「はぐらかし」 と 「ごまかし」 の記者会見 : 第15回「福島県民健康調査検討委員会」

遅くなりましたが、去る5月19日に開催されました「第15回 福島県民健康調査検討委員会」の全容に関する報告です。下記URLのサイトのうち、特に、一番最初の記者会見録画と、「福島県民健康調査検討委員会」が公開した資料類、それに一番最後の「ママレボ通信」の「検討委員会傍聴レポート」は必見ですので、ぜひご覧になってみてください。

 

記者会見録画は、見ていて聞いていて、かなりイライラします。相当の我慢が必要です。その原因は、記者達の質問の内容もその答えも一般的ではなくて分かりにくいことがありますが、それだけではありません。記者の質問に答える側=つまり「福島県民健康調査検討委員会」の委員たちの答弁が、「はぐらかし」と「ごまかし」に満ち満ちているからです。そこには福島第1原発事故後の子どもたちの命と健康を何としても守らねばならぬという、委員としての使命感や責任のようなものは全く感じられず、この「福島県民健康調査検討委員会」に乗り込んできている、いわゆる原子力ムラ・放射線ムラの人間達が出鱈目・いい加減・ごまかし・はぐらかしの説明を行い、その人たちに頭を押さえられた覚悟の決まらない中途半端な人間達が、そのお囃子をするかのごとく、どうでもいいようなことを長々と話し続けているのです。言いかえれば、検討委員たちの自己保身優先の委員会とでも言えるでしょうか。

 

記者達の質問は、以前に比べれば、ずいぶんと精緻になり、鋭くなってきました(それでもまだ、イライラさせられる質問や、ちょうちん質問のように感じられるものもありますが)。しかし、質問を受ける検討委員たちの方は、依然として、この記者達の核心を突くような質問には、正面からきちんと答えようとはしないのです。「はぐらかし」「ごまかし」の連続です。対外的に公表できない、あらかじめ決めてある(ロクでもない)「結論」があるから、かような物言いになるのだ、ということの典型のようなしゃべり方です(「はぐらかし賞」のようなものでも差し上げたいくらいですし、一人ずつ、はりせんでぶったたいてやろうかとの衝動にもかられます)。

 

(星北斗座長が今回の記者会見で「この検討委員会の第一の使命(ミッション)は、子どもの甲状腺がんの発生・発見が放射線被曝によるものであるか否かを明らかにすること、つまり原因の究明を行うことではない」と発言し、記者達から追及されておりました。何という発言でしょうか。座長辞任ものです)

 

ところで、その第15回検討会の内容のことですが、ついに悪性の甲状腺がんの子どもたちの数が(高い確率でほぼ確定の疑いまでを含めて)89人となりました。確定は50人です。恐ろしい数です。発見数が増えて行く勢いもとまりません。なお、全体で約37万人の子供たちが検査の対象になる予定ですが、一次検査で言いますと、2011年10月以降、2014年3月までの全体の受診率は80.2%となりました。ほぼ一巡目の検査が終わろうとしています。

 

これほどまでに甲状腺がんの発見数が増えても、この検討委員会は依然として「放射線被曝の影響は考えにくい」「多く見えるのはいわゆるスクリーニング効果だ」を繰り返しています。それはまるで、放射線被曝の影響を認めれば、医療費の国庫負担や被害者への賠償・補償金額が巨額となるため、絶対に認められない、という隠された「決めごと」を、様々な理屈を付けて合理化しているような観があります。つまり結論は最初から決まっているということなのかもしれません。甲状腺がんも含めて、表面化してくる健康障害については、絶対に、何があろうとも、福島第1原発事故の放射能や放射線被曝とは関係がない、ということを「死守する」という結論です。

 

しかし、放射線被曝の影響は考えにくい、とされている理由である「これまでの知見」や「チェルノブイリ原発事故時の経験」の具体的な中身は「子ども甲状腺がんは事故後4年目から増大した」や「福島第1原発事故ではチェルノブイリ原発事故に比べて被ばく量が小さい」などであり、それらはいずれも根拠がないことが明らかになっています(前者なら、チェルノブイリ原発事故後の当初4年間はきちんとした甲状腺検査が行われていなかっただけのことだし、後者について言えば、国や福島県、それに「福島県民健康管理調査検討委員会」自身が初期被ばく計測の妨害をしたために、その把握ができないまま今日に至っていて、一体どれだけの被ばくがあったのかはわからないままです=おそらく永久にわからないでしょう)。(⇒ 記者達は、何故、このこと=つまり「これまでの知見」や「チェルノブイリ原発事故時の経験」の内容を、もっと徹底して追求しないのでしょうか? なお、今回は、後者については、複数の記者が記者会見の際に追及しています:必見)

 

