「無知と無神経と無理解」だけでなく、「無恥・無体・不作法・無分別に無為無策」

長く佐川宣寿が占めていた「時の人」のトップの座。柳瀬唯夫が佐川を襲ってしばらくはその位置を占めていたが、ここ数日福田淳一に一気に抜かれて、その座を明け渡している。いま、財務事務次官・福田淳一こそは、その言動に国民の耳目を集める「セクハラの人」であり、まごうかたなき「THE時の人」である。

財務省は、旧大蔵省以来「省の中の省」「官僚機構中の官僚機構」である。その次官といえば「官僚の中の官僚」にほかならない。その現役トップ官僚のセクハラは、現代日本社会の一断面を雄弁に物語っている。注目すべきは、「次官のセクハラ」のみならず、日本官僚機構のセクハラ告発に対する対応のありかたである。麻生という愚かな大臣が対応を誤ったなどと問題を矮小化してはならない。日本の官僚機構の、あるいは日本政府の体質が露わになっている。これこそが、素の姿なのだ。

2004年に公益通報者保護法が成立したとき、その不十分さを指弾しつつも、私はその法の制定を深い意義あるものとして歓迎した。今の社会に生きる人は、国家と対峙しているだけではない。企業や、官庁や、あるいは地域や家庭にも縛られている。個人の独立は、国家による支配を排除するだけでなく、中間組織からの、とりわけ企業や官庁からの支配を脱することなしには達成し得ない。

個人は、国家と対峙するだけでなく、常に所属する中間組織との緊張関係の中にある。個人が組織の不正義を認識して是正の行動を起こしたとき、あるいは個人が組織から権利の侵害を受けたときには、個人が組織に押し潰される理不尽を防ぐための法のサポートが不可欠なのだ。これは、社会の正義の総和を増大させるためという功利的な問題であるよりは、個人の尊厳という根源的な価値を守るためなのだ。

公益通報者保護法の制定は、そのような問題意識と議論が獲得した小さな成果であり、大きな課題への出発点であった。この問題意識は、すべての弱い個人が強大な組織と向き合うすべての場合に敷衍して考えられる。

今回財務省トップ官僚による省外の女性に対する人権侵害の疑いが生じた。組織は、組織内に人権侵害や不正義があった場合には、これを隠蔽することなく、加害事実を徹底して明らかにしなければならない。強者の不正義こそが、徹底して糺弾されなくてはならないのだ。

このところ、このように考えてはいたものの、私の出番ではないだろうと思っていた。ところが、昨日(4月19日)の赤旗に掲載された角田由紀子さんの談話に、いささかのショックを受けた。

角田さんは、人も知るこの分野での大御所。その人の談話のタイトルが、「無知と無神経と無理解」というのだ。角田さんの指摘の「無知」については、実は私も大同小異。すると、「無神経と無理解」にも該当するのかも知れない。

談話の冒頭は次のとおりである。
「財務省の調査方法には、同省のセクハラ対応への無知と無神経と無理解が現れています。公務員のセクハラ対応については、均等法がセクハラ指針を設けた後の1999年4月から「人事院規則10-10」が実施されており、これに従って処理されています。これは男女雇用機会均等法に基づくものよりも厳しい内容です。この運用についての最終改正は2016年12月1日となっています。これによれば、この規則は、今回の記者のように職員が職員以外の者を不快にさせたときにも適用されます。同規則は、人事院の責務として、各省庁の長がセクハラ防止等のために実施する措置等に関する指導、助言等を行うことを定めており、各省庁の長の責務の内容も具体的に定めています。」

国家公務員の服務規程として、人事院規則が定められていることは常識に属するが、その具体的内容についてはほとんど知らない。セクハラ防止規定として、「男女雇用機会均等法に基づくものよりも厳しい」とは初めて知った。この「人事院規則10-10」を末尾に掲載しておくことにする。そして、実に詳細に規定されたその運用通達の全文も。

私は断言する。麻生も、福田も、この規則や通達を読んだことは、一度たりともないはずだ。

角田さんの談話は、次のように続く。

麻生財務大臣や福田淳一事務次官の人ごとのような弁明からすれば、財務省では、人事院規則が無視されていたのではないかと疑われます。財務省は上から下まで、本気でセクハラ防止に取り組んできていたのでしょうか。高級公務員への疑惑は、この国の政府はセクハラ根絶にどの程度本気であったのかとの疑問を生みます。「女性活躍」のリップサービスの前に、女性の人権確立のためにやるべきことが山積しています。
多くの女性たちの抗議の声は、刻々と集まるネット署名「セクハラ告発の女性に名乗り出ることを求める調査方法を撤回してください!!」に渦巻いています。

