12月26日の安倍首相の突然の靖国参拝は、今年最大の衝撃的なニュースとなった。
中国・韓国の怒りは当然として、アメリカの「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに失望している」とのコメントは、問題の深刻さを端的に示している。
日本経済新聞も「本人の強い意向によるものだろうが、内外にもたらすあつれきはあまりに大きく、国のためになるとはとても思えない。」と痛烈に批判し、さらに経済界の声を代弁して「アベノミクスでも掲げた『アジアの成長力を取り込む』という方針に自ら逆行するのか。経済界には首相への失望の声がある。」と、対中国市場戦略の挫折を懸念する(2013年12月27日社説)。
安倍首相の靖国参拝は、この一年間の、「自衛隊の尖閣防衛シフト」「防衛大綱みなおし」「武器輸出三原則の見なおし」「特定秘密保護法」「国家安全保障会議(日本版NSC」「解釈改憲による集団的自衛権の行使」等一連の「普通の国、つまり戦争のできる国」に向けての「憲法改正の先取り」のこれ見よがしの宣言というだけではない。これは、安倍首相がその心中に暖めてきた「世界戦略」のぶち上げとみることができる。しかも、そのやり方が、連立与党(公明党)の反対を一蹴し、政権中枢の合意も取り付けることなく、外交的に考えればいまもっともしてはならない首相の靖国公式参拝という行為をもって行った。大胆にして挑発的な政治的フォーマンズで、これはある。
安倍首相による「戦略転換」とは何か?
まず、対中国戦略である。
歴史問題を解決して中国との政治的和解を実現し、世界第二の経済大国となった中国経済との関係強化に日本資本主義の将来を展望する。これが2000年以来の日本の保守革新を問わぬゆるやかな合意であったと言える。
安倍「世界戦略」は、中国重視からASEAN重視――ASEANをバックに中国に対抗する――への転換である。安倍政権発足から一年、安倍首相はASEAN諸国を歴訪し、12月には日本にASEAN諸国を招いた。
経済的には「ASEAN+3(日中韓)のアジア経済圏の構築」という路線から、「ASEAN+日が中国に対抗する」路線に転換する。その背景には、中国の人件費高騰と政治的リスクによる、日本企業のASEAN進出の増大がある。
それと連動し、かつより重要なのは、対米戦略の転換である。
「日米同盟が基軸」とは、戦後、冷戦体制に日本が組み込まれて以来変わらぬ保守政権の世界戦略である。ソ連が崩壊し、中国が改革開放経済に移行し、アメリカの力が弱体化してもなお、外務官僚と自民党は、日米安保同盟にしがみついている。そこから沖縄の苦難、TPPによるアメリカ的経済ルールの押しつけが起きる。
安倍政権も、その発足以来ことあるごとに「日米同盟が基軸」を唱えてはきた。だが、口では「日米同盟重視」を言いながら、同時にアメリカの神経を逆なでする言動を繰り返してきた。「村山談話の改訂が必要」、「慰安婦問題は解決済み」、「極東裁判は戦勝国の裁判」…。その結果、オバマ大統領との日米首脳会談も、政権発足後1年半近く先延ばしされた。イギリス、フランスなどヨーロッパからも「アベの国家主義・軍国主義」への懸念が頻々と届く。
靖国参拝は、安倍首相が敢えて米欧の懸念を払拭するのではなく、開き直ったと見られても仕方ない。開き直って、何をしたいのか?「国権の発動としての戦争」が憲法によって禁ぜられている国家から、その制約を外して「普通の国」にする。それは国際政治的には、日米同盟依存体制、つまり国家主権の防衛を他国に任せている「半国家」の状態からの脱皮――主権国家としての自立である。国家主権を自らの軍事力によって守る。これが安倍首相の「日本を取り戻す」である。
日米安保への依存体制からの脱皮は、それ自体は好ましいことであり、むしろ日本の将来にとって不可欠のことである。
問題は対米依存からの転換が「自前の軍事力強化」(核武装が必要という声もある)に向かうのか、「非武装中立の平和国家」に向かうのか、である。
靖国参拝で中国・韓国を怒らせたことは、安倍政権の「防衛力強化」のための策戦でもある。中国の軍部は安倍の敵対姿勢を口実に中国軍事力の強化に進む。つい最近「防空識別圏設定」があった。中国の軍事力増強は、安倍政権の防衛強化の口実になる。中国軍部と安倍政権は、互いに利用し合って、軍事力強化を進めてきた。
だが対中国挑発を、アメリカを怒らせてもやることは、「アメリカ依存からの自立」を覚悟しない限りできない。
三番目の戦略転換は、国内政治である。靖国参拝強行は、公明党の反発と維新、みんなの党の賛成を招いた。維新、みんなの党は、その前の特定秘密保護法でも、安倍政権を助けた。改憲に反対する公明党を牽制し、場合によってはその離反もやむを得ぬものとして、維新・みんなとの新与党体制の構築をもくろむ。そんな思惑が、透けて見える。
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