「与謝野入閣、仙谷交代が目玉―菅第2次改造内閣が発足」

  昨年6月に首相に就任した菅直人首相は14日、「たちあがれ日本」を離脱し無所属の与謝野馨氏を経済財政担当相(税制・社会保障兼務)に起用、仙谷由人氏を官房長官のポストから交代させ、仙谷氏と一体で行動してきた枝野幸男氏を後任の官房長官に充てる第2次改造内閣を発足させた。
 この体制で2011年度予算と税制改革など関連法案を年度内に成立させ、4月の統一地方選を乗り切る。6月ごろにも消費税引き上げを軸とする2012年度予算編成に着手する。普天間飛行場移設問題を含め5月連休中の訪米とオバマ米大統領との会談で日米同盟「深化」を確約する日米共同声明に合意するなど、懸案をこなしていく方針だ。
 内閣改造の目玉は何と言ってもつい昨春まで自民党に所属していた与謝野馨・元財務相の入閣である。与謝野氏本人の受諾理由は「72歳という年齢だ」というものだが、実際には菅首相とともに執念を燃やす消費税率引き上げをメイン・テーマにして昨年半ばごろから菅首相側の呼びかけで何度も二人だけの会談を重ねた結果だ。消費税アップ実現を中心に意気投合し、昨年末に平沼赳夫「たちあがれ日本」代表もいったんは同意した民主党との連立を、平沼氏が土壇場で拒否した。今回の離党―民主党政権入閣の与謝野氏による理由である。
 もう一つの目玉は官房長官を仙谷由人氏から枝野幸男民主党幹事長代理に交代させた人事だ。仙谷氏の官房長官辞任は野党が昨年11月に可決した問責決議がきっかけだ。自民党など野党は仙谷氏と、同時に問責された馬渕澄夫国交相の2人が留任する本会議や委員会には欠席し審議拒否するとの対応を固めたことが交代の理由だ。
 菅首相は仙谷氏の人事は問責可決とは無関係と説明したが、実際には野党の審議拒否が長引けば2011年度予算案と関連法案の審議入りが遅れ、関連法案の成立が遅れれば暫定予算提出という政権にとって痛い事態に直面しかねない。場合によっては政権の致命傷にもなりかねない。
 ついには西岡武夫参院議長までが、問責された閣僚は辞任すべきだ、と明言するに及んで仙谷氏を官房長官からはずし、民主党代表代行に起用した。

 思い出す佐藤栄作人事
 目玉とはいえないが、注目されるのは78歳の藤井裕久元財務相の官房副長官起用である。かつての佐藤栄作内閣で先輩の保利茂官房長官を起用するために、それまでの官房長官だった木村俊夫氏を官房副長官に「降格起用」したことがある。それに似た人事だが、民主党政権には1970年代初めの佐藤長期政権の余裕はない。
 むしろ46歳と若く、財政再建問題に明るいとはいえない枝野新官房長官を藤井氏が支えるのが本当の目的だと見られる。
 もう一つの意外な人事は、一昨年の政権交代で参院議長のポストに就いた江田五月氏の法相起用だ。3権分立の建前からみて筋がおかしいが、菅首相がかつて江田氏とともに社会民主連合という小グループの同志だったいきさつを思えば、不思議ではない。判事出身の江田氏の法相起用は「適材適所」のモデルケースになるかもしれない。

 民主党批判から入閣へ
 与謝野氏起用への疑問は尽きない。自民党当時、与謝野氏は民主党のマニフェストなどを口を極めて批判。特にマニフェストに並んでいる諸政策には財源の裏づけがないことを繰り返し指摘し、「民主党の政策はめちゃくちゃだ」とののしり続けた。菅首相の前任の鳩山由紀夫前首相への母親からの巨額献金について与謝野氏は自ら予算委の質問に立ち、「あなたは平成の脱税王といわれている」と最大限の表現で罵倒したこともある。
 昨年6月に退陣表明した鳩山前首相と違って、菅首相は就任早々、消費税引き上げへの積極姿勢に転じ、与謝野氏と同じような方針を訴えて昨年7月11日の参院選に臨んだ。そして大敗を喫し、現在のねじれ国会のドロ沼に転落、今回の内閣改造で体制立て直しを迫られている。与謝野氏の消費税に対する姿勢は民主党を批判し続けていた当時から一貫しているともいえる。

 藤井氏と背後の財務官僚
 むしろ消費税を正面から掲げたがゆえに参院選に大敗したのは菅首相である。参院選からまだ半年しか経っていない。にもかかわらず通常国会乗り切りを狙って、菅首相は早くも、再び消費税を持ち出し、年初の記者会見では「6月ごろに方針を決めたい」と述べた。その発言と与謝野氏入閣とは明らかに連動している。
 しかもかつて蔵相や財務相を務めたベテラン財務官僚の藤井氏の官房副長官起用も連動しており、そのバックに菅首相が信頼する財務官僚が控えていることに疑問の余地はない。
 いまは敵対している野党・自民党内には、かつて与謝野氏を秘書として抱えた中曽根康弘元首相やその長年の友人、渡辺恒雄読売新聞会長が助言者として控えている。菅首相が昨年、財務相を務めた際、ギリシャの財政危機が起き、財務官僚はもはや消費税にしか日本の財政が生き延びる道はない、と菅氏を懸命に説得した。その助言もあった菅首相は与謝野氏に接近したようだ。

 責任取らない民主政権
 大敗した参院選で民主党を指揮していたのは、今回官房長官に起用された枝野幸男氏で、当時は幹事長だった。民主党の大敗は国民から「消費税ノー」を突きつけられたからだが、菅首相は自ら責任を取らず、枝野氏が自分で責任を引き受けて幹事長を辞任した。ところがその次のポストは「幹事長代理」であり、岡田克也現幹事長を支えた。そして半年後のいま、内閣の中枢の官房長官におさまったのだから、民主党内閣における政治責任の取り方には野党ならずとも疑問がわく。
 いずれにしても、この大勢で菅内閣は「超低空飛行」で通常国会はじめ政局を乗り切っていかざるをえない。12日の両院議員総会、13日の民主党内閣では、「親小沢議員」から批判や疑問の声が噴出したが、小沢一郎元代表には1月中にも強制起訴処分が通告される見通しとあって、大きな抵抗勢力になれそうもない。
 むしろ起訴処分が出れば菅首相は改めて小沢氏の離党や議員辞職を要求しかねない。野党側も小沢氏への証人喚問を要求し、再び焦点が小沢氏に向かいそうだ。

 多かった留任
 第二次改造内閣は話題性に富むものの、留任や横滑りが多く、党内の不満をやわらげる効果は少ないと見られる。
▽ 新たに入閣したのは、江田五月法相、与謝野馨経済財政相、枝野幸男官房長官、中野寛政国家公安委員長。ポストの横滑りは海江田万里経済産業相、大畠章宏国土交通相。
▽     留任は片山善博総務相、前原誠司外相、野田佳彦財務相、高木義明文部科学相、細川律夫厚生労働相、鹿野道彦農水相、松本龍環境相、北沢俊美防衛相、自見庄三郎郵政改革相、玄葉光一郎国家戦略相、蓮舫行政刷新相。
▽     党側は安住殉国対委員長が新任。

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