「前原外相が辞任―菅政権に大きな打撃」

著者: 瀬戸栄一 せとえいいち : 政治ジャーナリスト
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 前原誠司外相が6日夜、在日外国人からの政治献金受領の責任を取って辞任した。菅首相は4日の参院予算委でのこの問題の発覚以後、辞めようとする前原氏を再三、慰留・説得したが、前原氏の辞意は固く辞表を受理、7日朝の定例閣議で辞表受理を決定し、当面、枝野幸男官房長官が外相を兼任することを決めた。後任外相には松本剛外務副大臣か直嶋正行・元経済財政相らの名前が浮かんでいる。

 前原氏は党内の「非小沢」勢力の代表格であるのみならず、菅直人首相が万一、予算関連法案の成立に行き詰まり退陣した場合の後継首相―民主党代表の最有力候補とみなされてきた。

民主党政権が野党攻勢に耐え切れず解散・総選挙を断行する上でも最も人気のあるリーダーとして世論調査などで第一位を占めている。すなわち、「ポスト菅直人」の最有力候補だった。米国政府からの好感度も高かった。

 その前原氏が2011年度本予算案の衆院通過早々に、参院予算委での審議が始まった初日、野党自民党の西田昌司氏(京都選挙区)の追及を浴び、わずか2日後に辞任したのだ。成立の展望が見えない予算関連法案の今後のみならず、菅政権そのものの今後にとって大打撃である。

 ▽クリーンではなかった

 「クリーンで透明性のある政治」こそ菅首相が昨年9月の民主党代表選で対抗馬の小沢一郎氏を批判する上で最も強調したスローガンだった。野党自民党などは菅首相を取り巻く勢力もまた、決してクリーンではないじゃないか、と切り込み、まずポスト菅最有力候補の前原氏の首を刎ねた。

 岡田克也幹事長の主導で、最大の党内の敵である小沢氏を党員資格停止処分の決定によって裁判での無罪判決獲得まで身動きの取れない窮地に閉じ込めたところ、親小沢の新人16人の会派離脱と2011年度予算案採決の欠席という反発を食らった。それでも衆院306議席の与党民主党の支えがあれば16人程度の欠席であれば中心人物の党員資格停止と残る15人に対する厳重注意処分で処理できた。

 ▽連舫、野田両大臣にも飛び火

 だが、4日の参院予算委で西田氏が暴露したカネの問題はそうはいかなかった。西田氏はまず、かつて脱税容疑で起訴された某氏から、前原氏と野田佳彦財務相、連舫・行政刷新担当相の3人が政治献金を受け取っている事実を追及、このうち野田佳彦財務相だけが全額返還したことを答弁したものの、連舫、前原両大臣はまだ調査中で、判明し次第、返却すると答弁した。

 前原、連舫、野田の3閣僚は、いわば菅内閣のスタープレーヤーであり、次期政権や都知事選の有力候補に擬せられる重要閣僚である。そして「某氏」は献金そのものに違法性がなくても、他の脱税事件で起訴されたことのある人物であり、前原氏との親交をとっかかりに連舫、野田両氏に献金したのが真相らしい。

 ▽5万円ずつ5年間に

 前原氏は西田氏が持ち出した在日韓国人女性からの献金暴露に足元を掬われた。辞任決意後の6日深夜の前原前外相の記者会見によれば「在日韓国人の方は中学二年生の時より親交があり、政治を志してからは支援をしてもらっていたが、発覚するまで献金をもらっていることは承知していなかった」という。事実とすれば随分、ずさんな話だ。

 さらに前原氏はこの会見で「(その親交で)職務に影響を受けたこともなく、便宜を図ったこともない。だが、外相の地位にある者が外国人献金をもらっていたことは重く受け止めざるを得ない。外国や国民から疑心暗鬼の目で見られ、日本外交の信頼を揺るがせることになれば本意ではない」と説明。

献金の中身については「現時点の調査では2005年から2008年までと2010年に各5万円を受領、04年と09年には受領していない」とし、「喫緊の問題である予算審議が重要局面に差し掛かっており、国会審議を停滞させるわけにはいかない」と辞任決意の理由を述べた。

 ▽極めて甘い判断

 年5万円といえども、外国籍の人から献金をもらえば政治資金規正法に違反することは政治家として常識である。外相だから禁止されるわけではなく、すべての政治家に適用される禁止条項である。もしその法律条項を前原氏が知らなかったとしたら、将来の総理を目指す資格はないだろうし、「中学2年生のときから親交があった」のに、資金援助を受けていないと思い込んでいたとすれば、極めて甘いといわざるを得ない。

 2005年に当時の民主党代表だった前原氏は側近議員(その後自殺)がつかまされた偽メールに代表自身も騙され、ニセと分かると早期に代表を辞任、交代した。2009年夏に政権交代して国土交通相に任命されると、就任直後の閣議で「矢ツ場ダムの建設中止」を明言、結局、この問題は1年半後のいまも決着していない。

 ▽中国は警戒、米は好意的

 発言はつねに歯切れよく、素早い。その点では度胸満点だ。中国やロシアの行動を批判する際は“明快”そのもので、特に中国指導部は警戒している。半面、米国に対しては特に集団的自衛権の行使について野党時代から平然と前向き発言を繰り返して注目された。外相としての前原氏に米政府が期待したのはこうした度胸の良さからだ。

 脱小沢一郎の代表格として目だったのは、約40人のグループを率い、まだ起訴されていなかった小沢元代表に対しても歯に衣着せぬ批判発言をして平然としていたからだ。前原グループを除けば菅グループ約50人と野田グループ30人あまりでは、約140人の小沢グループに遠く及ばない。民主党内の脱小沢対親小沢の数の争いでも「前原辞任」の影響は小さくない。(了)

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