6月27日に就任したばかりの松本龍復興対策担当相が就任後わずか9日間に連放したた放言の責任をとって7月5日に辞任、菅首相は後任に復興担当副大臣の平野達男参院議員を昇格させ任命した。既に自らも退陣を表明している菅直人首相は「任命責任」を認めて6日の衆院本会議で陳謝したが、自民、公明両野党はもとより民主党内の菅首相への不信感は頂点に達し、一層の窮地に立たされた。
だが、菅首相は退陣の条件として掲げた第二次補正予算、公債発行特例法案、再生エネルギー買い取り法案の3重要法案の成立をあくまで譲らない姿勢を変えず、野党側は人事の失敗で早期辞任に追い込むための決め手を欠き、8月末の会期切れまでのあと2か月弱、菅首相が粘りに粘る公算は大きい。
▽まず「助けない」発言
それにしても松本龍・前復興担当相の放言連発はひどかった。正気とも思えない傲慢な言動が続き、それでも復興担当という重要ポストに留まる姿勢を貫くかに見えたが、4日夜、ひとり静かに辞任を決意した。
就任翌日の記者会見で「私は3月11日以来、民主党も自民党も公明党も嫌いです」とやけっぱちのような発言をして注目された。これについて松本氏は「被災者に寄り添うことが使命であると言いたかった」(7月1日記者会見)と釈明したが、釈明通り受け取る人は少なく、異様な印象が強かった。
3日に岩手県庁を訪れた松本氏は、激励メッセージが書かれたサッカーボールを達増知事に向かって蹴り「キックオフだ」と叫んだ。知事との会談で「九州の人間だから東北の何市がどこの県とかがわからんのだ」と被災地の東北地方をがっかりさせるような冗談(?)を発し「知恵を出したところは助けますけど、知恵を出さない奴は助けない」と、復興相とは到底思えない放言を放った。
▽自衛隊出身知事を叱る
極め付きは宮城県庁での村井知事との会談。「水産関係でも(知事は被災した漁港を)3分の1から5分の1にすると言ってるけど、県ではコンセンサスをとれよ。そうしないと我々は何もしないぞ」と脅しめいた発言をしたかと思うと、自分より遅れて応接室に入った知事を叱って「お客さんが来るときは自分が入ってからお客さんを呼べ。長幼の序が分かっている自衛隊(村井知事は自衛隊出)ならやるぞ。わかった?しっかりやれよ」と恫喝した。
返す刀で取材陣に向かって「今の最後の言葉はオフレコですよ。書いたら、その社は終わりですから」と言論弾圧的な発言。これらはすべてテレビ・ニュースで放映され、全国民に不快感を与えた。もちろん、神経を逆なでされたのは、被災地でいまだに避難所生活を強いられている住民たちだ。
▽自爆テロの推測も
松本龍氏はかつて部落解放同盟の結成者として旧社会党に所属し参院副議長も務めた松本治一郎氏の孫。父親英一氏も同党の参院議員を務め、孫の龍氏は衆院福岡一区で当選7回。旧社会党時代から親族の経営する建設会社の相談役を務め、旧社会党出身者では突出した資産家。たまたま4日公表された国会議員の所得では全員の中で5位を占めた。
本人は政治家にしてはおとなしい印象が強く、目立たなかったが、今回知事たちを叱りつける姿は「上から目線」そのもので、テレビ視聴者を驚かせた。一部には菅首相が今回の復興担当相の人選にあたり、松本氏以外の民主党政治家に打診し、次々と断られた後に松本龍氏にお鉢が回ってきたことへの不満から「自爆テロ」に走ったとの推測もある。
▽仙谷、安住氏らが固辞
それはともかく、5日に松本氏から辞表を受け取った菅首相は、後任人事について仙谷由人官房副長官や安住淳国対委員長らに次々と打診して固辞され、財政通で復興副大臣の平野達男参院議員を昇格させることで一応の決着をみた。
6月27日の人事そのものが亀井静香国民新党代表のペースに乗って、自民党参院議員ひとりを引き抜くという荒業を受け入れ、民主党内からも猛反発を浴びたばかりだ。このまま粘って条件の3法案成立まで首相の座に居座り続けるつもりの菅首相だが、既に党内実力者たちからも見放されていることが改めて表面化した。
菅降ろしの決め手に欠ける自民、公明両党などが世論の矢が自分たちに向かって飛んでくることを恐れて法案成立に協力する可能性は小さくない。少なくとも8月いっぱいは退陣の屈辱から逃れられるというジレンマが、結果的に菅首相を助けるという「矛盾」は人事の失敗にもかかわらず、残っている。(了)
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