「改憲手続き法・改正法案」は、小手先の修正を施してもなお欠陥法案である。

(2021年5月10日)
今国会は、徹頭徹尾コロナ対策国会に終始するものと思っていたら、コロナ騒ぎのドサクサに紛れて、火事場泥棒さながらに改憲手続法案が動き出し暴走している。これが採決強行ではなく、「与野党合意」で成立しかねない情勢なのだから情けない。
本日改憲問題対策法律家6団体連絡会が、「『日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案』の衆議院憲法審査会における採決に強く抗議し廃案を求める」声明を発表した。
 https://jdla.jp/shiryou/seimei/210510.html
この内容は従前の主張に齟齬もブレもないものなのだが、何がどのように問題となっているのか、少し噛み砕いて説明して、ご理解をいただきたい。

☆現在審議の対象となっているのは、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正法案」である。この法の略称をメディアは「国民投票法」と呼ぶことが多いが、「改憲手続き法」と呼称することが自然でもあり、内容を正確に表してもいる。

☆その「改憲手続き法」は2007年に成立しており、今問題となっているのは、その衆法(衆議院議員提出法律案)の改正法案である。

☆なぜ与党議員が改正法案を提出したのか。2016年に公職選挙法が改正され、その改正公選法との対比で、「改憲手続き法」の欠陥が際だったものになって、07年法のままでは国民投票はできないという認識が一般化したからである。

☆そこで与党議員から、「公選法並び」に揃えるための下記7項目の改正提案がなされた。これが、従前審議対象となってきた「7項目改正案」である。
①名簿の閲覧
②在外名簿の登録
③期日前投票
④共通投票所
⑤洋上投票
⑥繰延投票
⑦投票所への同伴

☆この「7項目改正案」は、2018年6月通常国会に、自・公・維の議員提案で国会提出されたもの。が、以後8国会に渡って審議がストップしたままとなってきた。その最大の要因は、「安倍晋三が総理にいるうちの改憲には絶対反対」という野党の結束であった。

☆その安倍晋三という障害物が退任して、これまで審議の進行に飽くまで反対で足並みを揃えていた野党の一部が妥協して、「7項目改正案」に「付則」を付加する「修正案」を提案した。「付則」の内容は、「改正法施行後3年を目途に、広告規制、資金規制、インターネット規制などの検討と措置を講ずる」というもの。

☆こうして、与野党で対立していた「7項目改正案」への対案として、立憲民主党からの「修正案」が提案され、これに自・公が賛成した。維新は「7項目改正案」に固執して「修正案」を拒否している。

☆「修正案」は、5月6日衆議院憲法審査会において賛成多数で可決。明日(5月11日)衆院本会議で採決される予定と報じられている。

改憲問題対策法律家6団体連絡会は、これまで7項目改正案に対して重大な問題点があると指摘して採決に反対してきたが、審査会で可決された修正案もまた、欠陥法案であると指摘し、明文改憲への途を開くだけの修正案の廃案を求めている。

その主たる理由は以下のとおりである。

(1) 憲法改正国民投票(憲法96条)は、主権者国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の正当性を確保する重要な手続であることから、「修正案」にも通底する、公選法「並び」でよいとする乱暴な議論は憲法上許されない。

(2) 7項目の中には、国民投票環境の後退を招く項目があり、さらに、このままでは国民投票ができない国民が出るなど、違憲の疑いのある欠陥法であって、「修正案」によっても是正されていない。

(3) そもそも改憲手続法は、2007年5月第1次安倍政権当時の強行採決による成立当時から数多くの未解決問題を先送りとされたまま10数年を経たものである。とりわけ国民投票運動の運動資金の規制がなく、CM規制が不十分で、最低投票率の定めがないなど、国民投票の結果の公正を担保しないという致命的な問題点がある。
「修正案」も、けっしてこれらの「国民投票を金で買う」などの根本的欠陥を解決するものではない。この欠陥法案を急ぎ成立させる必要性も正当性も存在しない。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.5.10より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16861

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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