「政治家小沢と市民の戦い―理解に苦しむ強制起訴」

著者: 瀬戸栄一 せとえいち : 政治ジャーナリスト
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 検察当局が二度にわたり「嫌疑不十分で不起訴」の結論を出した小沢一郎民主党元代表は四日、市民が構成する東京第五検察審査会から二度目の「起訴すべきである」との議決を公表され、法律に基づいて強制起訴されることになった。小沢氏は裁判で戦い無実の判決を勝ち取るとの態度を表明したが、裁判の展開や準備に拘束され、相当の長期間、かつてのような「政治力」を発揮するのは無理とみられる。

 自民党はじめ野党各党は予算委での小沢氏に対する証人喚問を要求したほか、自民党の谷垣禎一総裁は「小沢氏の議員辞職」を要求するなど、国会としての対民主党攻撃に乗り出した。一方、民主党側は菅首相や仙石官房長官、岡田幹事長らはそろって「コメントすべきではない」とか「本人の判断すること」(前原外相)などといまのところ「逃げの一手」である。

 ただひとり、民主党内反小沢の急先鋒である牧野聖修国対委員長代理だけは、議決が出された当日夜、早速「離党および議員辞職」を主張し、上司である鉢呂国対委員長から発言の軽率さを注意され、翌五日午後、国対委員長代理を辞任した。いくら反小沢でも民主党内から議員辞職を要求されれば野党の追及に手を貸すばかりだ、との執行部の判断に従ったのだろう。

 ▽牧野氏を更迭、党分裂を避ける

 小沢氏に対し、東京第五検察審査会が二度目の議決で「起訴すべし」を議決すれば強制起訴されることはかねてから分かっていた。九月十四日投開票の民主党代表選でも再三にわたり、同審査会の出方が公然と記者会見などの質問に上がり、小沢氏は強制起訴という事態になっても「私は逃げない」とか「裁判を受けて立つ」などと啖呵を切っていた。その根拠は「強制捜査権を持つ検察官が二度も任意の取調べをした結果、不起訴の結論を出した」というものだ。

 しかし、現実にそういう事態が到来すると、小沢氏を支える親小沢グループは今のところ団結と忠誠心を一層固め、裁判に臨む小沢氏を徹底的に守る構えだ。それだけに牧野氏のようにいくら反小沢とはいえ民主党内から議員辞職まで主張されるとグループは身構える。菅首相ら指導部にとって、そのまま放置すると民主党が分裂含みになりかねない。

 ▽若い市民の姿見えず

 ただでさえ「完全ねじれ国会」で補正予算を成立させるだけでも確固とした見通しすら立っていないところに、小沢氏強制起訴という事態が到来して、野党の攻勢は激化が不可避だ。しかし、国会を軌道に乗せるためには小沢強制起訴について、いつまでも「コメントできない」だけでは打開できない。

 それにしても十一人の第五検察審査会の市民たちが「男性5人、女性6人で平均年齢が30・9歳」というのは、いかにも若い。自ら応募した市民からくじ引きで選ばれたメンバーとされるが、法律の専門家は当然、含まれていない。市民目線で検察の不起訴の結論を点検し、「起訴すべきだ」との結論を出したという。

 ▽代表選当日の議決

 十一人の市民がどのような考えと思想を持ち、一連の再検討で何を発言したのか、すべて秘密のベールに包まれている。しかも議決の結論が出たのが、小沢氏と菅首相が二週間戦ったゴールである九月十四日の民主党代表選の当日だった、というのも偶然というべきか、あまりに芝居がかっており、政局を横目に見ながらの動きと見るのが普通であろう。その議決内容をなぜ「10月4日」にずらして公表したのか、政府当局者ですら疑問を述べざるを得ない謎である。

 ▽水に落ちた犬は叩け

 いずれにしても強制起訴された小沢氏の姿は、代表選で敗北しただけに「水に落ちた犬」のように哀れである。代表選のさ中に小沢氏は「捜査のプロである検察官が二度にわたり任意の事情聴取をして不起訴の結論を出した。だから私にはなにもやましいところはない」とし「それを素人の市民が覆し、起訴相当を議決し強制起訴というのは理解を超える」と再三述べた。この小沢発言は極めて常識的で妥当である。

 議決内容を補足説明する文書の中で、市民たちは小沢氏の秘書を務めた石川知裕衆院議員の逮捕直後の供述にスポットライトを当て、「信頼できる供述」だとし、この石川供述から虚偽報告への小沢氏の「関与」が疑われる、としている。

 担当検事をはじめ検察当局は市民から「小沢氏を不起訴にした捜査は不十分だ」と決め付けられ、裁判に持ち込まれた。仮に裁判が終了し小沢被告に有罪判決を裁判官が下せば、検察当局は最近の大阪地検特捜部に引き続いて、プロの捜査官として天下に恥と無能ぶりを晒すことになる。(了)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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