「君が代斉唱時の不起立」は、「わいせつ」「傷害」「公金横領」よりも悪質だというのか-東京高裁永野厚郎判決に怒る

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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敗訴判決の味は、この上なく苦い。一昨日(4月26日)の午後1時30分。東京高裁511号法廷で、弁護団の一人として、東京「再雇用拒否」第3次訴訟で敗訴判決の言い渡しを受けた。

事案は、定年後の再雇用申請に対する拒否を違法と争うもの。卒業式で「君が代」斉唱時に起立しなかったことを理由に「職務命令」違反として懲戒処分を受けた教員は、定年退職後に再雇用を申請しても拒否されるのだ。再雇用希望者は、ほぼ全員が採用されているのだから、再雇用拒否は事実上の解雇に等しい。「君が代斉唱時の不起立者」だけに対する懲戒処分に重ねての不利益。これは、思想差別だ。

最高裁は、「日の丸・君が代」処分を違憲とはしていない。しかし、戒告はともかく減給も出勤停止も、処分対象の行為の悪質性に比較して処分の量定が過酷に過ぎて、著しく均衡を欠くものとして裁量権の逸脱濫用であり、違法と認めている。最高裁の立場は、「君が代斉唱時の不起立は確かに職務命令違反ではあるが、自らの良心の発露としてやむにやまれぬ行為なのだから、法的に何の不利益も伴わない戒告であればともかく、実質的な不利益をもたらす減給や出勤停止の処分は、重きに失して著しく妥当性を欠く」ということなのだ。この理は、当然に定年退職後の再雇用時にも貫徹されなければならない。

都職員の再雇用制度は、定年制導入とセットになったもので、職員の定年時から年金支給開始年齢までの雇用と生計を確保することが主たる目的。だから、処分歴ある者を含めて原則として希望者全員が採用されてきた経過がある。ところが、「日の丸・君が代」処分者なのだ。

東京「再雇用拒否」第2次訴訟(一審原告22名)での結論は、最高裁判例の意を酌むものとなり、一審東京地裁判決(2015年5月)、二審東京高裁判決(2015年12月)とも、君が代斉唱時の不起立を理由とした再雇用拒否は、原告らの「期待権を侵害」し「(都の)裁量権の逸脱濫用で違法」として、東京都に約5370万円の損害賠償を命じた。この高裁判決に対する東京都からの上告受理申立に、最高裁はまだ判断を示していない。

判決のうちの「平等原則違反」の主張に対する部分を引用する。読み易いように段落を付けるが、当該部分全文の引用である。誰が読んでも、「これっておかしい」と同意してもらえると思う。

控訴人(「君が代斉唱時に不起立の教員」)らは,
非常勤教員制度ができた平成19年度から平成26年度までの間に再雇用教員合格者と非常勤教員合格者のうち過去に懲戒処分をされた者は83人であり,争議行為(31件),わいせつ行為(2件),体罰(2件),公金横領(2件)を行って懲戒処分を受けた者であっても,また免職・減給という重い懲戒処分を受けた者であっても,合格しており(甲84の1, 2, 3の1から3の83),特に,都教委は,
①男子児童に対してわいせつ行為を行い,停職3か月の懲戒処分を受けた者,
②親睦旅行の際に女性教諭にわいせつ行為をして停職3か月の懲戒処分を受けた者,
③生徒の登校態度を理由として生徒に暴行を加え,傷害を負わせたことを理由に停職の懲戒処分を受けた者,
④宿泊助成金を不正受給するという公金横領で減給処分を受けた者
のように破廉恥又は明白な犯罪行為を理由に重い停職・減給の懲戒処分を受けた者を合格させながら,自らの思想・良心及び信仰を理由に,本件職務命令に従わなかっただけである控訴人らを不合格にするのは,著しく社会通念に反する
と主張する。

さらに,控訴人らは,
都教委は,地方公務員法37条に違反した争議行為禁止違反の者を非常勤教員に採用しているが,その理由は,公務員の争議行為が,本来,憲法28条に保障された基本的人権であるという側面を有していることから,その行為のみを殊更重大視して,それだけで「勤務成績が良好でない」と判断しなかったものにほかならないところ,不起立行為を法律上禁止した規定は存在しておらず,不起立行為が,思想良心及び信仰の自由の行使であるという側面を有しているにもかかわらず,これを殊更重大視して,採用拒否の理由とすることは,争議行為禁止違反の者と比較して,平等原則に著しく反するものである
とも主張する。

しかし,非違行為に対する評価は,懲戒処分の量定の場合と非常勤教員の採用の場合とでは,考慮、の仕方や裁量の範囲が異なりうることは既に述べたとおりであり,また,非常勤教員の採用の場面で過去の懲戒処分歴の評価に平等原則違反があるか否かの判断に当たっては,懲戒処分の種類,理由及び処分量定を個別に比較するほか,懲戒処分後の期間の経過も考慮に入れる必要があることから,控訴人らが主張する事例をもって,直ちに平等原則に違反するとはいえない。

永野判決の「論理」がお分かりいただけるだろうか。
同判決は、
①児童へのわいせつ行為によって停職3か月の懲戒処分を受けた者
②女性教諭にわいせつ行為をして停職3か月の懲戒処分を受けた者
③生徒に暴行を加え,傷害を負わせたことを理由に停職の懲戒処分を受けた者
④宿泊助成金を不正受給するという公金横領で減給処分を受けた者
⑤争議行為禁止違反で懲戒処分を受けた者
が再雇用されている事実を認めた。それでもなお、君が代不起立者に対しては一律不採用とすることを「平等原則に違反するとはいえない。」というのだ。

これは、「君が代斉唱時の不起立」は、「わいせつ」「傷害」「公金横領」よりも悪質だといっているに等しい。「わいせつ」も「傷害」も「公金横領」も、教員として不適切なことは自明ではないか。「君が代斉唱時の不起立」は、思想や信仰がやむにやまれぬものとしたものであり、教員としての良心の発露でもある。裁判官の憲法感覚が、世間の常識と大きく外れているものと指摘せざるをえない。

永野さんよ。この判決を高校生に向かって説明してみてはどうか。はたして、生徒諸君の納得を得られる自信をお持ちだろうか。私は、あなたのこの判決に、高校生からの合格点は付かないと思う。

「怒るべきときに、泣いていてはならない」とは至言である。落胆せずに、怒りを燃やして前進のエネルギーとしたい。
(2017年4月28日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.04.28より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=8498

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  http://www.chikyuza.net/

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