世界平和七人委が緊急アピール
政府は、現在の日本学術会議を廃止して政府機関でない法人を立ち上げるため、3月7日、「日本学術会議法案」を閣議決定し、国会に提出した。これに対し、世界平和アピール七人委員会は同月19日、「『日本学術会議法案』の廃案を国会に求める!」と題する緊急アピールを発表した。
アピールによると、これまでの日本学術会議は「日本の科学者を代表するボトムアップの組織であり、独立して活動すること」が規定されていた。
ところが、2020年に菅義偉首相によって会員候補者6人に対する任命拒否が行われて以来、政府は任命拒否の理由も明らかにしないまま、政府と自民党は、政府の言いなりになる科学者の組織を求め続けてきた。
アピールは、法案の内容を事細かに分析した結果、「今回の法案は、(日本学術会議を)政府機関でない法人に移行させるといいながら、政府が自ら監視し、活動を統制し管理する「日本学術会議」を設立し、政府の意向に完全に従属する団体に変質させようという意図が明白である」としている。
そして、アピールは「この法案が通れば、日本には科学者の代表としてのアカデミーが存在しないことになる.」と危機感を露わにし、「現行の日本学術会議法廃止の必要性は存在しない。政府がこの法案を撤回しないのであれば、国民の代表である国会が廃案にする以外ない」と訴えている。
世界平和アピール七人委は、1955年、世界連邦建設同盟理事長・下中弥三郎、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法擁護、核兵器廃絶、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは164回目。
現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)、酒井啓子(千葉大学教授)の6氏。
アピールの全文は次の通り。
「日本学術会議法案」の廃案を国会に求める!
世界平和アピール七人委員会
政府は、現在の日本学術会議を廃止して政府機関ではない法人を立ち上げる「日本学術会議法案」を2025年3月7日に閣議決定して、国会に提出した。
これまでの日本学術会議は日本の科学者を代表するボトムアップの組織であり、独立して活動することが規定され、そのために科学者が会員を選考することが法的に明記されてきた。
ところが、2020年の菅義偉首相による会員候補者の任命拒否以来、日本学術会議内外からの多数の抗議にもかかわらず、政府は任命拒否を撤回もせず、拒否の理由の説明もないまま問題点をずらし、政府と自民党は政府の言いなりになる組織を求め続けてきた。
今回の法案では、科学者たちとその周辺の考えや、発足以来の75年を超える活動は完全に否定され、これまで日本学術会議法にあった「平和」、「独立して職務を行う」という言葉はどこにもない。財政的には「経費は国庫の負担とする」とされていたのが、「政府が必要と認める金額を補助することができる」と変更される。国立大学が法人化されてから、運営交付金が削減され続けて、肝心の教育・研究に深刻な支障が出ていることを見れば、学術会議側が必要不可欠な経費だとの結論を出しても、政府は補助金を削減することがありうると考えざるをえない。
法案では、役員は会長と3名以下の副会長と2名の監事だとされている。監事は会員外から首相が任命し、絶大な権限を持つ。会長・副会長には任期があるが、監事は、首相が続けさせるといえば、いつまででも続けることができる。これだけでも科学者を代表する組織とは言えない。会員選考も、新制度発足時からの新会員は、会長と首相が指定する2名が協議して決めていくので、学術会議の自主性は全く認められていない。学術会議の計画・活動は、首相が任命する委員からなり内閣府に置かれる日本学術会議評価委員会が評価し意見を述べることになる。学術会議内にも、会員でないメンバーからなる(会員)選定助言委員会や運営助言委員会が常設されて、会長が総会に活動計画や年度計画や予算などの議案を出すときには事前に「運営助言委員会の意見を聞かなければならない」などの権限を持つことになる。
さらに、法案には異様な「罰則」という章があり、「秘密を漏らした者は、拘禁刑又は罰金に処する」から始まって「罰金」、「過料」の対象がこと細かに規定されている。これまでの活動のどこを見ても、「拘禁刑」などの対象になる活動は存在していない。政府の厳重な監督の下、「学術会議」に何をさせようというのであろうか。
これらの規定は有識者懇談会の「最終報告」よりはるかに厳しく、政府機関でない法人に移行させるといいながら、政府が自ら監視し、活動を統制し管理する「日本学術会議」を設立し、政府の意向に完全に従属する団体に変質させようという意図が明白である。
改めて法案の最初を見ると、第1条に「目的」、第2条に「基本理念」が書かれている。そこには「我が国の科学者の代表機関」だと書かれている。しかし第3条以下には最初の2条を否定する内容が次々に出てくる。法律としての一貫性がなく、目的と基本理念に沿った活動はできない欠陥法案であることは疑いない。
科学者の代表である科学アカデミーの条件を満たさず、法案自体の中に大きな多くの矛盾を含んでいる以上、この法案が通れば、日本には科学者の代表としてのアカデミーが存在しないことになる。
学術会議の発足以来これまで日本学術会議法によって、政府は諮問権を持ち、学術会議は独立した科学者の代表組織として勧告権をもつという対等な関係の下で、学術会議はすべての諮問に誠実に答申し、協力してきた。独立した活動が法的に保証された組織である以上、意見が合わないこともあったことは決して異常ではない。科学者自身による会員選考などを除けば、政府は学術会議の意向に従わなければならないという法律上の義務はないのだから、理由を明らかにすれば学術会議の意向と別の道を選ぶことはこれからもできる。
現行の日本学術会議法廃止の必要性は存在しない。政府がこの法案を撤回しないのであれば、国民の代表である国会が廃案にする以外ない。
初出:「リベラル21」2025.03.20より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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