初めて見るような「戦場のピアニスト」だった。2003年、封切り時に、地元の映画館で見たはずだった。今回NHKBSで見ることができた。

ドイツナチスのポーランド侵攻で廃墟となったワルシャワの街、崩れた建物に潜んでいたユダヤ人ピアニストの主人公がドイツ将校に見つかり、奇跡的に残されたピアノを弾く場面だけは、覚えていた。でも、イギリス軍やフランス軍の反撃が近いというニュースを聞くも、身に迫るナチスの脅威、残虐な仕打ちに対する両親、弟、妹たちの微妙に異なる恐怖心や心理状態が描かれていたことなどは、あらためて感じ入ったところだった。また、収容所送りとなった家族たちと引き裂かれた後、ピアニストは、ゲットーにピストルなどの秘密裏に持ち込むユダヤ人蜂起の準備にも加担、ゲットー脱出に成功、反ナチスの地下活動をする同志たちのさまざまな支援を受けながら、転々とした逃亡生活に入る。ゲットー蜂起も完全に鎮圧され、ナチスの殺戮を目の当たりにする。同志の支援も断たれ、飢餓に陥り、残骸の中をさまよう場面で、前述のドイツ将校に出遭う場面になるのだった。自らもピアノをたしなむ将校は、ピアニストの演奏に感服、その場を立ち去るが、その後、幾たびか、廃墟の隠れ家に食料を差し入れ、ワルシャワ解放のソ連軍もまじかと別れを告げに来る。

数年ぶりに、瓦礫の中のピアノに向かうシュピルマン。ピアノの左に置かれている缶詰は、瓦礫の中をさまよい、ある台所の戸棚に残っていた缶詰、缶切りがなく、開けられないまま抱え歩いてきたものだった。
ソ連による解放後のポーランドで、ピアニストは音楽活動を続けるのだが、エンドロールで、ピアニストのシュピルマンが2000年に88歳で死去したこと、ドイツ人将校のホーゼンフェルトが1952年にソ連の強制収容所で死去したことが示されるのであった。
監督のポランスキーは、「水の中のナイフ」で知られる奇才とされていたが、みずからもユダヤ系であり、ナチス占領下でゲットーでの過酷な暮らし、収容所行きを逃れたものの転々とし、母は収容所で殺された体験をしている。ピアニストを演じたアメリカの俳優エイドリアン・ブロディの父は、ポーランド系ユダヤ人で、ホロコーストで家族を失った身。母は少女時代、ハンガリー動乱によって、アメリカに逃れてきた難民だったという。フランス、イギリス、アメリカとドイツ、ポーランドの合作で、スタッフ・キャストらの熱量が感じられる作品に思えた。各場面で奏せられるショパンの曲は、音楽に疎い私には、どこかで聞いたような曲といったレベルで曲名も知らなかったのだが、作品を盛り上げていたと思う。
ただ、ポランスキー監督は1977年の、アメリカでの少女強姦事件により、アメリカより逃亡中であって、アカデミー賞の授賞式には立つことができなかった、という。「戦場のピアニスト」の評価と彼の倫理観を考えると複雑なものがある。
さらに、多くの犠牲者を出したユダヤ人によって建国されたイスラエルのガザへの容赦ない爆撃によって瓦礫の街となったリアルな映像とナチスによって廃墟と化したワルシャワの街のシーンは重なる。戦争による破壊と殺戮の絶えない世界で、日本が、自分たちがなすべきことの重要性が問われるのだった。
初出:「内野光子のブログ」2025.10.26より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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