自民党は参院選への〝西田発言ダメージ〟を払拭できるか、2025年東京都議選の結果を見て(2)
2025年都議選の翌日、6月23日は沖縄戦終結から80年目の「慰霊の日」だった。各紙は競って特集を組み、式典の模様を伝えた。「慰霊の日」に沖縄入りをした石破首相は、沖縄全戦没者追悼式に参列した後、沖縄戦で動員された学徒たちを慰霊する糸満市の「ひめゆりの塔」に献花し、隣接する「ひめゆり平和記念資料館」を視察した。石破首相の訪問の目的は、自民の西田昌司参議院議員が5月、展示説明を「歴史の書き換え」と発言したことに対する県民の反発を和らげ、「沖縄に寄り添う姿勢を示し、西田発言による参院選のダメージを取り除く」ことだったという(読売新聞、6月24日)。だが、西田氏を取り巻く世論環境は極めて厳しいものがあり、「四面楚歌」と言ってもよい。以下、各紙の論調を見よう。
毎日新聞は6月24日、「戦後80年 沖縄慰霊の日、犠牲強いた歴史忘れない」との大型社説を掲げ、3面にわたる特集記事を組んだ。その中には、沖縄全戦没者追悼式で朗読された豊見城市立伊良波小学校6年・城間一歩輝君の平和の詩「おばあちゃんの歌」も全文掲載されていた。沖縄の平和教育の結晶ともいうべき「平和の詩」が全文掲載されたことは、「沖縄は地上戦の解釈を含めて、かなりめちゃくちゃな教育のされ方をしている」との西田発言に対する、毎日紙の強い批判の意思がうかがわれる。以下は、社説の骨子である。
――先の大戦で、旧日本軍は沖縄を本土決戦に備える時間を稼ぐための「捨石」にした。日本側の犠牲者約18万8000人のうち住民が半分を占めた。民間人の犠牲をいとわずに戦闘を長引かせた軍の姿勢は、県民に拭い難い不信感を残した。懸念されるのは、こうした歴史から目を背けるような動きが出ていることだ。典型的なのが、今年5月に那覇市で開かれた会合における自民党の西田昌司参院議員の発言だ。
「ひめゆりの塔」の展示を巡り、「日本軍が入ってきて、ひめゆり隊が死ぬことになった。アメリカが入ってきて沖縄は解放された」という趣旨の記載があったと一方的に主張し、「歴史の書き換え」と批判した。「自分たちが納得できる歴史をつくらないと、日本は独立できない」とも述べた。ひめゆり学徒隊は看護要員として軍に動員された女子生徒や教師だ。死亡した136人の8割超は軍の解散命令を受けた後、戦場に放り出される形で犠牲となった。西田氏の発言は沖縄戦の実相を反映しておらず受け入れられない(以下略)。
朝日新聞も「平和の詩」全文を大きく掲載し、社説では西田発言を「真剣な証言活動の営みを踏みにじるもの」「歴史の修正を図るもの」と鋭く批判した(6月24日、要旨)。
――自民党の西田昌司参院議員は今年、学徒隊らを慰霊する「ひめゆりの塔」の説明を「歴史の書き換え」と批判した。一部撤回、謝罪したが、真剣な証言活動の営みを踏みにじり、歴史の修正を図る動きには強い危機感を覚える。沖縄戦での犠牲者は日米合わせて約20万人にのぼり、県民の4人に1人が命を落とした。体験者は減り、継承は難しくなりつつある。それでも記憶の風化にあらがい、教訓を直視したい。沖縄を二度と戦場にしてはならない。政府が中国の海洋進出などを理由に南西地域の防衛力強化を進める今、その思いを強くする。
京都新聞も同日、1面トップで「沖縄戦80年『伝え続ける』」「慰霊の日『歴史修正』に抵抗、平和誓う」を掲げ、総合面ではほぼ全紙を使って特集記事を組んだ。紙面では「沖縄知事平和宣言要旨」「首相あいさつ要旨」「平和の詩」全文が掲載され、「戦禍の記憶どう受け継ぐ、80年目、沖縄慰霊の日」「続く防衛力強化、政治家は歴史軽視」との見出しにもあるように、西田発言への強い批判が展開されている。以下はその要旨である。
――「国会議員によって資料館の展示や沖縄の平和教育を否定する発言がなされ、非常に憤りを感じている」。糸満市の「ひめゆりの塔」で開かれた慰霊祭。ひめゆり同窓会の知念淑子会長(96)が怒気を滲ませ語った。5月3日、自民党の西田昌司参院議員が那覇市のシンポジウムで、資料館の「説明のしぶり」が「歴史の書き換え」だと発言。その後、一応の謝罪はしたものの、月刊誌の寄稿では「事実は事実」と居直ったような主張に終始した。
