2つの情報をお知らせします(11月5日)
◇ 残念ながら、玄海原発4号機が稼働したため、日本の原発・全54基の
うち、現在43基(80%)が停止、稼働しているのは11基(20%)。
今後、再稼働をみんなの活動で阻止できれば、2012年春頃には全原発
の停止が実現する。
原発なくとも電気はだいじょうぶ(天然ガス、火力、その他)。
今、運転中の11基も早く停めてほしい-地震・余震が心配。
★1.大飯原発3号機のストレステスト
茶番以外のなにものでもなし 新知見も取り入れず
山崎久隆
★2.東京電力巡り株主代表訴訟へ
歴代の経営陣に対し、合わせて1兆1000億円余りを返還要求
★1.大飯原発3号機のストレステスト
茶番以外のなにものでもなし 新知見も取り入れず
たんぽぽ舎 山崎久隆
○ 茶番以外のなにものでもなし
2011年10月27日、ストレステスト第一弾として関西電力大飯原発3号機
の「一次評価結果」が公表された。全体で600ページを超える文章量だが、実
態は薄っぺらいものでしかない。
詳細な分析は今後行うとして、一通り読んでみて感じたことは「茶番劇」。
特にすごいのは津波についてだ。もともと3.11福島第一原発震災を受けての
「緊急対応」として『福島第一発電所の設計津波高さが平成14年評価値(5.
5m)に対し、実際は15m(その差9.5m)であったことから、大飯発電所
の平成14年の評価値(1.9m)に9.5mを足した11.4mまで、緊急安
全対策としてのシール施工を実施済み。』これにどんな根拠があるというのだろ
うか。
福島第一原発(以下フクイチという)と同じ津波波源域に面しているというのな
らまだしも、地理的にも津波波源の地帯構造も全く関係のない若狭湾の原発で、
フクイチの津波波高の差分データにどんな意味があるというのか。論外を通り越
して考え方が壊れている。
さらにフクイチの想定津波高と到達津波遡上高の差分を取り、その値を他の原発
に当てはめるということは、相対的に想定津波波高が低い方が解析後の遡上高も
低くなるので、低い方が結果的に有利になる(裕度が上がる)という結果になる。
本来とは真逆の結果になるわけでそんな解析は聞いたことがない。もっとも、
11.4mに実際には何の意味も無い。最初に津波に襲われることになる海岸の
海水ポンプについてモーター下端の高さが4.65mしかないことに、今回の解
析でも違いは無い。津波により一番最初に最終ヒートシンク(崩壊熱の捨て場)
が、このポンプの損傷で使用不能になることから明らかだからだ。
ところが海水ポンプ使用不能の対策が「電動補助給水ポンプまたはタービン駆動
補助給水ポンプにより、2次系からの原子炉冷却を継続する」などと、その前に
基準地震動Ssのわずか1.8倍程度で使用不能となってしまう程度の脆弱な冷
却システムでの危機回避を想定し、海水ポンプ使用不能でも冷温停止出来ること
になっている。こんなことはフクイチでも失敗しているので、震災経験の共有に
なっていない。そのうえ驚くことに「最終ヒートシンク喪失から燃料の重大な損
傷までの事象の過程において、地震、津波等の外部事象による設備への影響は考
慮しない。」のだそうだ。何処がストレステストなのか、これでは従来の欠陥安
全解析と何ら変わりが無い。
イベントツリー図(73Pの図5-(5)-5 )では、失敗したら炉心損傷に至ると読
み取れるので、それを読み取れと言うことらしい。
○ 繰り返された津波想定の欠陥
「大飯発電所 設計津波高さに関する算定根拠説明資料」によると、津波波源域
については、主に原発に影響を与えた津波は日本海中部地震(1983年5月2
6日秋田県能代市沖!)だという。若狭湾で起きる地震や、太平洋側のプレート
境界の動きで起きる海底活断層の地震により誘発される内陸巨大地震による山体
崩壊など、若狭湾に十数メートルの津波を引き起こした可能性のある原因は何ら
考慮されていない。
歴史地震については、文献調査として『1.羽鳥徳太郎(1984):日本海の歴史津
波、2.国立天文台(2009):理科年表、3.宇佐美龍夫(2003):最新版日本被害
地震総覧、4.羽鳥徳太郎(2010):歴史津波からみた若狭湾岸の津波の挙動歴史
地震第25号、5.渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧、6.気象庁(2007):平
成19年8月 地震・火山月報(防災編)、第1号』を引用したとしているが、
これらはいずれも一次資料ではなく「若狭湾に津波被害があったとは書かれてい
ない」研究者の調査報告である。著者や機関の見解であってイコール歴史的事実
ではない。例えば1586年の天正地震時に若狭湾で巨大な津波が発生したこと
を記述した歴史資料として、研究者ならば誰もが知る「京都吉田社の神主、吉田
兼見の日記、兼見卿記」や宣教師のルイス・フロイスの書いた「日本史」など多
