「普天間基地県外移転『容認』」の小金井市議会陳情について

琉球新報が、「『共産は主義主張優先』 陳情提出書、批判と落胆 小金井市議会「普天間」意見書見送り」という記事を掲載している。

批判されているのは、小金井市議会共産党市議団(4名)の姿勢。当初は「普天間意見書」の陳情要請に賛成だったのに、土壇場で態度を変えたため、採択は見送りとなった。これに「陳情提出者らからは、批判や落胆の声が上がった」というもの。共産党の「硬直した主義主張優先の基本姿勢」を露呈したものという琉球新報の批判ともなっている。

「辺野古新基地建設反対」の陳情なら共産党が躊躇したり逡巡するはずはない。「普天間基地即時返還」の陳情でも同じことだ。問題がやや複雑なのは、当該の陳情が、日米安保の存在を当然の前提とし、米軍基地は全国のどこかに必要という観点から、「普天間の移設先として本土のどこかを検討しよう」と理解されるものであるところにある。

「危険な普天間基地を撤去せよ」「辺野古新基地建設反対」では一致できる野党陣営に、安保を認めるどうか、米軍基地の必要性を認めるかどうか、そして本土を移転先として検討することを認めるのかどうか。という、言わば踏み絵を迫る内容となっている。

ちなみに、本年(2018年)6月25日文京区議会本会議で採択された「『辺野古新基地』建設中止請願」の内容を確認しておきたい。

    請願事項 沖縄の「辺野古新基地」建設の中止を国に求めること。
    請願理由 沖縄にある米軍基地の大部分は、米軍占領下で造られたものです。米軍基地の集中に伴い、婦女暴行などの刑事犯罪が頻発し、加えて、ヘリコプターの墜落事故なども続発しており、沖縄県民の生活・安全が脅かされています。
  このような状況下で、沖縄県民は辺野古の新基地建設に反対しています。
    理由は、
    ①沖縄にとって命の源ともいえる海を埋め立てることは認められない。
    ②米軍基地は日本の防衛のためのものであり、その負担は全国で平等に負うべきである。沖縄だけへの押し付けは差別である。
    ③辺野古新基地は普天間基地の代替だと政府は言っているが、強襲揚陸船の係船護岸や弾薬庫などを備えた新基地であって代替基地ではない。
    などです。
    わたしたちは、この沖縄県民の辺野古新基地建設反対の理由に賛同いたします。また、沖縄県民の反対を押し切っての新基地建設は、地方自治・民主主義の精神にも反すると考えます。これらの理由から、辺野古新基地建設は中止されるべきだと考えます。
    わたしたちのこのような請願の理由にご賛同いただき、下記請願を採択され、政府並びに関係省庁に対して要望書を提出していただけるよう要請いたします。

小金井陳情は、文京請願とは基本的にその構造を異にする。沖縄タイムスの要約が分かり易い。

 陳情は「8割を超える国民が日米安全保障条約を支持しておきながら、沖縄にのみその負担を強いるのは『差別』ではないか」と提起。普天間問題を解決する手順を描く。
 (1)辺野古新基地建設を中止し、普天間飛行場の運用を停止する
 (2)本土の全自治体を普天間代替施設の候補地にする
 (3)米軍基地や代替施設の必要性を国民的に議論する
 (4)必要という結論なら、公正で民主的な手続きで決定
-の4段階を示す。

ちなみに、琉球新報の陳情内容紹介は以下のとおり。

米軍普天間飛行場の県外・国外移転を国民全体で議論し、公正で民主的な手続きを経て決定するよう求める陳情。陳情は、名護市辺野古の新基地建設を直ちに中止した上で、代替施設が必要なら全国の自治体を等しく候補地にして「当事者意識を持った国民的議論を行うこと」を求めている。

この陳情が前面に押し出しているものは、「沖縄差別」であって、「基地撤去」ではない。沖縄への基地集中を、「平等に」本土も負担せよという要求である。少なくともその検討を迫るもの。本土の全自治体を普天間代替施設設置の候補地として議論を始めよ、それを拒否するのは沖縄への差別であり、本土のエゴではないかというのだ。気持ちはよく分かるが、簡単には賛成できない。

