「不思議の国のカルロス・ゴーン」逃走につき想像を逞しくする

昨年の末に予想もしなかった事件が生起しました。 あの「不思議の国のカルロス・ゴーン」(被告)が不思議の国(Wonderland)から逃走したのでした。

ゴーン被告が被告の席に座らねばならない事件の顛末は、当該の被疑事実が殺人や強盗等の「自然犯」では無く、「特別刑法」と呼ばれる刑法典以外の経済等に係る技術的な性質(表現が可笑しいですが)の犯罪であることから、有罪になるのか無罪になるのかは俄かに判定が出来ない性質のものであり、事件の行く末が黒と出るのか白と出るのかは微妙でした。 諸種の事件で名高い弁護士がつかれてゴーン被告が勝訴することになるかも知れず、事件の顛末は微妙でした。 ただ、一件落着となるには、何年もかかることが予想されてもいましたので、ことに依りますと、何年も被告の席にあること自体に我慢がならず逃走をされたのかも知れません。

この逃走劇についてマスコミでは様々に報道されています。 その中で詳細に逃走劇を報じられているのが米国のWSJ(Wall Street Journal)の記事です。

当該記事は、既に日本のマスコミが報じていますが、要するに日本の地方の空港の保安上の脆弱性を突き、音響機器のケースに身を潜めたゴーン被告をプライベートジェット機で国外脱出させた、と言うのです。

逃走劇のシナリオを描かれたのは、元特殊部隊等の出身者と言われています。 これは、真実でしょうが、私は、寄せ集めの集団では無く、彼等が所属する処の民間軍事警備業の企業体である、と思っています。 つまり、彼等は傭兵等で誘拐やテロ等の抑止、警備、救出を任務として特定の国、企業等からの依頼に依り作戦を行うプロの集団である、と。

これについては、昔々、購読していました米国の雑誌を思い出します。 SOF(Soldier of Fortune)と言う軍事関係の雑誌ですが、或る時、その中に特異な求人広告を見たのでした。 傭兵でした。 しかも外国での任務に就く。 勿論、米国内でも彼等の活躍(?)場所があるらしくて、離婚した妻が連れ去った子を誘拐紛いに連れ戻す等という業務もあるようでした。 実際にその種の事件が報道されたこともありました。

そこからゴーン被告逃亡事件につき思いました。 子供を連れ戻すのと同等にプロであるからには、報道にあるように関西空港の保安上の弱点を衝く等と言う発想で脱出作戦を発動させるものでしょうか。 請け負えば、必ず脱出させねばならない訳です。 仮に、空港でゴーン被告が箱に隠れている事実が露見すれば失敗するのです。 報道されているのは、謂わば、博打のような作戦です。 それとも、ことが露見しないと言う確信がゴーン被告を含めて彼等に在ったのでしょうか。

WSJの報道内容も含めて巷間に流布されている事実は、真相を隠すための煙幕、或いはブラフではないのかとの疑いがありそうです。 それ程に水際だった作戦だった、と言わねばなりません。

加えて、プロの集団が実施した作戦が日本国内で露見した場合、彼等が大人しく手錠を掛けられたでしょうか。

これについて思い出されますのは、1997年2月28日の米国北ハリウッドで生起した銃撃事件(North Hollywood shootout)です。 銀行強盗事件で臨場した警官隊を強盗犯二人が圧倒したのでした。 彼等銀行強盗は軍用銃で武装し軍用防弾着で身を包んでいたのでした。 警官達が打つ拳銃弾は、軍用防弾着を貫通せず、反対にパトカーは蜂の巣にされ警官達は圧倒され負傷者が続出しました。 警官達は、余りのことに銃砲店に駆けつけてライフル銃を借りて応戦しようとした程でした。 奇跡的に警官隊が銃撃戦を制したのでしたが、犯人達が撃った銃弾は、一千発を越えたそうでした。

其処から想像を逞しくしますと、仮にゴーン氏の逃走が露見した場合には、犯人達が潔く手錠を受けた、とは思えず、露見した際に強行策に転じたことはほぼ間違いが無いことでしょう。 加えて、その場合、日本におけるNorth Hollywood shootout事件となったであろう、と。

ゴーン被告には、逃走して頂いて、それで良かった、と私は安堵しています。 つまり、大型の音響機器二箱の内の一箱の中身の威力を見ること無しに。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion9347:200114〕