くの一次資料にある若狭湾の津波被害に関する記述は全て「信頼性が無い」とし
て切り捨てているが、その根拠は「内陸地震とされている天正地震が若狭湾で津
波を引き起こすとは考えられない」という、仮定に仮定を重ねた「見解」だけな
のだ。
内陸地震であっても震源域が海底に及べば地形変状により津波は起きるし、地震
に伴う巨大な山体崩壊などが起きればその影響で津波は発生する。そんな例は世
界にいくつもあるし、1792年の雲仙普賢岳噴火に伴う山体崩壊(ただし直接
の噴火が原因かどうかは分かっていない)で対岸の熊本県でも5mの津波被害を
被った「島原大変肥後迷惑」はあまりに有名。地震津波では無い巨大津波の例と
しては、もう一つ1741年の渡島西部大津波は対岸の渡島大島の噴火に伴う山体崩
壊によるものとの調査報告(島村英紀:2005)がある。地震による山体崩壊の例
は、1958年7月9日に米国アラスカ州リツヤ湾で発生した遡上高524mが
史上最高とされている。M7.7の地震に伴って発生した山体崩壊が原因だが、
リアス式海岸の湾は奥行き12キロ、幅3キロであり、湾内の海水が外に逃げら
れない構造だったことが巨大津波に発展した理由だった。では同様にリアス式海
岸が発達している若狭湾はどうだろうか。小浜市のある小浜湾と大飯原発のある
大島半島の間は幅約12キロ奥行き約7キロだ。
形状として湾口が狭く湾内の水が逃げにくい構造であることはよく似ている。若
狭地域においても過去に山体崩壊があったことが知られている。京都と福井県境
の舞鶴市と高浜町の間にある青葉山は、正確な年代は不明ながら大規模山体崩壊
を過去に経験している。しかもその崩壊し流出した岩石の「流れ山」の先には現
在は高浜原発が建っている。
○ 新知見も取り入れず
太平洋側で起きる巨大プレート境界地震は、日本列島を横断する方向にも大きな
応力場を形成し、日本海側と太平洋側を繋ぐ構造線に大きな活動が起きるひずみ
を発生させる。その結果、日本では最も多い東西圧縮応力場で起きる逆断層型で
は無く、地震を起こす可能性はほとんど無いとされてきた、引っ張り応力場で起
きる正断層型の大きな地震を起こすことを考慮しなければならないという知見が、
今回東日本太平洋沖地震の後に誘発されて起きた、福島県いわき市の井戸沢断層
や湯ノ岳断層地震でわかったことだ。ならば、動かないと考えている正断層は、
この種の特殊な環境において活動する断層であり、その際に大きな地盤変状が生
ずると考えなければならない。これについては敦賀原発ともんじゅの直下にある
敦賀断層周辺の破砕帯が、そのような状況下で大きな地震に伴い活動するのでは
ないかと考えられる。大飯原発の付近にもそういう動き方をする断層群があるの
ではないか、そういう視点で再調査をすべきであろう。
また、このストレステストでは津波そのものの破壊力を事実上何にも考慮してい
ない。建屋を水密構造にしたときに津波の破壊力を考慮したかのような記載にな
っているが、その具体例はない。
○ 無視される津波の脅威
フクイチと異なり、若狭湾口にある大飯原発は、周辺に大量の危険物貯蔵施設が
ある。大飯原発にも重油とみられる、大きなタンクが湾口に面して4基ある。こ
れが流されれば原発敷地は大規模火災になる。さらに大量の船舶が航行している
若狭湾に十数メートルの津波が襲えば、コントロールを失った数万トン規模のタ
ンカーやフェリーなどの船舶が大飯原発にぶつかってくる事態も考えなければな
らないだろう。気仙沼や宮古の海がどうなったか、十数メートルの津波に襲われ
ることの真の恐怖はフクイチではなく気仙沼市にある。
○ 無視される警告
地震断層の再調査についても、このストレステストに関しては何一つされていない。
「大飯発電所の基準地震動Ss」の添付 5-(1)-2の図は、2009年に公表され
た「耐震安全性評価の中間報告書」(追補版)と全く同じだった。
例えば熊川断層は陸域の断層だが、さしたる根拠も無く海側のFo-A、B断層
との連動はしないことになっている。全部同時に動けば優にM8クラスになりそ
うな、大飯原発の目の前の断層だ。熊川断層も、想定M7.4程度の揺れを起こ
す断層だとされているが、これとFo-A、B断層と連動させないことで、開放
基板面の揺れは700ガルに止まっている。これを大きく超えることは想定外なのだ。
これらの断層が連動して大きな地震につながるという警告は、既に東洋大学渡辺
満久教授、神戸大学石橋克彦名誉教授から出されている。それは今回も無視された。
○ 最も脆弱な部分が最も重要な装置
この2009年の基準地震動Ssの評価文書(バックチェック中間報告書)に書
かれていた応力と許容値の最小比は「一次冷却管」の1.90だが、今回のスト
レステストではタービン駆動給水ポンプの「1.81」など、厳しい方向に若干
変化したものがある。
このポンプは先の最終ヒートシンク(核燃料崩壊熱の冷却経路)喪失時に唯一の
ヒートシンク(冷却装置)とされているポンプなので、一番脆弱な部分が一番重