また、(チェルノブイリ原発事故時には増加がみられた)「0~5歳児に甲状腺がんの発見がない」(から放射線被曝の影響とは考えられない)というのも、これからどうなるかわかりませんし、この年代の子どもたちに甲状腺ガンが発見されないからと言って、放射線被曝の影響がないなどとはとても断言できるものではありません。更には、福島県立医科大学の鈴木真一がよく口にする「甲状腺がんは進行が遅い」(だから今発見されているものは3年前の福島第1原発事故が原因ではない)というのも、子どもの甲状腺がんの場合にはそうとは言い切れないこともあり(進行が早い)、確定的なものではありません。鈴木真一が言うのは、あくまでも今までの、大人に発見されていた甲状腺がんの話です。つまり、明確な科学的実証的な根拠がないままに、かたくなに「放射線被曝の影響は考えにくい」という主張にしがみついています。

 

更に更に、考えられないほどたくさんの子ども甲状腺がんが発見されてきていることについても、言を左右にして、その多発を認めようとしないのです。スクリーニング効果とは、大規模な調査をしたので、今までは発見されていなかった、将来発見したであろう甲状腺がんを、まだ小さいうちに発見しているにすぎない、という、いかにも「ためにする」議論です。早期に発見しているだけなので、多発ではなく、むしろ「過剰診療(調査)だ」とまで言い出しています。何が過剰診療だ、ふざけるな!!

 

前回の時にも申し上げましたが、放射線被曝による甲状腺がんの場合には、7Q11と呼ばれる染色体に異常が出ることが多い、と言われているのですから、何故、7Q11を含む染色体異常の検査をしないのでしょうか(染色体異常の検査はその他の意味でも重要です)。また、多数の子ども甲状腺がんの発見がスクリーニング効果なのか否かは、原発事故による放射線被曝の影響がほとんどない地域(沖縄・九州・四国・中国や北海道)で、子どもたちの甲状腺検査を福島県と同じような形で大規模に実施すればわかる話です。何故、これをしないのでしょうか。また、「これは明らかに子ども甲状腺がんの多発である」と主張する津田敏秀岡山大学大学院教授のような疫学の専門家の意見を聞くこともできるでしょう。事は未来を担う子どもたちの命と健康にかかわる話です。大事をとって、可能なことは積極的にやるべきです。

 

できること、すべきことをしないでいて、放射線被曝の影響はない、を根拠なく繰り返し固執しているから、この検討委員会に不信が高まるのです。今まで何十万人に1人とか2人とか言われていた病気が、わずか30万人ほどを調べただけで、突然その数十倍の100人近くが発見されましたが、それは全てスクリーニング効果です、では済まされないでしょう。そして、済まされないのなら、その原因は何だということになり、その原因が確定的でないのなら、おそらくは放射能の影響は否定できないのだから、それを前提にして様々な対策を前倒しでやっていく、というのが常識的な対応ではないのでしょうか。

 

そして、最も許しがたいのは、こうした「放射線被曝が甲状腺がんの原因であることの(支配権力による断固たる)否定」によって、一方では、すでに90人近い子どもたちが甲状腺がんの犠牲になってしまっているにもかかわらず、それが何故なのかもわからないとされてしまい、まるで原因不明の自然現象であるかのごとく言われ、福島第1原発事故による被ばくによるものだとの主張さえできない状況に陥れられていること( ⇒ こんな理不尽な話があるでしょうか? 何が原因なのか、わかったってしょうがない、甲状腺は戻ってこない、などとも言われて、あとはメンタルケアで辛抱しなさい、なぐさめてもらいなさい、毎日代替ホルモン補充の薬は飲みなさい、などとされていて、医者は、予後がいいから心配しないでいいと言いつつ、その原因追究についてはそしらぬ顔をしているし、放射性ヨウ素を含む放射能が原発事故のせいで大量にばら撒かれ、安定ヨウ素剤配布もされずに放置されたのに、今もなお放射能汚染だらけなのに、そこに住めと事実上押し付けられて、なお追加で放射線被曝もさせられながらも、子どもたちの甲状腺がんの多発は放射能の影響ではないし(これからもありえない)、などとされる。こんなもの、誰が納得するでしょうか:これほど理不尽な子どもたちの人権侵害があるでしょうか。こんな状態で放置しておいていいのですか)

 

更にまた、もう一つの許しがたいことは、それがそのまま「放射線防護対策」「放射線被曝の未然防止」「少しでも放射線被曝を避ける」(避難・疎開・移住・長期保養・その他)に取り組もうとしないことや、被ばくによる健康障害の「早期発見・早期治療」などの「被ばく医療」への責任の放棄につながっていることです。それはまるで「調査すれども治療せず」の、かつての原爆傷害調査委員会(ABCC)の行ったことが、今再び福島で繰り返されているように思われます。

 

そして、福島県以外の都県では、こうしたことを含めて、一切が何もないのです。ないことにされてしまっているのです。また、18歳を超えれば、放射線被曝による健康被害のことなどは歯牙にもかけてもらえない雰囲気作りが、滞りなく進められているようです。やはり原子力推進とは、放射線被曝の強制・押し付けであり、また、その被害の隠ぺいでもあるという、これまで自明であったことが、再び自明になっただけのことなのかもしれません。

 