法は、弱い立場の者のためにある。組織に比して、個人は弱い。男性に比して女性は弱い。財務省という「官庁の中の官庁」に対峙する女性個人の人権をどう守れるか。法の実効性が問われている。同時に日本の社会の質が、文明の程度が問われてもいる。
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人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)

第1条(趣旨) この規則は、人事行政の公正の確保、職員の利益の保護及び職員の能率の発揮を目的として、セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除のための措置並びにセクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合に適切に対応するための措置に関し、必要な事項を定めるものとする。

第2条(定義)この規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 セクシュアル・ハラスメント他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動
二 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題セクシュアル・ハラスメントのため職員の勤務環境が害されること及びセクシュアル・ハラスメントへの対応に起因して職員がその勤務条件につき不利益を受けること

第3条(人事院の責務) 人事院は、セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する施策についての企画立案を行うとともに、各省各庁の長がセクシュアル・ハラスメントの防止等のために実施する措置に関する調整、指導及び助言に当たらなければならない。

第4条(各省各庁の長の責務) 各省各庁の長は、職員がその能率を充分に発揮できるような勤務環境を確保するため、セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除に関し、必要な措置を講ずるとともに、セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合においては、必要な措置を迅速かつ適切に講じなければならない。この場合において、セクシュアル・ハラスメントに対する苦情の申出、当該苦情等に係る調査への協力その他セクシュアル・ハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が職場において不利益を受けることがないようにしなければならない。

第5条(職員の責務) 職員は、次条第1項の指針の定めるところに従い、セクシュアル・ハラスメントをしないように注意しなければならない。
2 職員を監督する地位にある者(以下「監督者」という。)は、良好な勤務環境を確保するため、日常の執務を通じた指導等によりセクシュアル・ハラスメントの防止及び排除に努めるとともに、セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合には、迅速かつ適切に対処しなければならない。

第6条(職員に対する指針) 人事院は、セクシュアル・ハラスメントをしないようにするために職員が認識すべき事項及びセクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合において職員に望まれる対応等について、指針を定めるものとする。
2 各省各庁の長は、職員に対し、前項の指針の周知徹底を図らなければならない。

第7条(研修等) 各省各庁の長は、セクシュアル・ハラスメントの防止等を図るため、職員に対し、必要な研修等を実施しなければならない。
2 各省各庁の長は、新たに職員となった者に対し、セクシュアル・ハラスメントに関する基本的な事項について理解させるため、及び新たに監督者となった職員に対し、セクシュアル・ハラスメントの防止等に関しその求められる役割について理解させるために、研修を実施するものとする。
3 人事院は、各省各庁の長が前二項の規定により実施する研修等の調整及び指導に当たるとともに、自ら実施することが適当と認められるセクシュアル・ハラスメントの防止等のための研修について計画を立て、その実施に努めるものとする。

第8条(苦情相談への対応) 各省各庁の長は、人事院の定めるところにより、セクシュアル・ハラスメントに関する苦情の申出及び相談(以下「苦情相談」という。)が職員からなされた場合に対応するため、苦情相談を受ける職員(以下「相談員」という。)を配置し、相談員が苦情相談を受ける日時及び場所を指定する等必要な体制を整備しなければならない。この場合において、各省各庁の長は、苦情相談を受ける体制を職員に対して明示するものとする。
2 相談員は、苦情相談に係る問題の事実関係の確認及び当該苦情相談に係る当事者に対する助言等により、当該問題を迅速かつ適切に解決するよう努めるものとする。
この場合において、相談員は、人事院が苦情相談への対応について定める指針に十分留意しなければならない。
3 職員は、相談員に対して苦情相談を行うほか、人事院に対しても苦情相談を行うことができる。この場合において、人事院は、苦情相談を行った職員等から事情の聴取を行う等の必要な調査を行い、当該職員等に対して指導、助言及び必要なあっせん等を行うものとする。

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人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について
(平成10年11月13日職福―442)
(人事院事務総長発) 最終改正:平成28年12月1日職職―272

標記について下記のとおり定めたので、平成11年4月1日以降は、これによってください。

第1条関係
「セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除」とは、セクシュアル・ハラスメントが行われることを未然に防ぐとともに、セクシュアル・ハラスメントが現に行われている場合にその行為を制止し、及びその状態を解消することをいう。

