「日本のこころ」とは、國体思想のことなのだ

今回参院選の勢力関係構図は分かり易い。
右翼アベ自民とこれを支持する公明が改憲勢力を形づくり、左翼リベラル4野党連合が反改憲でこれに対峙する。この両陣営対決のはざまに、おおさか維新という夾雑物が存在するという2極(+α)構造なのだ。

アベ自民が保守ではなく、自身が右翼勢力となっているため、与党をより右へとひっぱる極右政党の存在理由がなくなっている。次世代の党から党名を変えた「日本のこころ」は、そのような極右政党として存在意義を失い、今回参院選で政党要件を失うことになる。次回参院選では消滅の運命にあると言ってよい。

この政党は出自から怪しい。日本維新の会の分裂から、立ち上がれ日本、太陽の党、次世代の党を経ての日本のこころ。この変遷を記憶する人もすくなかろうし、記憶を確認するに値もしない。但し、関わった極右政治家の名前くらいは記憶に留めておこう。石原慎太郎・平沼赳夫・西村慎吾・田母神俊雄・中山成彬…といった面々。

次世代の党が「日本のこころを大切にする党」に党名変更したのは昨年(2015年)12月。「日本のこころ」とは、中山恭子によれば、「穏やかさや誠実さ、良心など、日本人が誰でも持っている精神」なのだそうだが、石原慎太郎・平沼赳夫・西村慎吾・田母神俊雄・中山成彬という面々からの印象は、「穏やかさや誠実さ」などというものではない。「傲慢・不遜・上から目線・差別主義・排外主義・好戦性・遵法精神の欠如・開き直り・老害」などというところではないか。「日本の心」の伝統の中に、そのような悪しき部分のあることを認めざるを得ない。その意味では、適切なネーミングなのかも知れない。

党名変更の理由は、中野正志によれば、「国政選挙でも地方選挙でも次世代の党名が受け入れられなかった厳しい現実がある。党名を一新して新しい気持ちで臨むしかない」というのだ。ジリ貧を党名変更で挽回しようといういかにも姑息なのだが、正直でもある。もっとも、党名変更をめぐっては江口克彦参院議員が「独断強行に進められている事態は民主主義の党運営に反する」と反対し、結局離党した。これも、「日本の心」的なものであろうか。

現在、「こころ」の衆院議員はゼロ。都道府県議会議員も0。参院3(いずれも今回非改選)で、今回参院選では選挙区10,比例区5の立候補者を擁しているが、衆目の一致するところ、1議席の当選も無理であろう。「比例区の得票率2%以上」も絶望で、政党要件を失うことが確実。

以下は、ホームページでの代表就任挨拶の抜粋である。
この度、日本のこころを大切にする党代表を務めることとなりました。石原慎太郎先生、平沼赳夫先生の想いをしっかり受け継ぎ、更に発展させて参ります。
……
自主憲法の制定、安全保障の確立、教育再生、行財政改革、地方分権の推進、社会保障制度の抜本改革など何れも直ぐに取り組まなければならない大きな課題です。これからも新しい「国のかたち」を築く活動を続けて参ります。…日本の国柄、日本人の精神のこもった自主憲法を制定します。
今、「日本のこころ」が失われつつあります。…私たちは、日本が長い歴史のなかで育んできた風俗、習慣、文化に息づく「日本のこころを大切にする」政策を推進し、明るく、温かな社会を創って参ります。

その政策の柱は、「誇りある日本を取り戻そう」というナショナリズム。
Policy 1 日本人の手による自主憲法の制定を
Policy 2 拉致被害者全員の救出を
Policy 3 日本の歴史・文化をいかした政策の実現を

今回参院選挙公約の第1に、「我が党は、長い歴史と伝統を持つ日本の国柄と日本人のこころを大切にした、日本人の手による自主憲法の制定を目指す。」がある。その自主憲法の目玉は次の4点とされている。
1.憲法上の天皇の位置付けを検討
2.国家緊急権に関する規定の整備
3.自衛のための戦力の保持
4.憲法改正の発議要件の緩和

この政党の選挙公約の1丁目1番地に「憲法上の天皇の位置づけ」が出て来ることに驚くべきか、驚かざるべきか。「自主憲法における天皇の位置付けの検討」といえば、現行日本国憲法の「象徴天皇制の見直し」以外にはない。元首化にとどめるのか、統治権の総覧者とするつもりなのか。いずれにせよ、「日本のこころ」とは、結局は天皇を中心とする国民精神のあり方、國体思想を意味するということなのだ。

1丁目2番地が「国家緊急権」規定で、以下「9条改憲」と「96条改憲」。この点は、アベ改憲路線の応援団の役割が意識されている。

こんな前世紀の遺物のごとき政党への支持は、この社会を枯死させかねない。多くの有権者にとってけっしてためにならない。だから心から申しあげる。「およしなさい。日本のこころへの投票など」。

蛇足ながら戯れ歌を献呈する。

こころこそ 心惑わす こころなれ
こころ見据えて 心許すな

こころには 心許すな 票やるな
心してこそ 心なおけれ

心せよ こころがかくす 下心
心尽くして 見抜け心を

(2016年7月3日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.07.03より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=7116

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座

http://wwwchikyuza.net/

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