野田佳彦首相は13日、就任後初の所信表明演説をし、財政再建と経済成長の両立を目指す「日本再生の戦略」を年内に取りまとめる方針を明らかにした。この演説で野田首相は、東日本大震災からの復興と世界的な経済不況という二つの危機の克服に向けた決意を前面に打ち出し、社会保障の財源確保のための増税路線の堅持を掲げ、まず2011年度第三次補正予算案の早期編成に取り組む考えを表明した。
日本再生戦略を中心に重要政策の司令塔を発足させ、「閣僚は一丸となって職責を果たし、官僚は専門家として持てる力を最大限発揮し、与野党は徹底的な議論と対話によって懸命に一致点を見出す」と述べた。この演説で野田首相は過去2年間に鳩山由紀夫、菅直人両首相が繰り返した「政治主導」のスローガンには一言も言及せず、民主党政権が官僚の力をフルに活用する方針に立ち戻ったことを示した。
▽どじょうに触れず
演説は終始、地味な言葉遣いを貫き、わずかに勝海舟の「氷川清話」から引用した「正心誠意」を演説の冒頭と末尾に使い「政治に求められるのはいつの世も正心誠意の4文字。意を誠にして心を正す」と決意を述べた。民主党代表選では盛んに使った「どじょう」内閣には一言も触れなかった。
政策について首相は、原発事故の早期収束を国家の挑戦と位置付けたほか、「福島の再生なくして日本の信頼回復はない」とし、原発被害者への賠償や除染作業を急ぐと強調した。
▽原発再稼働を明言
急激な円高に対して「あらゆる政策手段を講じていく必要がある」とし、緊急経済対策として企業立地を後押しする補助金の拡充に加え、日本企業による海外企業の買収や資源権益の獲得を、それぞれ支援する政策を打ち出した。
他方で、来年夏までの政府のエネルギー基本計画を見直し、「中長期的に原発への依存度を可能な限り引き下げていく」とする一方で「定期点検で停止中の原発は安全確認と地元理解を前提に再稼働を進める」と表明した。菅直人前首相が持ち込んだ「ストレステスト」なる用語は意識的に避けた。
財政状況を「最悪の水準」とし、復興財源は歳出削減と国有財源の売却などで捻出したうえで、経済状況を見極めながら「時限的な税制措置」を多角的に検討するとし、社会保障財源についても「2010年代半ばまでに消費税率引き上げを明記した一体改革に基づいて与野党が協議し、来年の通常国会に法案を提出する」方針を確認した。
▽4日間国会に自公硬化
地味で「正心誠意」を謳った割には、野田首相の演説には具体性が乏しかった。演説を読み上げる本会議では野党席からのヤジが間断なかったが、この猛烈なヤジの背景には臨時国会の会期をわずか「4日間」で打ち切った強引さへの反発があった。訪米や訪中などの外交日程が4日間の理由だが、少なくとも第3次補正予算の編成・成立までは協力姿勢を続けるという自民、公明両党の硬化を呼び覚ました。
具体策を「隠した」まま、与野党の協力・協議を「正心誠意」つづけ、ねじれ国会を打開する、というのが野田戦略と見られるが、果たしてその手法は成功するのか。答えはまだこれから、というところだ。(了)
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