沖縄戦では米軍の無差別攻撃だけでなく、民間人虐殺など旧日本軍の蛮行が繰り広げられ、多くの事例を県民たちが伝えてきた。だが政府がこうした歴史の「書き換え」に踏み込んだケースもある。1982年の教科書検定では旧日本軍による住民殺害の記述が削除された。第1次安倍政権下の2007年には、文部科学省が軍による集団自決強制の記述を削除するよう求めた検定意見を公表し、県内で反対の世論が沸騰。県民大会には約11万人が集まった。旧日本軍を免罪するような言説は、戦争への道を再び開きかねない――。西田氏の発言を受け、「歴史改ざんに『ノー』と意思表示し続けなければならない」との思いを新たにする。
特筆すべきは、京都新聞社が『京都戦時新聞』(沖縄戦特集、1945年6~7月)を6月23日に発行していることである。この戦時新聞は、戦後80年を契機として随時発行されているもので、戦時中の京都新聞記事が(反省を込めて)分かりやすい言葉で再編集されている。また同日、『沖縄戦新聞』(1945年3~9月)が同社から発行された。この紙面は、琉球新報社が2004~05年に発行した「沖縄戦新聞」全14号(各4~8頁)から沖縄戦の実態を表す記事を選び、琉球新報社と京都新聞社が共同編集したものである。沖縄戦新聞は、戦中に言論統制や戦火で伝えられなかった歴史的事実や貴重な証言を現代の視点で取材、再構成した企画で、今回は京都新聞社が記事選びとレイアウトを担当し、琉球新報社が監修した――との解説が付されている。
京都新聞は京都府と滋賀県で朝夕刊合わせて30数万部発行し、京都府では全国紙を抑えて40%を超えるシェアを維持しているだけに、その影響力は極めて大きい。次期参院選が目前に迫った今、全国紙と京都新聞が競って沖縄戦特集記事を組み、その中で西田参議院議員が「歴史書き換え」「平和教育否定」の主役として批判の的になっていることは、象徴的な出来事だと言える。
西田参議院議員は、自民派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件のメンバーでもあり、それを推進してきた旧安倍派の中核メンバーでもあった。東京都議会選挙の結果は、裏金議員に対する厳しい審判が下ったことであり、それを小手先の「小泉人気」でごまかそうとした自民党への仮借ないしっぺ返しだった。
西田参議院議員はまた、京都仏教会から「千年の愚行」と指弾されている北陸新幹線京都ルート推進の中心人物でもある。京都ルートの大深度地下トンネル工事は、京都の文化と産業を支えてきた水資源の枯渇につながるとして、先日京都市会で反対決議が可決されたばかりである。西田氏はいわば「沖縄戦発言」「裏金疑惑」「北陸新幹線京都ルート推進」の〝三拍子〟が揃った類まれなる参院選候補者であって、このような人物が当選することは「京都の恥」以外の何物でもない。
次期参院選を目前に控えて、各紙(京都版)では候補者9人が乱立する京都選挙区(定員2)の選挙模様が連載されている。
〇京都新聞6月12日、「挑む、2025年参院選、京都の構図(上)」、「広がる『西田包囲網』」
〇毎日新聞6月23日、「臨戦、参院選2025,各党の思惑(上)、自民・公明」、「組織戦に注力『一番厳しい』」
〇読売新聞6月24日、「乱戦 参院選2025(上)」,「自民・西田氏 『攻撃の的』必至、組織力で票掘り起こし狙う」
いずれも第1回は西田氏を巡る情勢を取り上げ、「西田包囲網」「一番厳しい」「攻撃の的」などと伝えている。情勢がこのまま推移するのか、それとも西田陣営がどこかで巻き返すのか注目していきたい。(つづく)
初出:「リベラル21」2025.7.01より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14307:250702〕