野田佳彦新首相は30日、民主党役員人事を進め、最大の焦点である幹事長に輿石東・参院議員会長(75)を決めた。輿石氏は小沢一郎元代表と近く、「ノーサイド」人事(野田氏)の象徴となる。政調会長には前原誠司前外相(49)を起用、国対委員長に鳩山由紀夫元首相の側近、平野博文元官房長官(62)を充てた。輿石、平野両氏の人事は小沢―鳩山グループの立場への配慮である。
野田新首相は9月2日組閣のスケジュールを念頭に閣僚人事も推進し、大震災復興の目玉となる第3次補正予算の編成を抱える財務相に仙谷由人代表代行(65)か岡田克也幹事長(58)を起用する方向だ。岡田氏については官房長官としての起用をも検討しており、調整が進む。
代表選の決選投票で野田氏勝利に重要な働きをした鹿野道彦農水相(69)については再任、あるいは横滑りの方向だ。菅政権末期に原発対応で力量を示した細野豪志原発事故担当相(40)は再任に加えて環境相兼務を検討中だ。
▽輿石氏の求心力に期待
野田新首相は「しゃにむに働く政治」が目標だとし、輿石氏について「参院をよくまとめ、求心力を持つ。衆院を含む全体をまとめる力がある」と評価。海江田万里候補が否定的な発言をした3党合意(子ども手当て見直しなど)についても、野田氏は「輿石氏は順守を確認した」と言明。
これに対し輿石氏は「党内融和に全力を尽くす」とし、小沢氏の党員資格停止処分の見直しを自らも主張してきたことについても「民主主義のルールとして時機を見て党内で議論されるだろう」と柔軟対応を示唆した。
▽どじょう政治の出所
前原氏の政調会長起用については、野田氏は外国人献金問題もあり、「入閣すれば国会で野党の攻撃に晒される」(党関係者)とし、代表や外相ポストをこなし世論調査で国民的人気の高い前原氏をあえて閣僚兼務からはずした理由を説明した。野田氏は代表選の最中から政調会長を重視し、政策論議を活発化させる考えを繰り返しており、頭の片隅に「前原政調会長」を温めていたとの推測すらある。
話がやや出来過ぎの感があるが、野田氏は早い段階で「輿石幹事長」を構想していた節がある。8月上旬、野田氏は政策説明のため輿石氏の事務所を訪れた際、壁に掛けられたカレンダーに記された相田みつを氏の詩を見ながら「これ、いいだろう」と輿石氏が目を細めた。「どじょうが金魚のまねをしても仕方がない。どじょうらしく泥臭く政治を進める」との相田氏の詩で、野田氏はさっそくその詩を掲載した本を贈り、代表選での演説でも再三、どじょう論を語った。
▽9月半ばに臨時国会召集
これらのエピソードが物語るのは、農家に生まれた野田氏が一見、武骨な「どじょう的」風貌で目立たない政治家のようでありながら、実は周到な準備で代表選での逆転勝利を勝ち取ったらしい意外な側面だ。
通常国会は31日で閉幕。新首相は週内にも組閣を終え、9月半ばに臨時国会を召集、所信表明演説と各党代表質問など論戦に臨む。
1月24日に召集された第177通常国会は途中、3・11大震災を挟みながら70日間延長されて政府提出の法案90本のうち72本が成立。2011年度予算の執行に不可欠の公債発行特例法案を8月26日に成立させて閉幕した。(了)
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