようです。
某氏の会社は電気・情報・通信産業の浪費を食い物にして暴利を稼ぎ出している会社です。このような会社の社長が本気で省エネルギー社会やつつましい社会を構想することはありません。某氏の狙いは、新参者の彼の会社ではさすがに巨大なハードウェアを要する重厚長大な国家ぐるみの原子力ビジネスには参入は難しいけれども、太陽光発電など個人レベルの分散した発電ビジネスには十分食い込める可能性があり、しかも分散型エネルギー発電と抱き合わせで導入が考えられている「スマートグリッド」が彼の本業の情報通信ビジネスの利益拡大に直結すると考えているからです。この彼の態度は企業経営者として当然でしょう。
某氏の行動に対して、人間社会にとってすばらしい自然エネルギー発電の導入を主張する某氏は大変すばらしい、などという頓珍漢の評価しか出来ない日本の思想状況を憂うのみです。
以上、12回〔編注〕にわたって原子力発電、そして同じ構造を持つ自然エネルギー発電から脱することこそ自然科学的な必然であることを述べてきました。脱原発は当然として、拙速な原子力代替としての自然エネルギー発電導入に走る前に、願わくば、自然エネルギー発電の自然科学的な検討を行うことを切望します。
「『環境問題』を考える」http://www.env01.net/index02.htmより転載。
〔編注〕本稿(「脱原発は科学的な必然」上・下)は、「『環境問題』を考える」http://www.env01.net/index02.htmに12回にわたって連載されたもののうちの第8回~第12回分を転載したものです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study392:110521〕
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