第2条関係
1 この条の第1号の「他の者を不快にさせる」とは、職員が他の職員を不快にさせること、職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること及び職員以外の者が職員を不快にさせることをいう。
2 この条の第1号の「職場」とは、職員が職務に従事する場所をいい、当該職員が通常勤務している場所以外の場所も含まれる。
3 この条の第1号の「性的な言動」とは、性的な関心や欲求に基づく言動をいい、性別により役割を分担すべきとする意識又は性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動も含まれる。
4 この条の第2号の「セクシュアル・ハラスメントのため職員の勤務環境が害されること」とは、職員が、直接又は間接的にセクシュアル・ハラスメントを受けることにより、職務に専念することができなくなる等その能率の発揮が損なわれる程度に当該職員の勤務環境が不快なものとなることをいう。
5 この条の第2号の「セクシュアル・ハラスメントへの対応」とは、職務上の地位を利用した交際又は性的な関係の強要等に対する拒否、抗議、苦情の申出等の行為をいう。
6 この条の第2号の「勤務条件につき不利益を受けること」とは、昇任、配置換等の任用上の取扱いや昇格、昇給、勤勉手当等の給与上の取扱い等に関し不利益を受けることをいう。

第4条関係
1 各省各庁の長の責務には、次に掲げるものが含まれる。
一 セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する方針、具体的な対策等を各省庁において部内規程等の文書の形でとりまとめ、職員に対して明示すること。
二 職員に対する研修の計画を立て、実施するに当たり、セクシュアル・ハラスメントの防止等のための研修を含めること。
三 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が職場に生じていないか、又はそのおそれがないか、勤務環境に十分な注意を払うこと。
四 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合には、再発防止に向けた措置を講ずること。
五 職員に対して、セクシュアル・ハラスメントに関する苦情の申出、当該苦情等に係る調査への協力その他セクシュアル・ハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が職場において不利益を受けないことを周知すること。
2 職場における「不利益」には、勤務条件に関する不利益のほか、同僚等から受ける誹謗や中傷など職員が受けるその他の不利益が含まれる。

第5条関係
この条の第2項の「職員を監督する地位にある者」には、他の職員を事実上監督していると認められる地位にある者を含むものとする。

第6条関係
この条の第1項の人事院が定める指針は、別紙1のとおりとする。

第7条関係
1 この条の第1項の「研修等」には、研修のほか、パンフレットの配布、ポスターの掲示、職員の意識調査の実施等が含まれる。
2 この条の第1項の「研修等」の内容には、性的指向及び性自認に関するものを含めるものとする。

第8条関係
1 苦情相談は、セクシュアル・ハラスメントによる被害を受けた本人からのものに限らず、次のようなものも含まれる。
一 他の職員がセクシュアル・ハラスメントをされているのを見て不快に感じる職員からの苦情の申出
二 他の職員からセクシュアル・ハラスメントをしている旨の指摘を受けた職員からの相談
三 部下等からセクシュアル・ハラスメントに関する相談を受けた監督者からの相談
2 この条の第1項の苦情相談を受ける体制の整備については、次に定めるところによる。
一 本省庁及び管区機関においては、それぞれ複数の相談員を置くことを基準とし、その他の機関においても、セクシュアル・ハラスメントに関する職員からの苦情相談に対応するために必要な体制をその組織構成、各官署の規模等を勘案して整備するものとする。
二 相談員のうち少なくとも1名は、苦情相談を行う職員の属する課の長に対する指導及び人事当局との連携をとることのできる地位にある者をもって充てるものとする。
三 苦情相談には、苦情相談を行う職員の希望する性の相談員が同席できるような体制を整備するよう努めるものとする。
四 セクシュアル・ハラスメントは、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント(人事院規則10―15(妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントの防止等)第2条に規定する妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントをいう。以下同じ。)その他のハラスメントと複合的に生じることも想定されることから、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント等の苦情相談を受ける体制と一体的に、セクシュアル・ハラスメントの苦情相談を受ける体制を整備するなど、一元的に苦情相談を受けることのできる体制を整備するよう努めるものとする。
3 この条の第2項の人事院が定める指針は、別紙2のとおりとする。
4 この条の第3項の「苦情相談を行った職員等」には、他の職員からセクシュアル・ハラスメントを受けたとする職員、他の職員に対しセクシュアル・ハラスメントをしたとされる職員その他の関係者が含まれる。    以 上

