「小沢氏が代表選出馬を表明―世論は菅首相支持が多数―民主国会議員票では小沢優勢」

著者: 瀬戸栄一 せとえいいち : 政治ジャーナリスト
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 9月14日の民主党代表選に小沢一郎前幹事長が出馬する決意を表明した。低迷を続ける日本の政治にとって、歓迎すべき行動である。

衆院の圧倒的多数に支えられた政権与党の最高責任者に選出されれば内閣総理大臣に指名される。長きにわたり政局の裏工作や衆参国政選挙で有利な戦いを主導してきた小沢氏は、自らは政権のトップに就こうとはせず「ほかのだれか」をトップに擁立し、背後から支えて動かす「闇将軍」に徹し、成功や失敗を繰り返してきた。その小沢氏本人が内閣総理大臣の重責を公然と目指すというのだから、代表選での勝ち負けは別として、歓迎すべきことである。

 小沢氏を迎え撃つのは現職首相であり民主党現代表の菅直人氏だ。最新の世論調査で首相続投を支持されている菅直人氏の弱みは、7月11日投開票の参院選で民主党の大敗を喫したことだ。改選54議席を勝敗ラインに設定したところ44議席しか取れず「完全ねじれ国会」を現出した。政府予算案と条約承認案件を除けば、すべての法案は野党側が一致して反対すれば成立しない。9月14日の代表選で小沢氏に勝ち、それを前提に大勢を立て直す必要がある。

 ▽議員基礎票で小沢氏有利

 小沢一郎氏といえば、選挙の専門家である。自らが名乗りを挙げた民主党代表選で勝利するには、衆参の民主党国会議員412人から何票獲得できるかを綿密に読んだうえで決意したに違いない。このうち約150人が忠実な小沢支持勢力と見られる。国会議員の代表選投票は一人あたり2票ずつに計算するので、おおまかにみて小沢氏は衆参300ポイントの国会議員票を「基礎票」として代表選を戦うことになる。

 これに対し菅直人氏を支える基礎票は自らのグループ約50人(100ポイント)に加えて脱小沢色の強い前原誠司グループ約40人(80ポイント)、野田佳彦グループ約30人(60ポイント)の計240ポイントで、そのまま機械的に足し上げれば小沢氏が明らかに有利である。

 ▽結束固い新人票

 中間的な立場をとってきた鳩山由紀夫グループ約60人(120ポイント)は中心の鳩山前首相がはっきりと「小沢支持」を明言したため、大半が小沢氏に投票しそうだ。そうなると国会議員の小沢支持票は合計420ポイントにのぼり、菅票を2倍近くにまで引き離すことになる。もちろん、かつての自民党派閥とは違って、ひとつのグループが一致結束して投票するとは限らず、国会議員票は実際にはかなり「ばらける」と見られる。

その中で結束が固いのは2007年参院選と2009年衆院選で初めて当選した新人票であり、2007年には小沢一郎代表の戦術(国民生活が第一路線)に乗って当選した。その「恩人」が代表選に出るとなれば、選挙区の空気が「菅続投支持」に傾斜していても小沢氏に投票する可能性が大きい。

▽一般世論は菅続投支持

読みにくいのは地方議員票100ポイントと党友・サポーター票の300ポイントの行方だ。世論調査で判断する限り、圧倒的に菅首相に有利である。

共同通信が8月27、28の両日全国規模で実施した世論調査では9月の民主党代表選で代表に選出されてほしい人物は菅首相が69・9%で、小沢一郎氏の15・6ポイントを大きく上回った。菅内閣支持率も48・1%で、前回世論調査(8月7、8日)よりも9ポイント以上、上昇した。

これを見る限り、小沢氏が代表選出馬を表明したところ、菅内閣支持率が上がったことになり、民主党内に限定せず、全国民的規模では有権者は小沢内閣の誕生を歓迎せず菅首相の続投を望んでいることになる。

▽旧民社、社会票でも有利

ところが、一般世論を代弁するのは、民主党代表選では地方議員100ポイントと党友・サポーターの300ポイントに限られる。仮にこのうちの8―9割が菅首相続投を支持しても、なお小沢氏は国会議員票で対抗して互角の勝負に持ち込める。

小沢氏は自前の150人に加えて旧民社グループ約30人(60ポイント)と旧社会党グループ約30人(同)、羽田孜元首相グループ約20人(40ポイント)にも懸命に働きかけており、この3グループ票の大半から支持を勝ち取りたい考えだ。

▽多数派工作に勝る

代表として3年前の参院選を勝利させ、昨年8月30日の衆院選圧勝を導いた小沢一郎氏は、各グループに属しながらも世論との食い違いに悩む民主党国会議員について、細かいデータを綿密に掌握している。どちらかといえば政策には強いが多数派工作や他党への働きかけの苦手な議員を多く抱える菅支持の各グループは、代表選のような修羅場が苦手の議員が多い。さらに公明党や自民党内の一部に対するパイプは、小沢氏が長年の国会議員生活で網の目のように張り巡らせている。

今後の、少なくとも次の衆院選までの国会は「完全ねじれ」状態である。民主党外の野党勢力の一部と妥協―調整を図らなければ、政権運営そのものが行き詰まりかねない。小沢氏とその勢力は、この点で菅首相支持勢力に勝るパイプを武器にする戦術だ。

▽ヤミからの脱出に意義

にもかかわらず、世論調査における小沢支持が菅支持に比べてあまりにも低いのはなぜか。政治とカネの問題で、小沢氏が検察当局の不起訴を勝ち取りながらも国会の場での説明を一切拒否していること、マスコミとの応対がはなはだしく険悪で「どこで何をしているのか」が見えにくい隠密行動が多すぎること、新人議員には「二度目の当選を最優先」させ政策への発言を封殺していること―などなど、民主主義日本の政治指導者にしては「闇の部分」が多すぎることが大きな原因であろう。

その点からみれば、小沢氏本人が代表選挙で現職首相との「票争い」をすることは、小沢氏が自分のヤミの部分から脱出し、政策を含めてすべてを国民の目に晒す決意を固めたことを意味する。闇将軍は亡き田中角栄元首相ひとりで十分なのである。

まして、代表選で負けた場合の報復に、民主党を分裂させ、政界をごちゃごちゃにかき回すような「暗いエネルギー」もまた、日本の政治の敵とさえ言えるだろう。(了)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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