気が重いのだが、自分なりに総選挙の総括をしておかねばならない。日本国憲法の命運如何という視点からの評価だ。明文改憲の阻止、解釈壊憲の進展への歯止めに、今回総選挙の結果がどう関わるかの評価。
私はいつまで経っても、できた人間にはなれない。些事に動じることなく、将来を展望して楽観するなどという仙人の心境とは無縁で、常に目の前のできごとに一喜一憂するしかない性分。その私の目には、この選挙結果には一喜なく多憂あるのみ。
自公の「大勝」という各紙の大見出しに背筋が寒くなる。改憲発議には改憲派議員の議席数だけがものを言う。衆院の議席総数は465だから、発議に必要な3分の2の議席数は310である。自民の当選者数が284、公明29、与党だけで313議席、またも3分の2超となった。公示前勢力が、自民284公明35だから、与党の議席数が増えたわけではないが、今回は改憲を公約化しての選挙であったし、アベ政権の不支持率が支持率を上回るアベ逆風の中での選挙。それでも、与党で3分の2。
希望(50議席)も維新(11)も、改憲容認政党だから、これを加えると371議席。ほぼ80%になる。
今朝(10月24日)の毎日に、全当選議員に対する政見アンケートの集計が掲載されている。「改憲」賛成者が前回に引き続き82%。九条改正問題に限っても、自衛隊明記賛成54%、国防軍化9%という恐るべき事態。両院の憲法審査会を舞台に、アベ自民の改憲策動が始まるだろう。本格的な衝突が避け得ないことを覚悟しなければならない。
なお、「希望」議員の47%が自衛隊明記賛成で、反対39%と割れているという。
もっとも、大勝した自民党が有権者の圧倒的多数から支持を得ているわけではない。この議席数はけっして民意を反映したものではなく、小選挙区制のマジックの効果ではないか。
「自民党がえた比例得票は33%(有権者比17.3%)なのに、全議席の61%の議席を得たのは、もっぱら大政党有利に民意を歪める小選挙区制がもたらしたものであり、『虚構の多数』にすぎません。」というのが、本日(10月24日)赤旗に発表になった共産党のオフィシャルな見解。この各数字は、前回14年総選挙とほぼ同じもの。前回正確には、自民の比例得票率は33.11%で議席占有率は61.26%。得票に応じた33%の議席でよいのに、現実には全議席数の61%も取っている。その超過分28%分が「虚構の多数」というわけだ。今回も同様に、虚構の下駄履き議席数は実に130に及ぶ。
もっとも、考え方はいろいろある。自民党の小選挙区得票は2672万票で、得票率は48.21%。
ところが小選挙区の獲得議席数は218だから、議席占有率は小選挙区全議席数289の75.43%となる。
この75.43%のうち、比例配分なら48.21%となるべき議席割合の超過分27%は、小選挙区効果による水増し分と言ってよい。これが59議席に相当する。小選挙区だけで59議席が「虚構の多数」となる。
また、総選挙では有権者は各2票(小選挙区票+比例票)をもっている。これを全国の有権者分合計すると、投票総数は1億1180万票となる。この票数で465議席が決められているのだから、自民党の得票(小選挙区票+比例票)は4527万票で得票率は40.72%となる。ところが獲得議席数は284だから議席占有率は61%となる。
この計算方法でも、20%が小選挙区効果による水増し分となる。これが93議席に相当する。
なお、この計算方法で共産党の正当な議席数を計算すると、得票率8.46%相当の比例配分なら39議席を獲得すべきが、現実には12議席に過ぎない。小選挙区効果がマイナスに働き、27議席減となっているのだ。
つまり、小選挙区・ブロック別比例代表併用制の選挙制度を採用の結果、最大党の自民党には93議席のプラス効果を、少数党の共産党には27議席のマイナス効果が生じている。これは不公平の極みではないか。
本来、議会は有権者の意見分布を正確に反映する鏡でなくてはならない。意識的にいびつな鏡を作る小選挙区制であってよいわけがない。アベ一強政治の歪みをもたらした根源はこの小選挙区制にある。世論調査における国民の憲法意識と、議員アンケートの極端な乖離の根源もここにある。
「政治の堕落・腐敗の根源は小選挙区制だ!」「小選挙区制をなくせ!」「国民の意思を正確に反映する国会を作れ!」と言い続けなければならないと思う。
