「浜岡原発停止」契機に 自然エネルギー政策の促進を

 「3・11大震災」から2カ月半、出口の見えない混乱がいぜん続いている。大津波の爪あとは徐々に修復されてきたものの、福島第一原発事故による放射能拡散の不安が社会を覆っている。破壊された第一原発4基は廃炉の運命だが、第二原発を含む6基の稼動も危うい状況だ。(結局、福島原発10基全部ダメということ)
 これに加え、全国の原発54基の中で、直下型地震の危険性が指摘されていた中部電力管内の浜岡原発(静岡県御前崎市)は、菅直人首相の要請を受け、3、4、5号機の運転を5月14日までに停止。既に廃炉が決まっている1、2号機を含め浜岡原発5機すべてが操業スップとなった。中部電力は防潮堤などの津波対策を万全にしたうえで、運転を再開したい考えだが、早くても2年後になるとみられる。
 停止要請の具体的理由について、菅首相は5月7日の会見で文科省・地質調査研究推進本部が「30年以内にマグニチュード8程度の東海地震が発生する可能性は87%」と分析していることを根拠にしている。高さ15㍍の防潮堤工事の完成は13年度末の予定のため、完成までは全機ストップに踏み切ったわけだ。まさに〝苦渋の決断〟と言えるが、新聞各紙の評価にニュアンスの差を感じた。『毎日』『朝日』の論調は、3・11原発事故後、原発政策の転換と新エネルギー開発の必要性を訴えており、特に『毎日』4・15社説が浜岡原発の危険性をいち早く指摘し「大災害を転機に、長期的な視点で原発からの脱却を進めたい。既存の原発を一度に廃止することは現実的ではないが危険度に応じて閉鎖の優先順位をつけ、依存度を減らしていきたい。第一に考えるべきは浜岡原発だ。近い将来、必ず起きると考えられる東海地震の震源域の真上に建っている。東海・東南海・南海が連動して、巨大地震・大津波を起こす恐れは見過ごせない」との警告を発していた。その後『毎日』は政治コラム「風知草」(山田孝男・編集委員)は4月18日朝刊で「浜岡源発を止めよ」と鋭く迫り、1週間隔で「原発への警鐘再び」(4・25)「再び『浜岡原発を問う』」(5・2)と書き、菅首相の発電停止要請を受けて「暴走しているのは誰か」(5・9)との問題提起を続けた執念に敬服した。原発推進派と言わないまでも『産経』『日経』『読売』などとの視点の差が歴然と紙面構成に表れたのは稀有なことと思える。互いに、自社の主張を打ち出し、切磋琢磨するジャーナリズムを志向してほしいとの感慨を覚えた。

 「原子力偏重のエネルギー政策」白紙に
 菅首相は5月10日の会見で、「現在54基の原発を2030年までに14基以上増やし、二酸化炭素を出さない原子力など総電力の占める割合を約70%にする」とした2010年決定の「エネルギー基本計画」を白紙に戻し、議論すると表明、「今後は太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーを基幹産業に加えると共に省エネ社会を目指したい」と強調した。原発依存から脱却、エネルギー政策の大転換を国民に約束したわけで、電力に支えられて経済大国を築いてきた国家の将来を危惧する声もまた高まっている。電力不足への対策は、節電を含めて喫緊の課題に違いないが、『産経』(5・10朝刊)のように「原発停止ドミノ危機」との1面大見出しを掲げて菅政権を指弾し、さらに「定期検査を終えた原発を再稼動させよ」(5・13社説)と迫るだけで〝原発依存〟見直し政策を一顧だにしない社論に違和感を覚えた。一方『読売』(5・10社説)は軌道修正したのか、「止むを得ない選択」と控えめだった。
 そもそも原発の耐用年数は30年と言われているが、建設に数千億円もかかるため、検査システムを厳しくして稼動を延長させてきたのが実態だ。福島第一原発1号基は稼動から40年、他の原発老朽化も進んでいる。ドイツのメルケル政権は3月半ば、国内17基の原発のうち1980年以前に運転開始した7基を緊急停止させたが、それに比べても「浜岡停止」は2カ月遅れている。
この点に関し、ドイツ原子炉安全委員会前委員長のザイラー氏は「柏崎刈羽と福島第一原発に対する問題認識を踏まえ、日本政府に他のすべての原発の安全性を再検証することを勧めたい。70、80年代に稼動した古い原発は、大地震に耐えるものでなければならないという認識が十分でないまま設計されたからだ」と警告(『毎日』5・7朝刊)していたが、傾聴に値する。「濃淡に差はあれ、ハイリスクと懸念される原発は浜岡以外にもある。活断層の真上に立つ老朽原発、何度も激しい地震に見舞われた多重ストレス原発…。立地条件や過去の履歴などを見極め、危険性の高い原発を仕分けする必要がある。すべての原発をいきなり止めるのは難しい。しかし、浜岡の停止を、『危ない原発』なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい」と、朝日5・7社説が指摘する通りだ。