別紙1
セクシュアル・ハラスメントをなくすために職員が認識すべき事項についての指針
第1 セクシュアル・ハラスメントをしないようにするために職員が認識すべき事項
1 意識の重要性
セクシュアル・ハラスメントをしないようにするためには、職員の一人一人が、次の事項の重要性について十分認識しなければならない。
一 お互いの人格を尊重しあうこと。
二 お互いが大切なパートナーであるという意識を持つこと。
三 相手を性的な関心の対象としてのみ見る意識をなくすこと。
四 女性を劣った性として見る意識をなくすこと。
2 基本的な心構え
職員は、セクシュアル・ハラスメントに関する次の事項について十分認識しなければならない。
一 性に関する言動に対する受け止め方には個人間で差があり、セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要であること。
具体的には、次の点について注意する必要がある。
(1) 親しさを表すつもりの言動であったとしても、本人の意図とは関係なく相手を不快にさせてしまう場合があること。
(2) 不快に感じるか否かには個人差があること。
(3) この程度のことは相手も許容するだろうという勝手な憶測をしないこと。
(4) 相手との良好な人間関係ができていると勝手な思い込みをしないこと。
二 相手が拒否し、又は嫌がっていることが分かった場合には、同じ言動を決して繰り返さないこと。
三 セクシュアル・ハラスメントであるか否かについて、相手からいつも意思表示があるとは限らないこと。
セクシュアル・ハラスメントを受けた者が、職場の人間関係等を考え、拒否することができないなど、相手からいつも明確な意思表示があるとは限らないことを十分認識する必要がある。
四 職場におけるセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
例えば、職場の人間関係がそのまま持続する歓迎会の酒席のような場において、職員が他の職員にセクシュアル・ハラスメントを行うことは、職場の人間関係を損ない勤務環境を害するおそれがあることから、勤務時間外におけるセクシュアル・ハラスメントについても十分注意する必要がある。
五 職員間のセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
行政サービスの相手方など職員がその職務に従事する際に接することとなる職員以外の者及び委託契約又は派遣契約により同じ職場で勤務する者との関係にも注意しなければならない。
3 セクシュアル・ハラスメントになり得る言動
セクシュアル・ハラスメントになり得る言動として、例えば、次のようなものがある。
一 職場内外で起きやすいもの
(1) 性的な内容の発言関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
② 聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
③ 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」、「もう更年期か」などと言うこと。
④ 性的な経験や性生活について質問すること。
⑤ 性的な噂を立てたり、性的なからかいの対象とすること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① 「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
② 「男の子、女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
③ 性的指向や性自認をからかいやいじめの対象とすること。
(2) 性的な行動関係
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
① ヌードポスター等を職場に貼ること。
② 雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること。
③ 身体を執拗に眺め回すこと。
④ 食事やデートにしつこく誘うこと。
⑤ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
⑥ 身体に不必要に接触すること。
⑦ 浴室や更衣室等をのぞき見すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
二 主に職場外において起こるもの
ア 性的な関心、欲求に基づくもの
性的な関係を強要すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
① カラオケでのデュエットを強要すること。
② 酒席で、上司の側に座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること。
4 懲戒処分
セクシュアル・ハラスメントの態様等によっては信用失墜行為、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行などに該当して、懲戒処分に付されることがある。

第2 職場の構成員として良好な勤務環境を確保するために認識すべき事項
勤務環境はその構成員である職員の協力の下に形成される部分が大きいことから、セクシュアル・ハラスメントにより勤務環境が害されることを防ぐため、職員は、次の事項について、積極的に意を用いるように努めなければならない。
1 職場内のセクシュアル・ハラスメントについて問題提起する職員をいわゆるトラブルメーカーと見たり、セクシュアル・ハラスメントに関する問題を当事者間の個人的な問題として片づけないこと。
職場におけるミーティングを活用することなどにより解決することができる問題については、問題提起を契機として、良好な勤務環境の確保のために皆で取り組むことを日頃から心がけることが必要である。
2 職場からセクシュアル・ハラスメントに関する問題の加害者や被害者を出さないようにするために、周囲に対する気配りをし、必要な行動をとること。
具体的には、次の事項について十分留意して必要な行動をとる必要がある。
一 セクシュアル・ハラスメントが見受けられる場合は、職場の同僚として注意を促すこと。
セクシュアル・ハラスメントを契機として、勤務環境に重大な悪影響が生じたりしないうちに、機会をとらえて職場の同僚として注意を促すなどの対応をとることが必要である。
二 被害を受けていることを見聞きした場合には、声をかけて相談に乗ること。
被害者は「恥ずかしい」、「トラブルメーカーとのレッテルを貼られたくない」などとの考えから、他の人に対する相談をためらうことがある。被害を深刻にしないように、気が付いたことがあれば、声をかけて気軽に相談に乗ることも大切である。
3 職場においてセクシュアル・ハラスメントがある場合には、第三者として気持ちよく勤務できる環境づくりをする上で、上司等に相談するなどの方法をとることをためらわないこと。

