(2021年7月7日)
生来、褒められた経験はほとんどない。子どもの頃から表彰などとは無縁だった。先年、期成会から寄稿の一文を褒めていただいただき、賞状をいただいたことが唯一の例外だろう。
その私に日弁連から「表彰状」が贈られてきた。まったく唐突に、である。その全文を紹介しておきたい。
表彰状
会員 澤藤統一郎殿
あなたは50年の永きにわたり法曹として職責を果たされてきました
この間人権の擁護と社会正義の実現を使命としてたゆまぎる努力を重ねてこられまた司法制度の改善発展のために多大なる貢献をされました
あなたのこの貴い業績をたたえるため記念品をお贈りして表彰いたします
令和3年6月11日
日本弁護士連合会
会長 荒 中
事前に何の連絡も問い合わせもなかったが、「50年の永きにわたり法曹として職責を果たされてきました」「この間人権の擁護と社会正義の実現を使命としてたゆまぎる努力を重ね」「司法制度の改善発展のために多大なる貢献をされました」と言われれば、いささかの自負はある。だから、日弁連から、「あなたのこの貴い業績」と言われれば、嬉しくもなる。
とはいうものの、これは在職50年会員(232名)に対する同文の表彰文言なのだ。特に私の具体的な弁護士活動に着目しての表彰ではない。弁護士たる者かくあるべしという抽象的な理想の弁護士像を表彰理由として書き込んだだけのこと。
それにしても、「法曹としての職責」を「人権の擁護と社会正義の実現」と確認したうえ、「司法制度の改善発展」としている日弁連の姿勢は評価に値するものと思う。「政財界で活躍し」とか、「弁護士の社会的地位を高め」とかは言わないのだ。
ところで、「令和3年6月11日」という日付の無神経さに驚く。私が、元号大嫌いなことを知っての嫌がらせかとも思いたくなる。西暦表示を原則にして、どうしても元号表示にしてくれという変わり者がいたら直してやればよいではないか。いずれにしても、二通りの紀年法があることが、たいへんな混乱をもたらしているのだ。
表彰状と一緒に、事務総長名の添え書きも送られてきた。これも、「令和3年6月吉日」である。せっかくの表彰が興醒めで、不愉快でもある。
が、その文中に、「記念品は別便にて,7月上旬までにお届けする予定です」とあった。「記念品」とは何だろう。少し機嫌を直して楽しみにしていたら送ってきた。立派な卓上ケースである。印鑑と朱肉と名刺を入れるサイズ。七宝のキラキラがまぶしい。
問題は、この筺のデザインである。どうしても引っかかるものを感じる。真ん中に、金色の弁護士バッジがある。その下に左右一輪ずつのヒマワリがある。これはよい。しかし、弁護士マークを囲むように、2羽の鳳凰がヤケに目立つのだ。古代より「有徳の天子が位に就く時に現れる」というあの鳳凰である。
弁護士バッジは、ヒマワリの花を図案化したものというが、この筺の中央にある金ピカのマークは、菊の紋章に見えなくもない。邪推すれば、ことさらに似せて作ったとさえ思われる。
菊の紋章を囲む2羽の鳳凰。さすがに龍までは書き込まれていないが、皇室礼賛のデザインと見まがうばかり。在野精神を貫くべき弁護士への贈答品として、とうてい適切とは思えない。表彰され記念品をもらってのことで、口にはしにくいのだが、皇室の雰囲気に似せて目出度い雰囲気を演出しましたよ、と言われているようで、こちらも興醒めなのだ。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.7.7より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17165
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11085:210708〕