要な設備という実態である。他にも1.81またはそれ以下という最低の値にな
っているものに、ホウ酸ポンプ(原子炉後備停止系統の重要設備)、余熱除去ポ
ンプ(冷温停止に重要な設備)、高圧注入ポンプ(ECCSに重要な設備)、格
納容器スプレイポンプ(格納容器保護のための重要ポンプ)などがあり、地震に
よりこれらが全て使用不能になる危険性がある。これを共通要因事故という。こ
の場合、深層防護が機能して安全側に推移するかどうかが問われることになるの
だが、そもそも共通要因事故を想定していないのだからどうしようもない。
1.81以下などというのは、安全余裕はほとんどないから、応力解析条件より
も耐力が落ちる経年劣化や想定の誤りによる応力集中点の変化や地震と同時に発
生する落下物の衝突など別の要因の応力が追加で加われば、簡単に超えてしまう。
許容値と解析値が3以下(安全余裕3倍以下)の装置類は全て地震に耐えられな
いだろうとみるのが妥当な評価だ。
○ 電源喪失の対策も不十分
電源設備対策(全交流電源喪失対策)も、呆れるほど「何もない」。電源車など
緊急対策で追加配備した設備をつなぎ込むカ所を新設したという程度で、それが
電力供給できるから、緊急時対策用冷却装置の運転時間が延び、安全裕度が20
倍までに高まるとしてるが、そんな単純なわけがない。
地震で所内電源設備が全損し、電源回復が実質的に間に合わなかったフクイチの
ケースは教訓にすらなっておらず、開放基板面700ガルを超える揺れ、という
ことは地上ないし電源設備の構造物上では1000ガルを遙かに超える揺れに襲
われることで起きるはずの、所内変圧器の開閉器を含む電源系統に損傷無しなど
あり得ない。少なくても所内開閉所を含む系統は全部使用不能としなければ、ス
トレステストの解析にならない。電源車はメルトダウン前にフクイチにも到着し
ていたのに、系統に繋ぎ込むこともできず、使用できなかったという事実すら考
慮されていないという信じがたいストーリーには言葉もない。
地震動の解析も、その前提となる想定地震も、津波の想定も全部失格。こんなわ
かりやすい落第答案を出した関電の姿勢は徹底して批判されるべきだが、そうい
う視点での報道は今回も見られなかった。
[編集部より]
山崎久隆氏が文中で指ししめしている「大飯原発3号機のストレステスト」の報
告書本文、及び添付文書は以下のサイトからPDFファイルでダウンロードできます。
・発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価(一次評価)に係る報告書の
提出について(関西電力株式会社大飯発電所3号機)
・担 当:原子力安全・保安院 原子力安全技術基盤課
・公表日:平成23年10月28日(金)
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111028006/20111028006.html
★2.東京電力巡り株主代表訴訟へ
歴代の経営陣に対し、合わせて1兆1000億円余りを返還要求
3月の福島第一原子力発電所の事故で、東京電力が巨額の損失を出したのは、
経営陣が安全対策を怠ってきたためだとして、東京電力の株主およそ30人が歴
代の経営陣に対し、合わせて1兆1000億円余りを返還するよう求める株主代
表訴訟を目指すことになりました。
提訴を目指しているのは、東京電力の株主およそ30人です。これらの株主は
「3月の福島第一原発の事故は東京電力の歴代の経営陣が地震や津波などの安全
対策を怠ってきたために起きた」と主張して、過去20年余りの間に役員を務め
たおよそ60人を対象に、総額で1兆1000億円余りを会社に返還するよう求
めることにしています。1兆1000億円という額は、東京電力がことし8月に
明らかにした原発事故による損失の見込み額だということで、会社側が求めに応
じない場合、株主代表訴訟を起こすことにしています。株主代表訴訟になれば、
1兆円を超える請求額は国内では過去最高になるということです。株主の1人は
「経営陣はこれまで、『原発は安全だ』と繰り返してきたが、その結果、取り返
しのつかない事故が起きてしまった。株主総会でも原発の危険性に対する指摘を
受け止めてこなかったので、司法の場で責任を追及していきたい」と話していま
した。これについて東京電力は「まだ内容を把握していないので、コメントでき
ない」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111103/k10013718141000.html
(NHKネット版11月3日付けより抜粋)
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[たんぽぽ舎 編集部より]
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