「国家秘密売り渡し法案」は、廃案に(続)

前稿では、簡単に形式的側面からの欠陥を述べたのですが、本稿では、続編として、「特定秘密保護法案」の売国的側面に焦点を当てたいと思います。

まず、法案の第八条第一項前段です。 其処には、こう書かれています。

「第八条 特定秘密を保有する行政機関の長は、その所掌事務のうち別表に掲げる事項に係るものを遂行するために、適合事業者に当該特定秘密を利用させる特段の必要があると認めたときは、当該適合事業者との契約に基づき、当該適合事業者に当該特定秘密を提供することができる。」

注意すべき点は、ここで云う処の「適合事業者」には、法案の何処を観ても「国籍条項」が無いことです。 従って、外国籍企業であっても、「当該特定秘密を利用させる特段の必要があると認めたときは」は、日本国の国家秘密を「提供」出来る、と云うことです。

しかも、提供の可否は、「特定秘密を保有する行政機関の長」限りで出来るのです。 これでは、国家としての意思決定を単に、一行政庁の長にさせることに他なりません。 仮に、内閣として、また、総理大臣として、一国の国家秘密を単なる企業体に提供しては為らない事態になった場合には、如何なる措置を取られるのでしょうか。 事前に「当該特定秘密を提供すること」に異議を唱えることが出来るのは、第八条第一項後段但し書きにあるとおりに「当該特定秘密を保有する行政機関以外の行政機関の長が当該特定秘密について指定をしているとき」に限られるのです。 法案には、この場合においてのみ「当該指定をしている行政機関の長の同意を得なければならない。」とあるだけです。

日本国として、単なる企業体に、しかも法文上は、外国籍企業も含まれるものであるところ、国家秘密を提供する可否について、余りにも慎重を欠く規定と云わねばなりません。 或いは、こうした条項にしなければならない特段の事由があるのでしょうか。 あるとすれば、多国籍企業との契約締結を頻繁に行う省庁でしょうが、国家の利益よりも多国籍企業の利益を重んじる立場が、当該条項よりは、浮かびあがって来るようです。

前稿でも少し触れましたが、この法案は、本当に、日本の官僚が起案したものなのでしょうか。 日本の省庁で日本の官僚が起案したものであるならば、もっと日本国の利益を重んじる筈です。

同様の条項は、「外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関」について、第九条に置かれています。 日本の国家秘密を、外国の政府又は国際機関に提供するに際しても、一行政庁の長限りで提供の可否を判断し、異議を唱えることが出来るのは、一企業に国家秘密を提供する場合と同じく、「当該特定秘密を保有する行政機関以外の行政機関の長が当該特定秘密について指定をしているとき」に限ると云うのでは、著しく均衡を失した措置と云わねばなりません。 それとも、国家秘密であっても、慎重に検討を加えてその提供の可否を判断出来ない国を念頭に置かれた条項なのでしょうか。

以下の第九条の条項を観れば、分かるとおりに、一企業と外国の政府又は国際機関とを同列に置いた条項には、国家秘密を守る観点からの慎重さが窺えないのです。

第九条 特定秘密を保有する行政機関の長は、その所掌事務のうち別表に掲げる事項に係るものを遂行するために必要があると認めたときは、外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関であって、この法律の規定により行政機関が当該特定秘密を保護するために講ずることとされる措置に相当する措置を講じているものに当該特定秘密を提供することができる。ただし、当該特定秘密を保有する行政機関以外の行政機関の長が当該特定秘密について指定をしているとき(当該特定秘密が、第六条第一項の規定により当該保有する行政機関の長から提供されたものである場合を除く。)は、当該指定をしている行政機関の長の同意を得なければならない。

詰まるところ、私には、この法案は、日本の官僚が、国民の権利を侵すこと無く、国家の秘密を厳守し、国益を守り抜くことを目的に起案したものでは無い、と思えるのです。 各条項から出る裏の意味は、国家の解体と国民の監視のみです。 それは、安倍自民党の云う処の「日本を取り戻す」とは、正反対の意味で、他国が、日本の離反を阻止し属国化を確実にせんとしているようでもあります。 即ち、「日本を我がものに取り戻す」と。 この法案に賛成している保守紛いの政治家は、後世には、売国奴と呼ばれることになるかも知れません。