今でも多くの福島県をはじめ放射能汚染地域に住む子どもたちが、猛烈な放射能汚染環境の中で何の保護も受けられずに生活することを余儀なくされています。甲状腺の被ばくは、放射性ヨウ素のみならず、放射性セシウムによる被ばくも大きく懸念されるところです。しかし、この「福島県民健康調査検討委員会」では、もはやこの子どもたちを救うことはできそうにありません。このままでは、ほんとうにもう、手遅れになってしまいます。

 

(それからもう一つ、この「福島県民健康調査」については、これまで多くの問題点が指摘され、従ってまた、多くの改善事項が多方面から寄せられてきましたが、そのほとんどはまともに検討がされた様子もないままに放置され無視されています。記者会見等で指摘されても、上記で申し上げたように「はぐらかし」「ごまかし」で、一般論化したり、先送りしたり、そのうちにやります、のようなことでお茶を濁しているのです。健康調査自体が、この3年間でほとんどよくなっていない、質的に改善されていない、というのが、もう一つの重大な問題点ではないかと思います:原子力ムラ・放射線ムラとは昔から馬耳東風の「ウマ」のような連中でした)

 

(たとえば、甲状腺検査以外に、血液検査や尿検査、心電図検査、WBCなどなど、子どもたちの体に異常が出ていないのかどうか、綿密に定期的に調べて、もし体に異常があるのなら早期に手が打たれるよう万全を尽くすべきです、また、記者会見の中にも出てきますが、県外にも「福島県民健康調査」ができる病院等が増やされたのはいいのですが、福島県立医大はこうした健康調査をする医療機関に対して「検査をしたら、その結果をすべて県立医大に送れ、診断はしてはならぬ(従って、治療もできない)」という異常なことを「協定」と称して強要しているようです。甲状腺がんに関する情報と、その処方については、福島県立医大が一元的に統制するのだ、という断固たる意思を貫いているようです。信じがたいファッショ的行為です(もしこれが合理化されるのなら、全ての医療行為についても同様なことが言えることになるでしょう=つまり、ほとんどの医師は、検査すれども診断できず、治療も決められない、ということになるのです)。

● 甲状腺がんの子、疑い含め89人に〜福島県民健康調査 記者会見他 OurPlanet-TV:特定非営利活動法人

(1)(アワプラTV)http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1778

(2)http://www.youtube.com/watch?v=xWkaJ5DVkmw

(3)http://video.search.yahoo.co.jp/search?p=%E7%AC%AC15%E5%9B%9E+%E3%80%8C%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%9C%8C%E6%B0%91%E5%81%A5%E5%BA%B7%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%E3%80%8D&tid=2fb326d93f5d719b96e51df58f95906d&ei=UTF-8&rkf=2

 

記者会見の中に出てくる「ベースライン」問題や、被ばくの影響の評価の問題についてのコメントは、下記の「ママレボ通信:傍聴レポート」をご覧になってください。よくまとまっています。

 

原発事故後3年間にわたって実施された1巡目の甲状腺検査の結果を「ベースライン」にする意味というのは、汚染地域の被害者の子どもたちの甲状腺がんの数を「基準」と考えます、という意味です。原発事故後の最初の3年間は、放射線被曝による甲状腺がんが発生することはないのだから(上記で申し上げたように、これは嘘八百です)、そして、日本では大規模な子ども甲状腺がんの調査はなされたことがないのだから、今回実施された3年間の結果を「基準」として使います、というのです。しかし、これはとんでもない話です。こともあろうに汚染地域の子どもたちの数字を「基準」にしてしまったら、「基準」そのものが高い数字になり(今現在の段階で言えば89人/30万人ということです)、これから発生してくる甲状腺がんは、この「基準」(ベースライン)に比べたら大した数ではない、ということにされていくのです。

 

かような、全くと言っていいほどバカバカしい話を、この「福島県民健康調査検討委員会」は、記者会見の場においても否定することはありませんでした。もはや検討委員としての資格はないとみていいでしょう。福島第1原発事故による子どもの甲状腺がん多発のもみ消しと同時に、今後発生するであろう放射能事故に伴う子ども甲状腺がんのもみ消しにも役に立つよう、「基準」(ベースライン)なるものをデファクトで造ってしまおうというわけです。怒りを通り越して、恐ろしさを感じます。こんなものがまかり通る社会というのは、いったい何なんでしょうか?

 

● 「福島県民健康調査検討委員会」HP

http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai.html

 

● 第15回「福島県民健康調査検討委員会」配布資料一式

http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-15.html

 

● 放射線影響考えにくい 甲状腺がん50人確定で県民健康調査検討委  県内ニュース  福島民報

http://www.minpo.jp/news/detail/2014052015784

 

● 2014-05-19 【福島】「甲状腺がん、悪性ないし悪性疑い90人」 〜第15回 福島県「県民健康調査」検討委員会  IWJ Independent Web Journal

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/140680

 

●(これは必見です)ママレボ通信 第15回 県民健康調査検討委員会 傍聴レポート

http://momsrevo.blogspot.jp/2014/06/15.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4885:140612〕