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しかし、選挙制度の改善を待っていては当座の間に合わない。全てを小選挙区の罪として済ませることもできない。自民党の有権者数に対する絶対得票率は概ね25%で推移している。自公の与党合計でも30%程度。それなら、反アベの野党が結束すれば、小選挙区制を反自公側に有利に使える、という発想が出て来る。全野党共闘でなくても、9条改憲反対の野党が結集すれば、相当の選挙区でアベ自民の非立憲派候補に勝つ可能性が開けてくる。
タラ・レバの話だが、「今回の衆院選で野党が候補者を一本化していれば、少なくとも84小選挙区で与党を逆転していた可能性がある」(毎日)、「複数の野党候補(野党系無所属を含む)が競合した「野党分裂型」226選挙区のうち、約8割の183選挙区で与党候補が勝利をおさめた。一方、朝日新聞が各野党候補の得票を単純合算して試算したところ、このうち3割超の63選挙区で勝敗が逆転する結果となり、野党の分散が与党側に有利に働いたことがうかがえる。」(朝日)などと報じられている。
公示以前に進んでいた、民進・共産・自由・社民の共闘の規模は実現しなかったが、市民運動が仲介の労をとり、立憲野党勢力の結集がはかられた。市民と野党の共闘として、政策協定としては7項目の共通政策を確認した。その第1が「九条改正への反対」である。これに、「特定秘密保護法・安保法制・共謀罪法の廃止」「原発ゼロの実現」などが続く。全野党共闘ではないが、立憲野党の共闘は成立した。
さて、この共闘はうまく作動したのだろうか。間違いなく、立憲民主党には利益をもたらした。今回立憲が比例代表で得た得票数1100万票は、前回14年総選挙で民主党が得た970万票を上回っている。減った共産党票160万票の受け皿となった可能性を否定し得ない。
共産党には共闘の直接の利益は見あたらない。67の小選挙区で予定候補を取り下げた。それだけでなく、その地区の野党共闘候補当選のための選挙運動もしている。そうして、自党の得票を減らしたのだ。その結果が、獲得議席数で前回21から12への大幅後退。比例代表得票は、前回606万票(11.4%)から440万票(7.9%)への後退である。結局、「比例だけは共産党」の訴えでは、現実には票が出ないのだ。
私は共産党を一貫して支持してきたが、それは憲法擁護の立場から。明文改憲にも、解釈壊憲にも、ぶれることなく反対を貫く、最も頼りになる存在だからだ。その共産党に実益なく、票も議席も大きく減らす共闘のあり方を、「大義」「大局」から素晴らしいなどと言っていてよいものだろうかと思う。ブレない共産党がしっかりした地歩を固め存在感あってこその、国会内護憲共闘ではないか。
共闘はウィンウィンで、なければならない。共闘参加者にともに利益がなければならない。一方だけが譲って他方だけが受益の関係では、長く続くはずがないと思う。今回、市民連合の総括が、「自党の利益を超えて大局的視野から野党協力を進めた日本共産党の努力を高く評価したいと考えます」と言わざるを得ない事態が、不自然でおかしいのではないだろうか。
http://shiminrengo.com/archives/1954
私の地元でも、共産党が予定していた小選挙区候補者を下ろし、立憲民主党の候補を推した。共産党の活動家がポスター貼りもしたという。そのポスターに、「比例は立憲民主党に」と書き込んであった。これが、正常な共闘のあり方だろうか。将来を見据えた共闘関係を築くためには、共闘参加者全体に相応の利益が実感できるあり方を考えなければならないと思うのだが。
まずは、立憲民主党の国会内での活動のあり方を注目したい。
(2017年10月24日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.10.24より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=9376
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion7058:171025〕