ゴミ処理場の建設ならどこかに必要だ。必要だが近隣には歓迎されない施設については、どこにどう建設することが最も公平であるかを真剣に議論しなければならない。しかし、原発や基地建設問題を同列に考えよということには、大きな違和感を禁じえない。議論すべきは平等負担ではなく、その全面撤去への道筋ではないか。少なくとも、全面撤去につながる議論でなくてはならない。

9月20日の小金井市議会総務企画委員会で賛成多数となった陳情は、9月25日の本会議に諮られた。定数24人のうち議長を除く採決の結果、旧民進系や共産などの賛成13、自民などの反対6、公明の退席4で賛成多数となった。

この採決を受けて市議会事務局は陳情内容に基づく意見書案を成文化し、10月5日の本会議で採択予定となった。この時点では、「普天間代替、全国を候補に」と、地元紙は歓迎の記事を書いた。ところが、共産党が態度を変えた。10月5日本会議での採択は見送られ、いま陳情案は宙に浮いたままだ。

琉球新報〈解説〉記事は、この事態を招いた共産党の姿勢を、「国民的議論に逆行」と厳しく批判している。

「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の中止を掲げ、国内全体で議論する必要性を訴えた陳情に伴う意見書提案を小金井市議会は見送った。いったんは陳情に賛成した共産党会派が賛意を翻す異例の事態となったからだ。陳情を採択した議会としての責任も問われる。沖縄の基地負担を自分の事として考える全国的な動きの先駆けとして注目されていただけに、賛成撤回はその流れに逆行していると言わざるを得ない。」

その言い分がまったく理のないものと言うつもりはない。併せて、琉球新報にこんな記事が掲載されている。

「小金井市議会に陳情を提出した米須清真さん(30)は議会の各会派を回って趣旨を説明したほか、委員会審査で陳述し、内容に理解を求めた。1人会派の議員も多く「国政の与野党に系列化されない政治的環境があったことも大きい」と話す。
 米須さんは5年前に小金井市に移り住んだ。基地問題の公正で民主的な解決に取り組む司法書士の安里長従さん(46)とSNSなどで意見を交わし、取り組みに「共鳴していた」という。5月に出版された安里さんらの書籍を読み「東京で暮らすウチナーンチュとして、住んでいる町でできることがある」と陳情の提出を決めた。当初11月に予定されていた知事選に向け政策論争を促す狙いもあった。各会派に説明する中で出会った、ある中道議員とのやりとりが印象に残っている。居酒屋に流れて議論するうち、日米安保を容認するその議員は「沖縄への偏在が差別」と説明する米須さんに次第に同調し、本会議採決でも賛成に回った。」

日米安保を容認する立場からは、「沖縄差別」解消のために、基地の偏在是正の選択は十分にあり得よう。安保容認が国民の総意であれば、賛成撤回は「国民的議論に逆行」とも言えるだろう。しかし、日米安保こそは日本国憲法体系の最大の敵対物であり、平和への脅威の根源であるとする立場からは、「沖縄差別」解消のための普天間基地本土移設を検討という発想はあり得ない。それは、世論調査による安保容認派のパーセンテージで左右される問題ではない。

共闘は、意見の違いを内包して成立する。大同の中に必ず小異がある。しかし、県外移転『容認』ないしは『検討』を、「小異」として陳情採択に賛成するのは無原則というほかはない。せめて共産党くらいは、原理原則を大切に貫いてもらいたい。安保反対派・安保違憲論者にとっては、この件は無理な踏み絵というほかはないのだから。

また、仮に普天間の移転先を県外としたところで、移転先での反対運動が必ず生ずる。「普天間即時返還」「辺野古反対」を追求することこそが筋でもあり、運動論としても現実的な目標なのではないだろうか。
(2018年10月8日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.10.8より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=11263

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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