「原発再稼働反対、9条改悪反対、安倍政権打倒。これが、私たちが目指す道だ」。ルポライターの鎌田慧さんが集会の舞台から呼びかけた。6月2日、東京都心で展開された「6・2N0 NUKES DAY(ノーニュークスデイ)」の共同行動では、さまざまな人が、さまざまな訴えに声をからしたが、各会場を回ってみた印象では、そこから全国に向かって発せられた参加者たちの訴えは、この鎌田さんの呼びかけに集約されていたように思えた。
「6・2N0 NUKES DAY(ノーニュークスデイ)」は、2年前の3・11東京電力福島第1原発事故以来、それぞれ別個に脱原発運動を繰り広げてきた「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」「原発をなくす全国連絡会」「首都圏反原発連合(反原連)」の3団体が、初めて共通ロゴを用いて取り組んだ共同行動だった。
3団体が初めて足並みをそろえたのは、原発をめぐる昨今の情勢に3団体が共通の危機感をもつに至ったからだ。昨年暮れの総選挙で自民党が圧勝し、安倍政権が登場すると、にわかに原発再稼働、新規建設の動きが強まった。そのことが、3団体関係者に「今こそ、原発再稼働に反対し、原発ゼロへの転換を求める運動を強めねば」との結束をうながした。
しかも、今回の共同行動の直前には、安倍政権が近くまとめる成長戦略の素案に「原発の活用」を盛り込み、原発再稼働に向けて「政府一丸となって最大限取り組む」と約束することがわかった(5月31日付朝日新聞)。安倍政権の経済政策「アベノミクス」で目指す経済成長には原発が欠かせないという姿勢が鮮明になったわけで、このことが、「N0 NUKES DAY(ノーニュークスデイ)」に影響を与えたように思われた。つまり、私の印象では、各会場で一番目立った訴えは「原発再稼働反対」であった。もちろん、7月に行われる参院選に向けて憲法96条の改定をめぐる論議が盛んになっていることから、「平和憲法を守れ」といった訴えも目立った。
この日、私は、まず、原発をなくす全国連絡会が主催する「原発ゼロをめざす中央集会」の会場である新宿区の明治公園をのぞいた。正午すぎ、広い公園はすでに北海道から沖縄県までの都道府県からやってきた人たちでほぼ埋まっていた。自治労連、国公労連、全印総連、建交労など全労連系労組の組合旗、民医連、医療生協、民主商工会、新日本婦人の会などの団体旗が目立った。主催者発表では1万8000人。
そこから、港区の芝公園23号地へ向かった。着いたのは午後1時30分だったが、すでに「6・2つながろうフクシマ!さようなら原発集会」が始まっていた。会場はおびただしい人々でぎっしり埋まり、中に入れなかった人たちが公園外に溢れていた。自治労、国労、日教組、私鉄総連、JR総連、出版労連などの組合旗のほか、パルシステム生協、各地で脱原発や環境保護、憲法擁護の活動を続ける市民団体・グループの旗やのぼりが目についた。主催者発表では参加者は7500人。
舞台では、いろいろな訴えがあったが、原発が立地する地域で脱原発運動を続けている人たちの訴えは、会場を埋めた人たちの胸を打ったようである。
福井県から来た女性は「恥ずかしい。大飯原発の再稼働を許してしまったから。政府、電力会社は高浜原発も再稼働させようとしている。今度は何としても阻止したい。何が来ようと、私たちは脱原発の運動をあきらめない。原発の存在は私たちの生命に関わっているから。そして、私たちの未来に関わっているから。みんなで原発をなくしてゆきましょう」と述べた。
伊方原発のある愛媛県から参加した女性は「原発はいずれも限界集落の近くに作られている。そして、住民や子どもに放射能をまき散らしている。いわば、原発はへき地の人たちの犠牲の上に成り立っているのだ。こんなことを許していいでしょうか。私たちは今こそ、核と人類は共存し得ないと叫ぶべきです」と話した。
最後に登壇した「さようなら原発1000万署名」呼びかけ人の1人の鎌田慧さんは、こう呼びかけた。
「私たちの運動により、昨年5月5日には日本で稼働中の原発はなくなり、原発ゼロが実現した。が、政府は大飯原発を再稼働させた。しかし、8月になると、大飯原発も停まる。私たちの力で再稼働停止をずっと続けさせよう。安倍政権は財界の利益のために原発を再稼働させようとしている暴走政権である。もはや倫理を失った政権だ。そのうえ、安倍政権は軍備を強化し、憲法9条をなくし、集団的自衛権を容認して、日本を戦争ができる国にしようとしている。それを防ぐのがこの集会である。再稼働反対、9条改悪反対、安倍政権打倒。これが、私たちが目指す道だ」
午後4時。明治公園、芝公園23号地からそれぞれデモ行進をしてきた人たちが、国会議事堂周辺に集まり始めた。反原連が主催する「反原発☆国会大包囲」に合流するためだ。やがて、反原連によって「国会大包囲完成」が発表されると、国会周辺の歩道で夕闇の中をそびえ立つ議事堂を取り巻いていた人たちから、拍手と歓声があがった。反原連によれば、国会包囲参加者は約6万人(警察調べでは2万5000人)とのことだった。
明治公園、芝公園23号地、国会議事堂周辺と回ってみて印象深かったのは、どこも、いわゆる一般市民が多かったことである。明らかに、1人で、あるいは家族、または地域の仲間、職場の同僚と連れだってやって来たと思わせる参加者が多かった。その人たちが掲げるプラカードの文面も、通り一遍のスローガンでなく、脱原発への思いをそれぞれ率直に表現したものが多かったことも印象に残った。
ある初老の女性は「孫はかわいい 原発はこわい」と手書きした小さなプラカードを掲げて国会の周りを1人で歩いていた。そのほか、手作りのプラカードには「原発はイヤだ」「原発推進は私たちの未来を奪う」「海 森 大地 命を守ろう」「ならぬことはならぬ!!・憲法改悪・原発再稼働」「原発ゼロ 全て廃炉に」と書いたものもあった。
どうやら、脱原発を求める思いは次第に市民の心深く浸透しつつあるようだ。
脱原発を目指す団体がこれまで行った行動で最も大勢の人が集まったのは、さようなら原発1000万人アクションでは17 万人(2012年7月16日、東京・代々木公園)、反原連の国会包囲行動では20万人(2012年7月29日)=いずれも主催者発表=とされている。今回の3団体共同行動の参加者はこれらの数字を下回ったが、国民の間ではなお「脱原発」を志向する意思が根強いことをうかがわせた。
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