 長期目標を立て、「老朽原発」を廃炉に
 飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所長)は4月5日、日本記者クラブで「3・11後の原子力・エネルギー政策の方向性」と題する講演を行った。①原発震災の出口戦略②原発震災の教訓化戦略と原子力安全行政の刷新戦略③原子力・エネルギー政策の転換戦略④緊急エネルギー投資戦略――の4点について語ったが、「エネルギー新戦略」に関する示唆に富む問題提起に感銘した。内容の主要点をピックアップして参考に供したい。
「原子力の新増設と、核燃料サイクル事業、これは直ちに停止すべきだ。日本の原子力発電の行方には3つのシナリオがある。
(1)原子力発電は漠然と電力量の30%を賄なっていると思われているかもしれないが、日本の原子力発電所は相当老朽化が進んでいて、今回事故を起こした福島原発はちょうど40年です。通常40年で廃炉することが想定されていて、日本の原子力発電所は、そういう意味では後期高齢者の域に入りつつある。40年でそのまま廃炉していくとなると、長期的には、相当これから原子力の設備容量は下がっていく。
(2)次に今回の地震で影響を受けた後のシナリオとして、福島第一、第二、女川、柏崎刈羽、浜岡、東通について、BWRタイプでなおかつ地震のリスクのある原子炉を直ちに止めて、その他の原発は40年寿命で生かすとすると、原発が賄う電力量は2020年で1700万㌔㍗、10%くらいに落ちる。
(3)もう一つ脱原発の期待に応えて、2020年で原発をゼロにする。この3つのシナリオのうち、一番目のシナリオはなくなったので、残る2つの新しい現実を前提に、これからのエネルギー政策を立てることになる」。

 ヨーロッパ各国の新エネルギー政策
原発の新設、点検後の再稼動の見通しも立たない今、2050年までには「原発ゼロ」の予測が成り立つ。原発依存に執着せず、自然エネルギー開発を目指すのは時代の要請ではないか。ヨーロッパ各国では、風力など自然エネルギーへの政策転換が進んでおり、福島原発災害を教訓に〝安全な電力〟確保にシフトしている。[パリ=時事電]によると、スペインの送電管理会社REEは3月31日「風力発電の比率が21%に達し、月別で初めて最大の電力供給源となった」と伝えている。他の供給源は原子力19%、水力17・3%、ガス火力17・2%、石炭火力12・9%、太陽光2・6%の順で、再生可能エネルギーが45%という。スペインと日本では、経済規模が違うから、単純に比較はできないが、風力発電№1にはビックリした。飯田氏は「既存のエネ政策機関をすべて改革して、新しいエネルギー政策機関として、『総合エネルギー政策会議』を内閣府に設置、なおかつ環境エネルギー庁を設けるべきだ」と提案しているが、10~20年の長期電力計画を策定して、〝脱原発〟を目指すことこそ、重大な政策課題である。既に 米国でも欧州でも「スーパーグリッド」に集中投資している。これは主に高圧直流送電線で自然エネルギーの集中地帯と幹線を結んでいく方式だ。日本でも取り組むべき課題ではないか。
 環境省は4月21日、自然エネルギーを利用する場合、風力発電が最も有効で「最大で原発40基分の発電可能」との試算を発表(『朝日』4・22朝刊)、風の強い東北地方は効率がいいそうだ。同省は、風力発電を含めた自然エネルギーの導入を提案していく方針という。放射能汚染解消や地球温暖化対策として、風力や太陽光に望みを託したい。

(財団法人新聞通信調査会「新聞通信調査会報」2011 年6月号「プレスウォッチング」より許可を得て転載 ――編集部)

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