「スコットランド国立美術館展」へ

 こともあろうに、猛暑日の続く6月末日、連れ合いの誘いで、久しぶりの展覧会である。スコットランドは、私には、初めての海外旅行で出かけた地、家族三人の旅行でもあっただけに、思い入れも深い。何せ1996年のことだから、四半世紀以上も前のことである。エディンバラ城へ登っていく途中で、ナショナルギャラリーの前を通り過ぎた記憶がかすかにあるものの、入館することはなかった。
 なので、今回は是非と思ったが、前準備がないままで掛けた。私は、下調べもさることながら、音声ガイドというのもあまり好きではない。ふらっと、気の向くままに観賞する方が性に合っているのかもしれない。だから、帰って来てから、え?そんな著名な絵もあったんだと気づかないこともあったりして、もったいない気もしないではないが。
 入館時にチラシがもらえず、作品一覧を頼りにまわった。大きく、ルネサンス/バロック/グランド・ツアー/19世紀の開拓者たちといった時代区分であった。
 宗教画が多いルネサンスの部屋で目を引いたエル・グレコの「祝福するキリスト」(1600年頃)は、端正な青年の趣をもつキリスト像で、宗教画らしくないとも思った。バロックの部屋では、かなりの大作のベラスケス「卵を料理する老婆」(1618年)のリアルな描写の迫力に引き寄せられた。キャプションによれば、ベラスケス十代の作であるという。ベラスケスといえば、ウィーン美術史美術館で見たスペイン王家のマルガリータ王女(後、ハプスブルク家のレオポルドⅠ世と結婚)の愛らしい肖像画を思い出す。宮廷画家の印象が深かっただけに、思いがけないことだった。そして、帰りがけに手にした本展覧会のチラシにも、この「卵を料理する老婆」が載っていたのである。

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どんな卵料理かも気になるところだが、卵を油で揚げているらしい。少年が持つのは南瓜と何のビン?二人の深刻にも見える表情は何を語っているのか。

 この部屋のオランダの画家ヤン・ステーン「村の結婚式」(1655~60年頃)は、相変わらず騒々しくも陽気な村人たちの暮らしが息づいているかのようだった。レンブラントの「ベッドの中の女性」(1647年)は、説明によれば、おそろしい物語が秘められているのを知るが、不安げな表情の女性のモデルは、レンブラントと長い間暮らした女性だという。
19世紀の部屋になると、コロー、モネ、ルノアール、ドガらが登場し、親しみ深いものがあった。シスレー、ターナー、スーラの絵にはいつも癒される。

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ランドシーアという画家の「荒野の地代集金日」(1855~68頃)、ノートを持つ集金人と交渉する人、待つ人、それに、絵の左右には、二頭の犬も描かれている。左手前の犬は待ちくたびれたと寝そべっているが、右側の犬は、小作人の飼い犬だろうか、不安そうな表情が絆を思わせる。他にも牛や馬が登場する絵は数点あったが、労働をともにするという思いがにじみ出ている作品だった。

 館内の精養軒でのランチは、久しぶりの外食、ほとんどが中高年の女性たちだった。コロナは収まってくれるのだろうかの不安がよぎる中、昼下がりの上野の暑熱は、記録的だったかも知れない。

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古いアルバムを繰ってみても、当時の旅行写真は極端に数が少ない。エデインバラには二泊していた。お城の夕景のパノラマの絵葉書と、城内でのスナップ(1996年8月31日撮影)である。

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古いアルバムの案内パンフレットから、はらりと落ちてきた押し花である。エディンバラの前日はヨークに一泊、その散歩中に摘んだ野の花だろうか。いまとなっては、花の色も枯葉色で、その名の検索のしようがない。

初出:「内野光子のブログ」2022.7.2より許可を得て転載
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〔culture1092:220703〕