「後方支援だから安全」などあり得ぬ

政府は6月9日、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案について「これまでの憲法解釈との論理的整合性および法的安定性を保たれている」との文書を野党側に提出した。4日の衆院憲法調査会で、長谷部恭男早大大学院教授ら憲法学者3人が「憲法違反」と表明したことへの反論とも受け取れる。

安保法制について安倍晋三首相と中谷防衛相は「集団的自衛権に基づく後方支援だから自衛隊員のリスクはない」と繰り返し強調いているが、そもそも戦闘が始まった場合、戦闘地域と後方支援の区別は通用しない。攻撃を受けた国が、補給路を断つため後方基地を攻撃するに違いない。ホルムズ海峡の機雷除去を行うと言っているが、そのような事態になれば即戦闘地域になるだろう。

「後方支援に限るから大丈夫」一点張りの政府答弁は国民を愚弄するものだ。あれこれ思い巡らしいたところ、9日付朝日新聞夕刊と毎日新聞夕刊に注目すべき論稿が掲載されており、双方の分析に共感した。この二論稿を引用して、「危険なワナ」を考察したい。

自民党の衰弱が生んだ安倍政権の独走

朝日文芸・批評欄に小熊英二氏(歴史社会学者)は「思想の地層」と題する論稿で、「これまでの自民党政権では、世論と乖離した行動をすると、党内抗争というチェック機能が働いた。ところが現在は、それが機能していない。党が弱体化するほど、官邸の力が強くなる。こうした政権は、民意と乖離した政策を強行できる。しかしこれは、いわば『裸の王様』状態である。表面的には強いが、その強さが、実は弱体化のために起きているのだ」と分析いていたが、全くその通りである。

「自衛隊が人を殺す日」

一方、毎日夕刊「特集ワイド」面、米政治学者C・ダグラス・ラミス氏の「自衛隊が人を殺す日」との強烈な見出しが目に飛び込んできた。

「後方支援といえども、自衛隊員が襲撃を受け、敵に銃を向ける可能性がある。自衛隊員が敵を殺し、錯乱したら、米国兵士はこう慰めるはずと予想する。『最初はみんな辛い。でも大丈夫だ。すぐに慣れるから』。(中略)自衛隊が海外で人を殺し、交戦権が復活した時、はっきりします。オオカミが来た!と。

2004年に普天間飛行場の米軍ヘリコプターが沖縄国際大学に墜落した時、米軍は現場を占拠し、拳銃を持った兵士が警護した。沖縄の警察や消防は、現場検証もできなかった。米国は基地を守るためには、基地のすぐ外で暮らす住民にも銃を向けるのです。米国にとって基地を守ることが最優先。米国はこれからも独自の論理で戦争するでしょう。それなのに、日本はどこまでも付き合うのですか」――後方支援の危険性を明快に指摘しており、共感を深めた。

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