第3 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合において職員に望まれる事項
1 基本的な心構え
職員は、セクシュアル・ハラスメントを受けた場合にその被害を深刻にしないために、次の事項について認識しておくことが望まれる。
一 一人で我慢しているだけでは、問題は解決しないこと。
セクシュアル・ハラスメントを無視したり、受け流したりしているだけでは、必ずしも状況は改善されないということをまず認識することが大切である。
二 セクシュアル・ハラスメントに対する行動をためらわないこと。
「トラブルメーカーというレッテルを貼られたくない」、「恥ずかしい」などと考えがちだが、被害を深刻なものにしない、他に被害者をつくらない、さらにはセクシュアル・ハラスメントをなくすことは自分だけの問題ではなく良い勤務環境の形成に重要であるとの考えに立って、勇気を出して行動することが求められる。
2 セクシュアル・ハラスメントによる被害を受けたと思うときに望まれる対応
職員はセクシュアル・ハラスメントを受けた場合、次のような行動をとるよう努めることが望まれる。
一 嫌なことは相手に対して明確に意思表示をすること。
セクシュアル・ハラスメントに対しては毅然とした態度をとること、すなわち、はっきりと自分の意思を相手に伝えることが重要である。直接相手に言いにくい場合には、手紙等の手段をとるという方法もある。
二 信頼できる人に相談すること。
まず、職場の同僚や知人等身近な信頼できる人に相談することが大切である。各職場内において解決することが困難な場合には、内部又は外部の相談機関に相談する方法を考える。なお、相談するに当たっては、セクシュアル・ハラスメントが発生した日時、内容等について記録しておくことが望ましい。

別紙2  セクシュアル・ハラスメントに関する苦情相談に対応するに当たり留意すべき事項についての指針

第1 基本的な心構え
職員からの苦情相談に対応するに当たっては、相談員は次の事項に留意する必要がある。
1 被害者を含む当事者にとって適切かつ効果的な対応は何かという視点を常に持つこと。
2 事態を悪化させないために、迅速な対応を心がけること。
3 関係者のプライバシーや名誉その他の人権を尊重するとともに、知り得た秘密を厳守すること。

第2 苦情相談の事務の進め方
1 苦情相談を受ける際の相談員の体制等
一 苦情相談を受ける際には、原則として2人の相談員で対応すること。
二 苦情相談を受けるに当たっては、苦情相談を行う職員(以下「相談者」という。)の希望する性の相談員が同席するよう努めること。
三 相談員は、苦情相談に適切に対応するために、相互に連携し、協力すること。
四 実際に苦情相談を受けるに当たっては、その内容を相談員以外の者に見聞されないよう周りから遮断した場所で行うこと。
2 相談者から事実関係等を聴取するに当たり留意すべき事項
相談者から事実関係等を聴取するに当たっては、次の事項に留意する必要がある。
一 相談者の求めるものを把握すること。
将来の言動の抑止等、今後も発生が見込まれる言動への対応を求めるものであるのか、又は喪失した利益の回復、謝罪要求等過去にあった言動に対する対応を求めるものであるのかについて把握する。
二 どの程度の時間的な余裕があるのかについて把握すること。
相談者の心身の状態等に鑑み、苦情相談への対応に当たりどの程度の時間的な余裕があるのかを把握する。
三 相談者の主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聴くこと。
特に相談者が被害者の場合、セクシュアル・ハラスメントを受けた心理的な影響から必ずしも理路整然と話すとは限らない。むしろ脱線することも十分想定されるが、事実関係を把握することは極めて重要であるので、忍耐強く聴くよう努める。
四 事実関係については、次の事項を把握すること。
(1) 当事者(被害者及び加害者とされる職員)間の関係
(2) 問題とされる言動が、いつ、どこで、どのように行われたか。
(3) 相談者は、加害者とされる職員に対してどのような対応をとったか。
(4) 監督者等に対する相談を行っているか。
なお、これらの事実を確認する場合、相談者が主張する内容については、当事者のみが知り得るものか、又は他に目撃者はいるのかを把握する。
五 聴取した事実関係等を相談者に確認すること。
聞き間違えの修正並びに聞き漏らした事項及び言い忘れた事項の補充ができるので、聴取事項を書面で示したり、復唱するなどして相談者に確認する。
六 聴取した事実関係等については、必ず記録にしてとっておくこと。
3 加害者とされる職員からの事実関係等の聴取
一 原則として、加害者とされる職員から事実関係等を聴取する必要がある。ただし、セクシュアル・ハラスメントが職場内で行われ比較的軽微なものであり、対応に時間的な余裕がある場合などは、監督者の観察、指導による対応が適当な場合も考えられるので、その都度適切な方法を選択して対応する。
二 加害者とされる者から事実関係等を聴取する場合には、加害者とされる者に対して十分な弁明の機会を与える。
三 加害者とされる者から事実関係等を聴取するに当たっては、その主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聴くなど、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。
4 第三者からの事実関係等の聴取
職場内で行われたとされるセクシュアル・ハラスメントについて当事者間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合などは、第三者から事実関係等を聴取することも必要である。
この場合、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。
5 相談者に対する説明
苦情相談に関し、具体的にとられた対応については、相談者に説明する。

