《 やまぬ殺戮を前にして …歴史の根源に立ち返る

占領と封鎖に抗して立ち上がった2023年のガザ民衆蜂起となった10・7越境奇襲攻撃は、ハマース・カッサム旅団が主導したにせよイスラーム聖戦・パレスチナ解放人民戦線・ファタハ非主流派などが連携して、ガザ周辺12のイスラエル軍前哨基地を襲ったものであった。イスラエル諜報機関とネタニヤフ政権が、その事前情報をどのように利用し画策しようとしたかはまだ明らかにはなっていない。しかも「テロ組織ハマースの殲滅」とは、米イスラエルが仕立てた「対テロ戦争」の「自衛」だけが許すものだ。
それにしても8ヵ月にもなるということを、当初、だれが予想できただろうか。戦略を持たず強権国家しか考えられないネタニヤフ・ファシスト政権だからなのか、もはや戦略を持ち得ない米国とともにひたすら覇権一極支配にしがみついているだけなのか、いずれ識者が解説してくれるだろう。あるいは、パレスチナ国家など絶対認めず大イスラエル主義のネタニヤフと神殿改造計画を企む極右政権がねらう(イスラエル10・13戦略政策文書)、ガザ沖ガス田供給基地とベングリオン運河建設(ユマニテ・鵜飼哲)のための(エジプトの拒否で頓挫したが)ガザ住民シナイ半島追放およびガザ全土再略奪を戦略としたものか?無論、米国の内密同意を得たうえで。
確かなことは、オスロ合意のまやかしを切り抜けたシオニスト・ネタニヤフ政権の心性は、ナチ・ファシストと同等であること。16年もの完全封鎖といい、数万人にも及ぶ無辜の女性と子どものジェノサイド犠牲者といい、世界が見殺しにした事実といい、ホロコーストの再現であることは明らかだ。しかもこの心性は、内に向かった「ユダヤ人」差別から外に向かった異教徒イスラーム敵視、そして野蛮人とした先住民族(原住民)とくに黒人差別へと、1000年も前の十字軍、数百年も前の大航海時代の侵略主義から、アフリカ分割と中東分割へと一直線に引き継がれているものなのだ。欧米と、その前哨基地の鬼子イスラエルの植民地主義心性だ。ついでに言えば、その盟主アメリカは、メイン号事件(1898)以来、裏庭中南米の政権転覆(レジーム・チェンジ)を欲しい侭にし、朝鮮戦争からベトナム戦争トンキン湾事件(1964)の画策、マイダーン・クーデター(2014)によるウクライナ代理戦争の今日まで、戦争したい国させたい国として一極覇権で君臨してきたが内実お先真っ暗の凋落で、グローバル・サウスの曙光が見え始めている。

私自身は、もはや米欧自らがイスラエル・ユダヤ国家創設の非道と誤りに目覚めて、自発的に非暴力で平和的なイスラエル解体の道すじを世界に提供するしか道はないと考えている。2000年にわたるヨーロッパ・キリスト教世界の「反ユダヤ主義」から生み出された虚構の「ユダヤ人」と「シオニズム」信奉者には、レイシズムに基づく「民族自決権」などあってはならない、と考えているからだ(疑問を持たれる方は、ユダヤ教徒の「流謫」の生き方に学んでいただきたい/cf.バビロニア・タルムード)。「ユダヤ国家」などは百害あって一利なしの現実が、この100年であった。人種も民族も「ユダヤ人」などいない、選択的にアイデンティファイするユダヤ教徒が世界中いたるところに散在して「流謫」を生きている、この現実を大切にしなければならない。そのように生き、イスラエル国家の存立そのものにきびしく反対しているユダヤ教徒がたくさんいる。実際イスラーム世界では、ユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒が何百年もの間、共生社会(コンビベンシア)で生きていたのだから(ヤコブ・ラブキン)。

むしろ問題が、新約聖書以来、歴史に刻まれてきた「反ユダヤ主義⇒反セム主義」の悪弊を欧米キリスト教界(東方も西方も)とその社会・国家が、自発的にその清算と是正(リドレス)に立ち向かわずに、国連を利用した国家と軍事同盟のパワーゲームでパレスチナ人などの弱者を犠牲者に仕立てたまま入植植民地主義を継続・維持してきた欧米国際社会の責任にあることは明白だ(「欧米が償うべきことを、パレスチナ人に償わせてきた」板垣雄三)。いまイスラエル批判・シオニズム批判のパレスチナ人権団体を「反ユダヤ主義」のレッテルを貼るイスラエル政権は、その狂った尺度を押し付けて国際正義と国際法を狂わせている始末だ。歴史の現実は、絶えず正義を踏み倒してきたが、他方、正義の尺度をつねに弱者に当てがおうとしてきたのも事実だ。これこそ人類の普遍的正義でなくて何であろう。(松元)
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