第3 問題処理のための具体的な対応例
相談員が、苦情相談に対応するに当たっては、セクシュアル・ハラスメントに関して相当程度の知識を持ち、個々の事例に即して柔軟に対応することが基本となることは言うまでもないが、具体的には、事例に応じて次のような対処が方策として考えられる。
1 セクシュアル・ハラスメントを受けたとする職員からの苦情相談
一 職員の監督者等に対し、加害者とされる職員に指導するよう要請する。
(例) 職場内で行われるセクシュアル・ハラスメントのうち、その対応に時間的な余裕があると判断されるものについては、職場の監督者等に状況を観察するよう要請し、加害者とされる職員の言動のうち問題があると認められるものを適宜注意させる。
二 加害者に対して直接注意する。
(例) 性的なからかいの対象にするなどの行為を頻繁に行うことが問題にされている場合において、加害者とされる職員は親しみの表現として発言等を行っており、それがセクシュアル・ハラスメントであるとの意識がない場合には、相談員が加害者とされる職員に対し、その行動がセクシュアル・ハラスメントに該当することを直接注意する。
三 被害者に対して指導、助言をする。
(例) 職場の同僚から好意を抱かれ食事やデートにしつこく誘われるが、相談者がそれを苦痛に感じている場合については、相談者自身が相手の職員に対して明確に意思表示をするよう助言する。
四 当事者間のあっせんを行う。
(例) 被害者がセクシュアル・ハラスメントを行った加害者に謝罪を求めている場合において、加害者も自らの言動について反省しているときには、被害者の要求を加害者に伝え、加害者に対して謝罪を促すようあっせんする。
五 人事上必要な措置を講じるため、人事当局との連携をとる。
(例) セクシュアル・ハラスメントの内容がかなり深刻な場合で被害者と加害者とを同じ職場で勤務させることが適当でないと判断される場合などには、人事当局との十分な連携の下に当事者の人事異動等の措置をとることも必要となる。
2 セクシュアル・ハラスメントであるとの指摘を受けたが納得がいかない旨の相談
(例) 昼休みに自席で週刊誌のグラビアのヌード写真を周囲の目に触れるように眺めていたところ、隣に座っている同僚の女性職員から、他の職員の目に触れるのはセクシュアル・ハラスメントであるとの指摘を受けたが、納得がいかない旨の相談があった場合には、相談者に対し、周囲の職員が不快に感じる以上はセクシュアル・ハラスメントに当たる旨注意喚起をする。
3 第三者からの苦情相談
(例) 同僚の女性職員がその上司から性的なからかいを日常的に繰り返し受けているのを見て不快に思う職員から相談があった場合には、同僚の女性職員及びその上司から事情を聴き、その事実がセクシュアル・ハラスメントであると認められる場合には、その上司に対して監督者を通じ、又は相談員が直接に注意を促す。
(例) 非常勤職員に執拗につきまとったり、その身体に不必要に触る職員がいるが、非常勤職員である本人は、立場が弱いため苦情を申し出ることをしないような場合について第三者から相談があったときには、本人から事情を聴き、事実が認められる場合には、本人の意向を踏まえた上で、監督者を通じ、又は相談員が直接に加害者とされる職員から事情を聴き、注意する。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.4.20より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=10236

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion7577:180421〕